君と私、恋の始まり

 相手を好きになる気持ちと好かれるための努力の量は比例しない。
 彼を好きになるまではそんなこと知らないままだった。

 目を惹くイケメン
 中2の体育祭。初めてちゃんと彼と話したのはこの日だった。
「あゆ!今日の体育祭の打ち上げ行くよね⁈席は男子と女子向かい合わせで座るんだって!」
 応援席で打ち上げの話をしてきたのは親友の石口紬。
「んー迷ってる、つむが彼氏欲しいのは分かるけどさー」
「あゆはちゃん、お願い!打ち上げ来て!人数差少なくしたいから女子最低でもあゆはちゃん来てほしい」
「じゃあ行く!店どこー?」
「ありがと!3丁目の中華料理屋!」
 打ち上げの中華料理屋へ行くと中で男子10人、女子12人が集まっていた。
「あゆー、こっちこっちー!」
「ドリンクだけ最初に注文するからこの中から決めてー」
 とメニューを渡された。
「じゃあジンジャーエールにするー」
「あゆはちゃん、手前のはじっこ座ってー」
「わかったー」
「原田さん打ち上げ来ないかと思った」
 と目の前に座っている男子に言われた。
「まー、たまには来よっかなって」
「クラスで来ないの原田さんと井橋の2人だと思ってたから来ないの井橋だけか。2人、2年B組親睦会も来なかったし」
「井橋来なさそうだもんなー、井橋いないとつまんねー」
「井橋は無理だよ、忙しいし。ほらほら早く食べ物選んでー」
「原田さん、何食べる?ここめっちゃチャーシュー麺美味いよ」
「あゆ、油淋鶏半分こしよーよ」
「ポテト食べる人挙手!割り勘で頼も!」
 会話の嵐が止まない。
 そんななか澄んだ声が通った。
「遅くなった」
「おー!井橋!来ないと思った!」
「井橋、ドリンクどーする?」
「アイスコーヒーよろしく」
「りょーかい、端から座ってるから井橋はあゆはちゃんの前座って」
「ちゃんと話したことないよな、井橋悠人。よく名前読み間違えられるんだけど、はるとな。男子バスケ部」
「あっ、私は原田あゆは。よろしく」
「何食べよう、原田決めた?」
「ちょうど考えてたとこ!」
「お待たせいたしました!追加のドリンクのアイスコーヒーとジンジャーエールです」
「アイスコーヒー俺です」
「ジンジャーエール私です!」
「原田さんジンジャーエール飲めるんだ?大人だね」
 斜め前に座っている男子がめちゃくちゃ話しかけてくる。
「そうかな?あっ私、五目そばにしよー」
「じゃあ俺も」
「俺チャーシュー麺!注文係ー!」
 井橋くんを間近で見たのは初めてだけど、こうして見ると色素の薄い栗色がかった髪がセンター分けになっていて、長いまつ毛、女子より綺麗な肌、綺麗な喉仏、通った鼻筋、男子の中でも頭ひとつ飛び抜けた身長、本当に芸能人みたいだな。
「ん?俺の顔になんかついてる?」
「ちがうちがう、近くで話すの初めてだからよく見ちゃった!」
 すると井橋くんは驚いたような顔をして
「じゃあ俺もよく見るよ」
 まっすぐに見つめられて自分の顔がどんどん赤面しているのが分かる。
「原田面白い、男慣れしてない?」
「彼氏もいたことないから慣れてないかも」
 少し遠くに座っていたつむがこっちに来た。
「ね!あゆ顔可愛いのにもったいないよねー、てか井橋って女子と話せたんだね」
「全然余裕で話せるけど?」
「井橋は女子と話せないって有名だよー、あゆのこと好きなんかー⁈」
 つむ!いきなりなに言ってんのー⁈
「つむ、テンションおかしいよ!間違えてお酒飲んだんじゃない⁈」
「飲んでない飲んでない、でどうなの?」
「石口、高橋が外で話してきたいって」
「井橋、言うなよ!恥ずいって」
「え?いいよ。あゆ、ちょっと行ってくる」
 待ってよつむ!このタイミングで置いて行かないでよー!
「原田って名前あゆはっていうんだな、俺の妹はあゆみ」
「井橋くん妹いるんだ!何歳?」
「小4、この学年原田って2人いるし紛らわしいな」
 もしかして名前呼びの匂わせ⁈
「じゃあ、あゆはって呼んで」
「あゆは」
 やばい、イケメンの破壊力。
「五目そば2つお待たせいたしましたー」
 ここで五目そばが来てよかった。
 来ていなかったらどうなっていただろう。
 それからつむと高橋くんが戻ってきて近くの公園でみんなで写真を撮ろうということになったので公園へ向かった。
「とりあえず男子左、女子右で並んでー。順番はなんでもいいから」
 私は偶然井橋くんの隣になった。
 肩と肩が触れていてドキドキが止まらない。
 このドキドキが伝わってしまっていないだろうか。太ってると思われていないだろうか。
「収まってないー!もうちょい寄ってー!」
 えぇぇぇー!無理だよー!
