どうして僕が嫌われたか

目安箱ってのがあるんだ。
学校の廊下にぽつんって置かれてる、段ボールで作った箱。上には紙が入るくらいの穴が空いてる。何のためにあるかっていうとだなーーーほら。学校に通ってると、誰にだって悩みの1つや2つ出てくるだろ?
その悩みを、紙の切れ端にでも書いて目安箱に投書すれば、後から生徒会が確認して、学校を良くしていくために参考にするっていうーーーそういう生徒会の取り組みがあるんだ。
この目安箱は、僕が毎日中身を確認することになってるんだけどさ。ーーーさてどんな悩みが入ってるかと思ったら、もう、最悪なんだなこれが。下ネタが書かれたラクガキとか、赤点の小テスト用紙とか、そういうのばっかなんだ。まともな悩みなんてありゃしない。それでも、ちゃんと毎日確認するんだ。生徒会の仕事だからってだけの理由じゃない。もしかしたら、もしかしたらだよ?ーーー蓮からの投書があるかもしれないじゃないか。あいつのことだから、多分「英語わからへん! 俺日本から出んから、もう英語なくしてくれや!」とか「部活きっつくてしゃーないわ!シンスプリントになってもうた!」
とか、そういう投書なんだろうな。
それを想像するとそわそわしちゃってさ、絶対毎日確認するってわけなんだ。
全部蓮のためだ。

目安箱は匿名で投書できるんだけど、蓮の場合は名前なんか書いてなくたって、蓮の字だってすぐ分かる。あいつの筆跡、すごくわかりやすいんだよ。字の形自体、趣があるっていうかーーーとにかく汚いんだ。漢字を右肩上がりに書くとかっこいい字に仕上がると思ってるんだよな、あいつ。だから匿名でもすぐわかる。何度見てきたと思ってるんだ。

ーーーーーーーー
ーーーーー

「善一郎、今いい?」

ある日の放課後、廊下で話しかけてきたのは甲斐くんだ。
僕はもちろん、うん、と答えた。
生徒会役員の中でも、僕と甲斐くんは一年生同士の仲間で友達。彼はな、ほんとうに優しいんだよ。お世辞なんかじゃなくて、本当にだ。

……ちょっとばかし言いづらいんだけど……僕、甲斐くんに会うまでは友達ってのがいなかったんだ。高校生になってからは蓮とクラスが違うだろ。だからもうさ、ここに入学してからはずっと"ぼっち"ってやつなんだよな。
中学時代もわりかし一人だったけど、教室に太陽があったーーー蓮がいたから、周りのやつらとか全員、植物に見えてたんだ。だから一人ぼっちでいても周りの目とか、あんまし気にならなかった。
ーーーあ、なんで周りのやつらが植物かっていうとだな。彼らを決してバカにしてるわけじゃないんだよ。ちゃんと説明するとだな……まず。

蓮=太陽

これは説明しなくてもわかるよな。
それで、太陽の光を浴びる植物は光合成するだろ?

植物+蓮=光合成

ってなわけだ。
教室に、蓮っていう太陽がいたわけだから、

クラスメイト=光合成しているもの

そんで、

クラスメイト=植物

ってことなんだな。
こうやって数式にしてみると、結構わかりやすいだろ?

「ーーー善一郎、聞いてる?」

甲斐くんは僕の顔を覗きこんで聞いてきた。

うん、と答えた。

「さっきさー、サッカー部の友達と話してたんよ。
そしたら…生徒会が予算を少なくしたせいで、来月の練習試合なくなりそう、どーしてくれんだよ…って言ってきたんだけどさ、返答困るよな、こういうの。
オレに愚痴られても、学校の運営の問題だし…どうしよーもないっつーか。」

サッカー。
サッカー、部?
サッカー部と言ったのか?今、甲斐くんは。
サッカー部の予算が減ったせいで、来月の練習試合がなくなりそうでーーー蓮が困ってるって、そう言ったんだよな。

