君と私、恋の始まり


【あゆはside】
 まだ頑張れる、まだまだ頑張ろう。
 そう思って努力してきた。
 でも遠いな、井橋くんにはまだまだ届かないかもしれない。
 毎日必死に努力して、話しかけて、連絡して、恋して。
 頑張ることがこんなに大変で、好かれるまでがこんなに長いと思わなかった。
 夏休みが明けるまでまだ頑張ろう。
 少しでも井橋くんに近づけるように。
 夏休みも終盤にさしかかったある日、つむと一緒に近くのカフェに来ていた。
 つむがドリアを食べながら言った。
「私さー、井橋はとっくにあゆのこと好きになってたと思う」
「え、なんで?まだ遠いよー」
「だってさ、井橋あゆの前だとよく喋るし。なんか幸せそうだし?」
「そうだといいんだけどねー」
「あれ、あゆは?」
 斜め上から落ち着いた声が。
「えっ」
 待って、このタイミングで来る⁈
 横を向くと井橋くんが立っていた。
「な、なんでいるの?」
「部活終わって小腹が空いて」
「ちょうどいいし井橋、あゆの隣座りな」
 つむ⁈つむがニヤニヤしながら井橋くんに話しかけた。
「じゃあお邪魔する」
 井橋くん⁈どうしよー!
「井橋、早くあゆの魅力に気づけよー」
「ちょっ、つむ!」
「石口はあゆはと本当仲良いよな」
「いや、お前もな」
 やばい、つむ変なスイッチ入ってる!
「あ、俺ピザにしよう」
「あゆ、あんたもまだなんも食べてないしなんか頼めば?」
「どーしよっかなー」
「ここのピザ多いし半分ずつ食べる?」
「うん、種類どーする?」
 待って、ラブコメ展開すぎる!
「俺こだわりないし決めていいよ」
「じゃあマルゲリータがいい」
「井橋は好きな人いんのー?」
「気になる人なら」
「だれー?何組ー?」
「教えねーよ」
「うわ、つまんな」
 誰かつむの暴走を止めてー!
 ピザを食べ終わってそろそろ帰るかということになった。
「あゆは、ピザ代俺払う」
「えっ、いいよ!割り勘にしよ」
「払いたい気分」
「ついでに私のドリア代も払ってー」
「やだ」
「ケチめ」
「俺このあとボイトレあるからまたな」
「またねー」
「あゆ、公園行こ」
 つむに連れられて近くの公園に来た。
「井橋なんなんだろうね!脈アリなのか思わせぶりなのか!」
 つむの言うとおりだ。
 井橋くんは私にすごくよくしてくれるけど、思わせぶりなのかもとか思っちゃう。
「井橋くん難しいよー」
「あゆ、もっとアタックしなよ」
「無理だよー、努力するので精一杯」
「あゆが攻めないんだったら私がとっちゃうよ、井橋」
「やだ!とったらやだ、私のほうが井橋くんのこと好きだもん!」
「嘘だよー、その気持ちがあるならあゆは大丈夫。頑張れ!」
 その日の夜、12時近くに井橋くんから連絡がきた。
『起きてる?』
「起きてるよー」
「どうしたの?」
『いま暇?』
「うん、暇」
『電話しない?』
 ええー!電話⁈
「いいよ」
 すぐに井橋くんから着信がきて
「もしもし」
『もしもし、話したいことあって』
「うん」
『俺の気になる人さ、B組で元気で明るくて純粋で優しい子』
「当てたい!うーん、つむ?」
『なんでだよ』
「今日も仲良さげに話してたし、井橋くんが女子と話すの珍しいらしいし」
『本当抜けてんな』
「ええ⁈なにが?」
 B組で井橋くんと話しているのはつむくらいしか思い浮かばない。
『あゆはだよ、俺の気になる人』
 衝撃と喜びで声が出なかった。
『あゆは?』
「本当?」
『うん、本当。だから今までの思わせぶりとかじゃない。でももっとあゆはのこと好きになりたい、もっと知りたい。だからもう少し俺のこと好きなまま待ってて』
「嬉しい、待てるよ。私もっと頑張る」
 井橋くんに届くまでもう少しかなと思った。
『夏休み終わったらまたちゃんと話そう』
「約束ね!」
『じゃあおやすみ』
「おやすみ!」
 電話が切れてからは放心状態で嬉しくて嬉しくて眠れなかった。
 夏休み明け初日、私は井橋くんと登校していた。
「井橋くん、おはよー!」
「おはよう、あゆは」