 やばいやばい!近すぎるよー!
「ポーズは隣の人とハートつくってー」
 ハート⁈他の男子と隣の女子はどうしてるんだろうと思って見たら私たち以外カップルだった。
「ハートやる?」
「あゆははやりたくなさそうだな」
「やりたくないわけじゃないけど……恥ずかしいなぁって」
 結局頑張ってハートをこなした。
 その日から井橋くんと学校で話すことは少ないけれどときどき言葉を交わす程度の関係になった。今日は土曜日、スーパーにお昼ご飯の材料を買いに行った帰りに公園に寄ると井橋くんがいた。
 やばい、私服の井橋くんだ。
 井橋くんはジーパンに白のTシャツというザ休日という格好だった。
「井橋くーん!」
「あゆは?どうした?」
「お昼ご飯の材料がなかったから買いに行ってた、井橋くんは?」
「俺は習い事帰り」
「なんの習い事?」
「ボイストレーニングとギター」
 井橋くんが歌っているところは見たことがないのですごく気になる。ギター弾けるのもすごすぎる。弾き語りとかするのかな?見てみたいな
「え、かっこよ」
「そういえばあゆみちゃん元気?」
「実はさ、俺の妹のあゆみ不登校なんだ」
「そうなんだ……」
「あゆみは、なかなか本当のことを言ってくれないから困ってる」
「私、あゆみちゃんに会ってみたい!」
 そのまま井橋くんの家にお邪魔した。
「お兄ちゃーん!おかえり。えっ、もしかして彼女⁈」
 出迎えてくれた姿を見て驚いた。
 遺伝子強すぎる。兄妹というだけあって顔がそっくり、整いすぎている。
「違う、クラスメイト。あゆみのお客さん」
「あゆみの?お姉ちゃん、あゆみの部屋来て!お話しよー」
「いいよ!お話しよー」
「お兄ちゃん、お菓子とジュース!」
 あゆみちゃんに手を引かれながら、部屋へ入った。
「お姉ちゃん、お名前教えてー」
「原田あゆはだよー。あゆみちゃんと1文字違い」
「お揃いだ!あゆはちゃんはお兄ちゃんのこと好きなの?」
「え!な、なんで?」
「だってお兄ちゃんが女の子連れてきたの初めてだし、お兄ちゃんは好きな人とかいなそうだからあゆはちゃんがお兄ちゃん好きなのかなって」
「す、好きっていうか仲良し?って感じ」
「あゆはちゃんうそ下手くそー。あゆみのほうが上手だよ」
「あゆみちゃんはうそ得意なの?」
「あゆみね、学校でいじめられてるの。でもお兄ちゃんに心配かけちゃうから言ってないけど……」
「あゆみちゃんは学校行きたい?」
「本当は……行きたい。学校行きたい。でも怖い……あゆみはどうしたらいいの?」
 泣きじゃくるあゆみちゃんの背中をさすることしかできない。なんて言葉をかければいいのか分からない。
 と、ここで井橋くんが入ってきた。
「あゆみ、気づけなくてごめんな。俺がなんとかする。あゆみが安心して学校行けるようにする」
「お、お兄ちゃぁーん」
 あゆみちゃんは井橋くんに抱きついて大泣きした。しばらくして泣き疲れたあゆみちゃんは眠ってしまった。
「あゆは、ありがとな。俺じゃあゆみの気持ちを聞けなかった」
「あゆみちゃん、学校行けるようになるといいね!なんかあったらまた相談して!井橋くん、あんまり自分のこと話してくれないから心配だよ」
「あゆは、連絡先教えて」
「私も聞こうと思ってた!」
 やっと連絡先を聞けた。これでいつでも連絡を取れる。
 そろそろお昼ご飯の時間だ。
「あゆは、昼ご飯だけどさ一緒に食べる?」
「え、いいの⁈」
「なんかデリバリー頼む?」
「せっかくだしなんか作ろ!」
「俺、簡単なものしか作れないけど」
 ということで一緒にキッチンに立った。
「なに作る?」
「私今日はオムライス作ろうと思ってたからオムライスでいい?」
「じゃあ俺オニオンスープ作る」
「作れんのー?」
「なめすぎ」
 料理を始めたらもう大変、大変。
「うわ、目に染みる」
「え、玉ねぎって煮る?焼く?」
「水は水道水?ミネラルウォーター?」
 全然慣れてないのが分かる。
「料理したことある?」
「ゆでたまごなら作れる」
「よし、一緒にやろ!大丈夫!」
 出来上がったころにあゆみちゃんが来て
「お兄ちゃんとあゆはちゃん夫婦みたい!お兄ちゃんが料理してるー!オムライスだ!」
 と嬉しそうにしていたのでよかった。
「あゆはのオムライス美味いな」
「オムライスおいしー!」
「あゆははすごいな、料理もできて勉強もできて」
「お兄ちゃん惚れちゃったー?」
「ちょっ、あゆみちゃん!」
「惚れたなんて言葉よく知ってんな」
 この手の話題になると井橋くんは話題を逸らす。
 脈ありかな?
 あれ、もしかして私井橋くんに恋してる?