僕の心臓が、醒めた。

「さっき会長になんとかならないか聞いてみたんだけどさー。
ほら、会長もサッカー部だから。自分の部活だけ予算降ろすなんて贔屓になるって悩んでた。」

生徒会長ーーー長田先輩。先輩もサッカー部だもんな。そりゃあ、自分の部活の予算だけ高くするなんてできやしない。えこ贔屓だなんて思われでもしたら大変だもんな。

ーーーでもな、やっぱり事は重大なんだ。だって、蓮が入ってる部活なんだから。
予算を減らした犯人が誰かは知らない。でも、理由がなんであれーーーそいつはさ、きっと、蓮がどれだけサッカーをやってきたのかなんて、きっと想像すらしたことがないんだろうな。確かに、小学生の頃は何も考えずに楽しくやってただけかもしれない。「俺な、将来Jリーガーなんねん」なんて、そう簡単になれるわけないのに意気揚々と言ってたくらいだからな。ーーーでも中学に上がってからはどうだ。あの怒鳴り声がうるさい顧問に罵声を浴びせられながらも、毎日部活行ってたんだ。家帰ってきてからも、玄関前の駐車スペースでリフティングしてさーーー必死に、必死に練習してたんだぞ。顧問に怒られた次の日の部活なんか、顔が引き攣ってた。そんな日が12日間続いた日もあるんだよ。だからある日、つい言ったことがある。無理しないでって。そしたら蓮は「無理やない」って。休まず部活に行ってたんだ。
ーーーその時僕は気付いたよ、蓮は本気なんだって。サッカーに妥協なんかしてないし、Jリーガーになりたいってのも本気中の本気なんだ。本気でサッカーやりたいんだ。もうやってるけど。

ーーーとにかく、蓮はサッカー一筋。予算とかお金とか、そういう"大人の事情"みたいなので妥協されていい問題なんかじゃないんだ。練習試合が無くなったりでもしたらどうなるかな。蓮は、きっと、きっと………。

ーーー誰だ。予算を減らしたのは。
僕の心の中は、とっくに殺意全マシマシだ。

予算多め!試合増し!手加減抜きでお願いしまーす!

ってさ。
甲斐くんが今隣にいなかったら、多分叫んでたよ。

「善一郎、聞いてる?」

うん、と答えた。

ーーー次の日、長田先輩と一緒に少し調べたら、学校全体の部活動予算が減ったわけではなく、配分方法に問題があるってのが分かってさ。それからは生徒会顧問、教務主任や教頭先生に取り計らって改訂案が通ったんだ。

「善一郎、お前が入ってくれてよかった」

改訂案の話が終わった後、長田先輩がそう言ってくれたときなんてーーーもうさ、やばいんだな。ふわふわするんだよ、脳みそがバカになった。とにかくすごく嬉しかった。
僕が蓮のためにしたことだ。それが長田先輩に褒められるんだから嬉しいに決まってる。

…やっぱり、蓮はすごい。

長田先輩に褒められるくらい、僕を成長させたんだから。


予算の改訂が通ってから数日後のことだった。朝に目安箱の中身を確認していると、廊下の向こう側ーーー遠い場所から聞こえたんだ。

「ーーーおーい蓮!聞け聞け!練習試合やるってさ!
生徒会が予算案通したらしい!やばくね?!」

バッ、なんて音が出るくらい、僕は勢いよく振り向いた。ここからだとあんましよく見えないけど、声の主は多分、蓮と同じサッカー部の生徒だと思う。

そいつはーーー蓮と肩を組んだ。
そして、蓮は。

「え"、予算降りたん?ほんま?!
やばすぎ〜!長田先輩さすがやろ!えぐ!!」

ーーーーーー!

僕は駆け出した。
足がもつれるのを感じながら久々に走ってトイレに駆け込み、個室に入り、鍵を閉めた。

そして泣いた。

ーーーえ"、予算降りたん?ほんま?!
やばすぎ〜!長田先輩さすがやろ!えぐ!!ーーーえ"、予算降りたん?ほんま?!
やばすぎ〜!長田先輩さすがやろ!えぐ!!ーーーえ"、予算降りたん?ほんま?!
やばすぎ〜!長田先輩さすがやろ!えぐ!!ーーーえ"、予算降りたん?ほんま?!
やばすぎ〜!長田先輩さすがやろ!えぐ!!ーーー

頭の中に蓮がたくさんいる!!