「夏休みの宿題ちゃんと終わってる?」
「ギリギリ終わった」
 途中でつむに会って
「おはよー、朝からラブラブだねー」
 多分ふざけていじっている。
 そりゃあ男女が2人で登校したらそうなる。
 せっかく井橋くんまでもう少しになったのに嫌がられちゃうよー。やめてー。
 そう思っているとずっと黙っていた井橋くんが口を開いた。
「え、俺はあゆはが好きだけど?」
 え⁈気になるじゃないの⁈
「え、あゆいつの間に⁈もー言ってよー。じゃあお邪魔しないよう先行きまーす!またね、遅刻すんなよー」
 つむが遠くなると井橋くんが小声で
「ごめん、本当は今日の放課後2人のとき言おうと思ってたんだけど我慢できなかった」
「井橋くん?びっくりしたー!私のこと好きになってくれたの?」
「やっぱりあゆはのこと見てれば見てるほど分かってきて気づいたら気になるが好きに変わってた」
「やっと届いたんだね!」
「あゆは、改めて言う。俺はあゆはが好きだ。俺と付き合って」
「ずるいよ、井橋くん。私のほうが先に好きになってたのに!大好き!これからよろしくお願いします」
「俺のほうがあゆはが好き」
「もー夢みたい!」
「今日家来る?あゆみも会いたがってる」
「行く!学校午前中だけだしお昼ご飯作ろ」
「俺ちょっと上達したよ」
「期待してる!なに作れるの?」
「放課後に言うから待っとけ」
 頑張ってよかった。毎日の努力がやっと報われた。好きになればなるほど、頑張らないとって思って苦しかった時期もあった。
 でもこんなに幸せになれた。
 今は井橋くんの隣にいる。
「は、悠斗くん」
 付き合ったしこっちかな?
 悠斗くんと呼んだ瞬間井橋くんが膝から崩れて片手で顔を覆った。
「えぇ⁈井橋くん!ごめん、そんなに嫌だった⁈」
「違う、破壊力すごくて」
「私も初めてあゆはって呼ばれたとき破壊力すごかったんだよー、気持ち分かった?」
「嬉しいけど慣れるまで時間かかりそうだから学校では井橋くんな。放課後とか休日とか2人のときは下の名前で」
「じゃあ今は悠斗くんだね、悠斗くん!」
 楽しすぎる!今までも一緒にいるときは楽しかったけど関係が変わると楽しさも桁違い。
 あゆみちゃんと悠斗くんのお母さんにも報告しないと。
 そしてあっという間に放課後。
「あゆはちゃーん、久しぶり!」
「あゆみちゃん、久しぶりだね!私、悠斗くんと付き合うことになったよ!」
「本当?やったー!あゆはちゃんといっぱい会えるようになるー、今日はもう少しでママも帰ってくるよ!」
「あゆみ、今からあゆはと昼ご飯作るから部屋で遊んでろ」
「やったー!あゆはちゃんのご飯だー」
「今日はなに作るの?」
「ポトフと鶏の照り焼き」
 いきなりレベル上がったな!
「悠斗くんはどっち作れるの?」
「俺は鶏の照り焼き作るからあゆははポトフ作れる?分からなかったらそこにレシピあるから」
 正直、悠斗くんが無事に鶏の照り焼きを作れるか心配だけど本人が作れると言っているし、とりあえず信じてみようと思う。
「おいしー!ポトフ」
「おい、照り焼きは?」
「あゆはちゃんのご飯好きー」
「あはは、ありがと。また作りにくるね」
「ただいまー……あらあゆはちゃん、もしかしてご飯作ってくれたの⁈ありがとう!」
「母さん、俺あゆはと付き合い始めたから」
「えぇ⁈そうなら早く言いなさいよー!あー悠斗に初めての彼女が!」
 え、初めての彼女⁈
「え、初めての彼女⁈悠斗くん彼女いたことないの?」
「ねーよ、俺ちゃんと女子と話したのあゆはが初めてだし」
「私も悠斗くんが初めての彼氏だよ」
「初々しくてお母さんが照れちゃう。あゆみ、お兄ちゃん楽しそうだねー」
「お兄ちゃん羨ましいー、こんな可愛い彼女ができてー」
 こういう会話もずっと憧れていたから幸せすぎる。
「あゆはは可愛い。外見も中身も」
「悠斗くん、恥ずかしいよー!」
「これからもっとあゆはの可愛いところ見つけていくからいっぱい一緒に過ごそうな」
「うん!デートとかいっぱいしたい!」
 こういう何気ない日々がずっと続いていけばいいなと思う。