お前と相合傘なんて

『冗談も大概にしろよ』
 あの日の、殴られたと錯覚するほどの強い衝撃がまだ残っている。
 あいつにとっては、軽い気持ちだったのかもしれない。だがその言葉が、胸の奥を今でも抉(えぐ)る。
 それ以降俺は、必要以上に人と接触するのをやめた。
 誰とも関わらなければいい。静かに目立たないように過ごしていればいい。
 そう思っていた。

 そう思っていたのに――

『よっ、一ノ瀬(いちのせ)』
『一ノ瀬、一緒に昼飯食わねぇ?』
『一ノ瀬はつれねえな。ま、そこがいいんだけど』
 そんな俺に、あいつはずっと話しかけて来る。どんなに冷たくあしらっても、折れる様子もない。流石にしつこい。
 そんなやつは、俺の人生であいつだけだろう。

「なぁ一ノ瀬、今日こそ一緒に飯食おうぜ」
 あぁ俺は、どうしようもなく。
 こいつに、佐伯(さえき)渚(なぎさ)に、狂わされている。