今までの殺意全マシマシが、トイレのタイルの上にぼたぼた流れ落ちていく。男子トイレの個室に嗚咽が響いた。

『え"、予算降りたん?ほんま?!
やばすぎ〜!長田先輩さすがやろ!えぐ!!』

蓮が喜ぶと、僕の方が嬉しいんだ。
君が喜ぶだけでいい。なんなら、このまま嫌われたままでもいいんじゃないかってくらい僕は嬉しいんだよ。
ドーパミン増し、オキシトシン濃いめ、エンドルフィンマシマシってやつだんだ……この嬉しさは……。

君のためならなんでもする。

全部蓮のためだ。

ーーーーーーーー
ーーーーーー

でもやっぱり仲直りしたい。
そう思うようになったのはエンドルフィンマシマシになった次の日だった。
蓮が幸せならこのまま嫌われたままでもいいって、昨日本気の本気で思ったのにさ…よくないよな…。 
僕はさ、割と一度決めたことはやり通さないと死にきれないっていうか。本気でやりたいことは最後までやるんだ。
でもな、蓮が絡んでくるといつもこうなんだよ。僕が僕じゃなくなっちゃうんだな。
たとえばだな………僕は中学生の時まで、絶叫系のジェットコースターが嫌で仕方なかったんだ。ーーーでもな。ある日、蓮と家族ぐるみで遊園地に行ったことがあったんだ。そしたら蓮のやつさ、

「ジェットコースターあるやん!乗ろやー!」

とか言ってきたんだよ。僕は嫌だった。なのにあいつ、腕掴んできたんだよ。
「ええやんか〜!大丈夫やて、先っぽだけ!先っぽだけや!」なんて訳の分からないこと言って、ありすぎる腕力で僕を機体に乗せたんだ。多分、前世はゴリラだ。
機体がガコンッて嫌な音たてて動き出して、登りの時に地面が遠ざかっていくのも、体が強制的に持ち上げられていく感覚とかもーーーもうとにかく、怖くて怖くてしかなかったんだよ。でもそんな時に蓮が、

『え"、善一郎?!
泣くなや〜〜!まだ始まったばっかやん!」

なんてゲラゲラ笑いながら、僕の頭をわしゃわしゃ撫でてきたもんでさ。
結局、ジェットコースターはいつのまにか終わってた。
次に修学旅行で遊園地に行った時なんかも、僕は普通に乗ったよ。ぜんっぜん怖くないんだよ、蓮のわしゃわしゃを思い出すとさーーー恐怖なんて吹っ飛んだんだな、これが。

な?分かっただろ。
蓮といると、僕が僕じゃなくなるってのはこういうことなんだ。以前まで無理だったこととか、やらないって決めてたことだってやるようになる。
実際に、最近1ヶ月以内で起きたことをまとめるとこんな感じだ。

・控えめで目立つのが苦手なくせに、生徒会なんかに立候補するようになる
・蓮が幸せなら嫌われたままでもいいって思ってたのに、やっぱりそばにいたくなる

ほらな。
蓮のせいで僕の人生めちゃくちゃだ。
本当にどうかしてるやつだ、僕のことこんなに狂わせてさ。

責任取ってくれなきゃ割に合わないよな。

ーーーーーーーー
ーーーーーー

その日の授業中はずっと考えてた。
どうしたら蓮と仲直りできるか。
ーーーすごく難しい問題なんだな、これが。
もちろん、ただ謝るなんてダメだ。理由が分かってないんだからな。口先で謝っても薄っぺらいだけだろ。例えるならさ、数学で間違えた問題に対して、何で間違えたのかを考えないのと一緒だ。「勉強不足だから間違えた」とかいう、中身のない理由付けじゃだめなんだ。
蓮に嫌われたってことは、嫌われるようなことをしたってことだろ。それが分かってないんだから、謝る以前の問題なんだよ。
僕だけが楽になるためだけの謝罪なんて絶対ダメなんだ。

そんなことして、もっと嫌われたらどうするんだって話だからさ…。

甲斐くんと並んで歩く帰り道も、ずっと考えていたーーーそんな時だった。

「善一郎ってすごいよなぁ」

甲斐くんが急に呟いたんだよ。すごい小さい声で、吐息と一緒にふと出たみたいな言葉だったんだ。ほんとびっくりしたよ。
だってさっきまでずっと、二人静かに歩いてただけなんだ。なのに急に褒められた。

