Q.親友のブラコン兄弟から敵意を向けられています。どうすれば助かりますか?

「……誰かと付き合いたいなあ」

「へ」
「えっ」
「……は?」

 三者三様に声を出す。共通しているのは、珍しく気の抜けた声を発しているというところだろうか。
 楓真が、おずおずとした様子で口を開いた。

「つ、付き合いたいって……その、そういう意味で?」

「いや、まあそりゃ……恋愛的なやつだよ」

 それ以外にないだろう。改めて言うとなると、少し気恥ずかしい。照れの滲む口調で言えば、陽真くんがため息をついて眉根を寄せる。

「誰かってなんですか。相手は誰でもよくて、付き合えれば満足なんですか」

「うう……そうじゃ、ないけど……」

 鋭い視線と、吐き捨てるような言葉がちくちく胸を刺す。まるでお前は不誠実だと言われたようで、確かにそう考えると否定はできないのかもしれない──と頭がぐるぐるしてきた。
 だって、俺も彼らみたいにナンパには慣れてます、みたいな感じになりたい。顔を真っ赤にして汗を垂らして、あからさまに不慣れな恥ずかしい様を見せたくないのだ。

 あと、単純に──俺を好きだと言ってくれる人が、いてくれたら嬉しい。

「……茂部くんの好きなタイプって、どんな子?」

「え」

 優真さんが、突然尋ねてくる。
 好きなタイプ。好きなタイプとなると──今までの傾向からすると、少し優しくされたらきゅんときてしまっていた。向こうからしても、親切にしただけで俺なんかに惚れられるなんて気持ち悪いだろう。意気地のない自分はそう言い訳して、告白もできなかったけれど。

「ええ、と……優しい子とか?」

「他には?」

 沈黙が、続く。

「……他は、なんだろう。あとはあまり無い、かな……」

 正直、こんな地味な俺を見てくれるだけで嬉しいのだ。そのうえ好きになってくれたら天にも昇る心地だろう。陽真くんの呆れた視線が怖い。

「そ……そっか。具体的にこの子、とかがいるわけじゃないんだ?」

「うん……」

「よかった──」

「……へ、なにが?」

 楓真が胸を撫で下ろす。声に滲んだ安堵の色に、面食らう。俺に好きな子がいないことに、どうして安心するのだろう。
 言うと。楓真は、あ、と声を漏らしてから、わたわた慌てた様子で口を開いた。

「え、あ、あの……茂部くんに彼女ができたら、もう俺と遊んでくれなくなっちゃうかな、と思って!」

「っはは、なんだそれ。要らない心配するなよ」

 なにを不安に思っているかと思えば、そんなことか。楓真との付き合いをやめるわけがない。なにより、今のところ彼女ができる未来も見えないし。

 横の優真さんが余裕ありげに笑った。

「あはは、そっか。結局ああいう──強引に押されたときに慌てちゃうから、慣れたいんでしょう?」

「まあ……そうかも、です」

「なら、俺が慣れさせてあげる。ね?」

「っちょっと、優真兄さん!」

「茂部くんをからかわないで!」

 楓真の言う通り、からかわれている。もしかしたら先ほどの一件で、俺はおもちゃ認定もされたのかもしれない。本気なのに、と明らかに冗談を口にしながら優真さんは笑っていた。これだからモテる男は余裕があるのだ。

「……ちなみに、皆さんの好きなタイプとかって?」

 ふと気になって、質問してみる。兄弟が一番なのは大前提として、女子生徒にとってアイドル敵存在の彼らが恋する相手は、いったいどんな高嶺の花なのか。

「うーん……小動物みたいな可愛い子かな?」

「俺はね、世話焼きな子!」

「……と、年上で。守りたくなるような、人です。頼って欲しいので」

 見事にバラバラだった。仮に居たとしたら、どんな少女漫画の主人公だろう。しかもこの優真さんが褒めるほどに可愛いという好きな子がもしできたのなら、教えて欲しい──なんて思ってしまう。一度見てみたい。だけど、背の小さな愛らしい女子生徒が優真さんの隣にいる図が頭に浮かんだ。
 楓真の相手は──こちらもなんとなく想像がつく。具体的な相手が浮かぶわけではないが、おっちょこちょいな彼をフォローしてくれる優しい子がお似合いだ。
 そして、陽真くん。照れながら言っているところが年相応で可愛らしい。口にしたら冷めた目で見られるから絶対に言わないけれど。彼より年上のお姉さん相手に、頼ってくださいと背伸びをしている陽真くんはきっといじらしいことだろう。

「なんとなく想像がつきますね。好きな人ができたら、教えて欲しいかも」

「もちろん。すぐ会えると思うよ」

 優真さんが返す。つまり、気になる子はいるということだろう。青春していて羨ましい。楓真は笑って、陽真くんは顔を覆っていた。

 そのとき、くう、と小さな音がする。楓真からだった。どうやらお腹が鳴ったようだ。

「あはは、遊んだからお腹すいちゃった。海の家行かない?」

「俺も腹減ったな。何があるか見に行こっか」

 立ち上がった楓真に手を取られ、腰をあげる。焼きそばがいいかな。かき氷も食べたい。想像しただけで俺も腹の虫が鳴いてしまって、楓真は笑った。

「先に席取ってきますね。ゆっくり来てください!」

 座ったままのふたりに声をかける。ひらりと優真さんが手を振った。よし。こういうことでポイントを稼いでいこう。恋愛はもう二の次だ。今年の夏こそ、警戒する相手ではないということを彼らに認識してもらうのだ。

 頑張れ、茂部正人。お前ならやれる──かはわからないが、少しは彼らとの関わりも増えてきたのだ、やるしかない!

 小さく拳を作り。暑い日差しの下、俺は密かに自身を鼓舞した。



 ***




「どれだけ鈍感なんですか!!!」

「俺もびっくり。可愛いね」

「可愛い、ですけど!! ……僕も、もう少し……優真兄さんみたいにしてみようかな……」

「ふふ。じゃあ陽、あの子の腰抱ける?」

「それは……それ、はぁ……」

「ね、あまり無理しないの。……そろそろ楓真たちのとこ行こっか、熱中症になっちゃう。……それにさ、」

「……? はい」

「遊べるのは今日だけじゃないし、いろいろなところに行くんだから。いくらでもチャンスはあるよ」

「……そう、ですね。もっと頑張らないと」