お前と相合傘なんて

「今日は付き合ってくれてサンキュな」

 店を出て、街灯だけが灯る住宅街を二人で歩いている。向かう先は、俺の家。
 佐伯が俺を家まで送ると申し出たのだった。
 静かな住宅街に、二つの足音だけが小さく響いている。
「なんか俺、一ノ瀬といると安心するんだよな」
 急に、佐伯がそう言った。いつものおちゃらけた声色とは違う、静かで穏やかな声。
「俺、いつも人に合わせてんの。そうじゃないと、上手く行かないじゃん」
 陽キャの佐伯もきっと、色々大変なんだろう。
「いつも明るくなきゃいけないし、面白くなくても笑わなきゃいけない。皆のイメージ通りの『俺』じゃなきゃ、皆離れていっちゃうだろうなって」
 ふと佐伯が俺を見る。

「でもさ、お前にだけは素見せてもいいかなって思えるんだ」
 はっと息を呑んだ。
 俺にだけは素を見せていいと思える・・・・・・どういう意味だろうか。
「っていうか、お前の前だと上手く繕(つくろ)えないんだ。一ノ瀬と一緒にいると、自然と笑っちゃうしマジで楽しいって思えるしなんつーか・・・・・・心地良い?」
 どういう意味だろうか。
 なぜ佐伯は今。俺にそれを伝えているのだろう。
 自分の心臓の音がやけにうるさい。
「だから、これからも一緒にいてほしいなって」
 佐伯は俺に手を差し伸べた。
 なぜだか、心臓がどくどくと暴れまわっている。押さえつけなければ、どこかへ逃げ出していってしまいそうだ。
 心臓の音と、少し照れたような佐伯の笑顔が、俺の五感のすべてを支配していた。
 手を取れば俺はこの先も、佐伯と『友達』をやっていける。
 隣にいれる。
 
「・・・・・・こちらこそ、これからもよろしく」
 差し出された手を取ると「もう少し嬉しそうにでもしろよ!」と手をギュッと握られる。
 嬉しそうな佐伯を見て、俺も嬉しくなった。
 そう、これで・・・・・・良かったんだ。

 しばらく歩き、俺は二階建ての一軒家の前で立ち止まる。
「・・・・・・じゃ、俺ここだから」
「おう、じゃあな、一ノ瀬」

 手を振りながら去っていく佐伯の歩調が、心なしか遅く見えた。