これはつまり、つまりだぞ。甲斐くんは、数分前まで僕について考えていたんだ。その末、口からポロッたってことだ。

ーーー僕について考えてくれたんだ。時間を使って、僕のことを考えてくれてたんだ。

……そういうのって、あんまし今までなかったからさ。
すごく嬉しいんだ。甲斐くんと友達になれてよかった。

「オレさ、ただサッカー部からの愚痴を聞いただけのつもりだったんだんだけどなー。
まさか善一郎が改訂案通すなんて。多分、会長一人じゃ無理だったよ。
ーーーあ、会長を信頼してないわけじゃないけど!」

甲斐くんは謙虚でさ、サッカー部員の愚痴を聞いただけって言ってるけど、誰かから愚痴を話されるってのも才能だと思うんだよな、僕は。それだけ話しやすいってことだからさ。

甲斐くんは自分が気づいてないだけで、すごい部分がたくさんあるんだよ。
一緒にいても、沈黙の時間が苦にならないし、雰囲気も柔らかくてさ。あ、ちなみに髪の毛だって柔らかいんだよ。
薄茶色の髪が少しふわふわしててさ、ほんとにかわいいんだな。蓮みたいに洗髪したわけじゃないらしくて、習い事で水泳やってるうちに塩素でこうなったらしいんだ。
色味がさ、おばあちゃん家で飼ってるうさぎを思い出させるんだよな。甲斐くんみたいにふわふわ、ふさふさしててさ。名前はディギイモっていうんだけどーーー

「善一郎、聞いてんの?」

うん、と答えた。

「いやいや絶対聞いてないって。自分の世界行ってたっしょ。」

あ。
僕、どうやら考え込んでいたみたいだ。甲斐くんのおかげで現実に引き戻されたよ。僕っていつもこうなんだ、考え出すと頭の中止まらなくなるんだ。ぐるぐるく〜〜るぐるぐるってなって、まるで地面を歩いてる感覚すらなくなる。

ごめん、と答えた。
甲斐くんは「いいよ別に」って笑って許してくれる。彼はさ、学校でもいつもこうやって笑って許してるんだよな。提出物を出さない生徒をなぜか励ましてるし、顧問への部活の当欠連絡を、なぜか甲斐くんに頼んでくる生徒に対しても「いいよ別に」って言うし。

本当にいいのかな?
ーーーよくないに決まってる!自分のことは自分でやらせるべきだ。甲斐くんに頼らず、ちゃんと自分で。

伝えようと思ってさ、口を開こうとした時だった。

「……皆、色々愚痴ってくるけどさ。
話せる悩みなだけ、正直マシじゃね」

甲斐くんが突然、そう口にした。
……なぜかはわからないけど、その声と言葉を無視しちゃいけない気がしたんだよ。
だから必死に、何か言葉を返さなきゃって思ったんだ。ただの男の勘ってやつなんだけど、甲斐くんはもしかしたら、すごくーーー深刻なものを抱えてるんじゃないかって、僕なりに思ったんだよな。
「どうして?」だの「何かあったの?」だの聞けばいいんだろうけど、どれも違う感じがしてさ。そもそも、そこまで聞いていいのかな。
聞いて嫌な思いさせて、甲斐くんにまで嫌われたらどうしよう。
でもとにかく。彼に何かあるってことに変わりはないだろうから。何か言わなきゃ。

なんて言おう……。

ーーーああやばい、気づけばもう分かれ道じゃないか!
このままじゃ別方向に散るだけだ。
甲斐くんのために気の利いたことの何か1つや2つ言えよ、僕。結局何も言えないままじゃないか。

