Q.親友のブラコン兄弟から敵意を向けられています。どうすれば助かりますか?

 あ。
 短く声を発すると、優真さんがひとつの店を指さす。子どもたちが何人も集まっているそこは、射的の屋台だった。

「射的あるよ。やる?」

「やる! 茂部くんもやらない?」

「楽しそうだけど、俺こういうの苦手なんだよな……」

 そもそも的に当たらないのだ。前に一度だけ挑戦したことがある。しかし目測が相当下手なのかセンスがないのか、見当違いな方向へ弾が飛んでしまい、大恥をかいた。

「ふふ、なら俺がサポートするよ。陽は?」

「僕は見てるだけで十分です」

 どうやら優真さんは俺の手伝いをしてくれるらしい。なんだろう。一緒に同じ的を打ってくれる、とかだろうか。
 そんなことを話していると、肌の焼けた快活そうな店主が話しかけてきた。

「いらっしゃい! 随分イケメンの兄ちゃんたちが来たね、三人で挑戦する感じかな?」

「いえ、ふたりで。俺はこの子の手伝いをするので」

 ふたりぶんの料金を店主へと渡す。あまりに自然な動作に、目を瞬く。

「え、お金……!」

「俺が無理矢理やらせるようなものだし。……ああ、ええとほら。可愛い弟の前だし、いいカッコさせてよ」

 なるほど。それなら、納得する。だが、楓真が形容しがたい感情を浮かべた瞳をこちらに向けているのは、何故だろう。自分の兄のブラコン加減になんとも言えなくなっているのだろうか。

 手渡される銃は思ったよりも重い。レバーを引き、コルクの弾を詰める。さて、どうしたものか。
 うろ、と景品へ視線を迷わせていると優真さんが楽しそうな声色で聞いてきた。

「何が欲しい?」

「うーん……」

 ゲームソフトなんかは、嘘か誠かはわからないが固定されてるなんて話も聞くし。そうでなくともコルクでは倒す力が足りなさそうだ。はなから取れないものを狙ってしまえば、せっかく優真さんが出してくれたお金も無駄になるだろう。

「あそこのお菓子とか? 俺、あれ結構好きで」

「うん、わかった。じゃあ構えてみてよ」

 よくわからないがそれらしい体勢で銃を構えたとき、後ろから片手が添えられた。どうサポートしてくれるのかと思ったが、こういう形だったのか。


 ……待て、後ろから?



「力、抜いて」


 無理だ。重ねられた手に、緊張から体がこわばる。彼が誘導するまま、標的へと銃が向けられた。

「うん、そのまま……」

 低い声が、耳元で聞こえる。これが彼に惚れている女子なら歓喜で卒倒したのだろうが、俺は別の意味で卒倒しそうだ。なんだ。本当に何が起きているのだ、この状況は。
 狙う時間が嫌にゆっくりに感じられた。もはやこれは永遠に続くのか、と思ってしまうほどに。冷や汗が垂れる。手が震えそうだ。彼の吐息がすぐそばで聞こえて、頭がおかしくなりそうなそのときだった。



「ここ。引いて」



 ぱん。

 不意に発されたひとこと。従うままにトリガーを引いていた。小気味よい音とともに、呆気なく菓子が射抜かれる。恐ろしい程、的確に。ぽとりと落ちた菓子が、俺の姿と何故か重なって見えた。まさか、調子に乗るとお前もこうなるぞという警告だろうか。……考えすぎであることを祈るしかない。

「あ、ありがとう、ございます……」

 硬い声でなんとか礼を言う。
 やけに楽しそうな笑い声が、また耳元で聞こえる。的に当たってご満悦なのだろうか。

「……うん。ふふ……今日は特に調子がいいから、なんでも当たる気がするな」

 そうだ。なんでもというひと言にも、なにか深い意味があるように聞こえるのは、俺の気のせい。考えすぎ。うん、気のせいなんだよな。彼が銃を所持していないことを祈ろう。

「──さ、次は何が欲しい?」

 重ねられた手に、僅かにまた力が篭もる。……まだ、球が残っていることを忘れていた。おれの心臓は、果たして最後まで持つだろうか。
 それから。どうしても拭いきれなかった死への恐怖がぐるぐると頭の中を回ってしまって、それからのことはあまりよく覚えていない。

「兄ちゃん上手いね! ここ潰す気かい、ははは!!」

「わー! ふたりともすっごい! 俺ちょっとくらいしかお菓子とれなかった……」

「いや……ほとんど、っていうか全部優真さんのおかげかな……」

「茂部さん、途中放心してませんでした?」

 図星だ。陽真くんの言葉に曖昧に頷く。
 気づけば、俺は腕の中で菓子の山を築いていた。優真さんが才能を発揮し、百発百中で目的を射抜いていたらしい。


「……ね、茂部くん。俺かっこよかった?」


 後ろから離れた優真さんが、顔を覗き込むようにして聞いてくる。俺──というよりは、弟からどう見えたか気になっているのだろうか。
 彼の射撃の腕が恐ろしくはあったが──男としては、正直憧れるものがある。めちゃくちゃ格好いい。俺も迷いなく引き金を引いて、なんてことない顔で的を撃ってみたい。


「はい。あんな撃てるの、正直憧れます。……楓真もきっと、格好良かったと思ってますよ」


「…………そっか、かっこよかったんだ。ふふ、よかった」


 嬉しそうに彼が笑う。あとは、そのターゲットが俺にならないことをあとは祈るばかりだ。
 菓子は食べきれないので、陽真くんにチョコなどの甘いものを少し分けた。喜色がわかりやすく現れて可愛かった。