蓮の好きな"スーパーライダー"だって、こんな時何かきっと声をかけるはずだ。
じゃなきゃヒーローじゃない。

大事なのは"僕がどうしたいか"じゃなくて、"スーパーライダーならどうするか"…だもんな。

「んじゃ明日な」

ついに背中を向けた甲斐くん。

ーーー僕は話しかけた。

「甲斐くんには、誰にも言えない悩みがあるの?」

え。
って、甲斐くんが言った。
ゆっくり振り返った甲斐くん。
こんな驚いてる顔を見るのは初めてだな。

「僕、友達いないよ。
言いふらす心配はない。だから、何か困ってるなら話して欲しいんだ。
君ばかり、いつも他人にしてあげてばかりだろ。」

僕が言うと、甲斐くんはピタッ…て動きを止めたんだ。表情がいつもと違ってさ、目が一瞬虚になって……。

あ、あああ…。

ーーー最悪だ。絶対嫌われた。
やっぱり触れて欲しくなかったんだ。誰にだって、聞かれたくないことの一つや二つあるのにな。

それからの僕は、惨めったらしいったらありゃしない。ピヨピヨ雛鳥みたいに慌てながら、
「僕にもあるよ、悩み!先生とかからよく、ぼんやりしてんじゃねえよって言われるんだ」とか「考えごとしてると涎垂れちゃって、汚いし直したい」とか「人から嫌われた理由が分かんないことあるし」とか。
とにかく脊髄反射で喋ったんだな。みっともないだろ。
でもさ、そしたら甲斐くんが、

「あはは、そうなの?」

って。
いつもみたいに笑ってくれた。
ちょっとばかり苦笑いみたいな、引き攣った笑い方だったんだけど…それでもよかったんだ。

彼が安心してくれて嬉しかった。

「善一郎さ、普段あんまし喋んないじゃん。
ぽやぽやしてて何考えてるか分かんないな〜って思ってたけど……。

お前も色々考えてんだな。」

え。
って、口からポロッた。
僕って"ぽやぽやしてて何考えてるか分かんないやつ"なのか?周りから見たらそう見えるのか?

びっくりだ。
だって僕、生徒会にも立候補したんだよ。
つまり、多少は主体性ってのがあると思うんだ。もちろん全部、蓮のためだけどさ。
ぽやぽやしてるやつが立候補なんてするかな。

「お前が誰かに嫌われるとか想像つかないけど……。
誰かを嫌う理由なんて、本人が一番分かってんだろ。
直接聞いてみたら?何が悪かったのーって。」

……聞く?
蓮に、直接?


ずどーーーーん!!

ばーーちばちばちばち!!

ってさ、雷に撃たれたみたいだった。
身体中感電して動かないみたいな、そんな感覚。

ーーー直接聞く?蓮に、「何が悪かったの?」って聞く?無理だ、無理無理無理。そんなの無理だ、甲斐くんはきっと頭がどうかしてるんだ。

蓮に直接聞いたらどうなる??想像に難くない!

たとえばほら。

ーーーザアザアと降る雨の中、濡れた蓮の背中に問いかける僕。

「蓮!何が悪かったんだよ!どうして僕を嫌うんだ!」

「そないなことも分からへんのか。
ーーーほんまに終わっとんで、お前。」

ーほんまに終わっとんで、お前。
ーーほんまに終わっとんで、お前。
ーーーほんまに終わっとんで、お前。

雨の音なんか無かったみたいに、蓮の声が響くんだ。

蓮はそれから、今まで以上に僕を嫌うに決まってる。

わなわなわなわなわなわなわなわな。

「え、どした?おーい、善一郎?」

ちーん。

僕はしばらく動かなかった。動けやしなかった。

ーーーーーーーー
ーーーーーーー

その日を境に、なぜか甲斐くんは以前より話しかけてくれるようになった。
以前までは、週1の生徒会会議で会って、終わったあとは一緒に帰るくらいだったんだけど、今はそれだけじゃなくてさ、昼休みとか掃除の時間とか、クラス違うのに甲斐くんの方から訪ねてきてくれるようになったんだ。

僕はそれが嬉しい反面、少しだけ困るんだ。
だって昼休みは、いつも蓮のことを観ていたいだろ?
体育館に行ってバスケだのバレーだの、友達と遊んでる蓮を双眼鏡で観るっていう日課が無くなったんだよ。
もちろん、甲斐くんと話せて嬉しいんだけどさ……。
ちょっとモヤるよな。

「ーーーってことらしくてさー。結局チンパンジーにフン投げられたんだよ、やばくね?

………善一郎、聞いてる?」

うん、と答えた。

「はい絶対ウソ」

うぐ。
甲斐くん、なんで分かるんだろうな。
すごいよな。僕の心なんてお見通しなんだろうな。
彼ならきっと、蓮の心もすぐ見抜くんだろうな。なんで嫌われたかなんて、僕みたいに考えるまでもなく分かるんだろうな。

甲斐くんからも吸収しなきゃな。
日課が無くなった、なんてブツクサ思ってる場合じゃない。

全部蓮のためだ。