となりびと と、

ピンポン、という音に、顔を上げた。
インターホン越しに「はい」と応答すると、「あ、お兄ちゃん」というくぐもった声が聞こえてきた。
驚いて、何故か少し慌てて、疑問に思いながら玄関の扉を開ける。
「……なんでいるの」
「よ」と片手を挙げる妹に、僕は盛大に溜息を吐いた。
「来るのは良いとしてさ、せめて事前に連絡を」
「あー違う違う。ちゃんと連絡はしてあるよ。今日会いに来たのはお兄ちゃんじゃなくて」
「あ、真緒理さん。早かったですね」
ちりんという音に振り返ると、いつの間にか僕の後ろに立っていた夜猫が嬉しそうに笑った。
「オーキャンのついでに、夜猫さんに声掛けたの。もし良ければ遊ぼうよって」
片道2時間って通えなくもないけど遠いねと一丁前に言う真緒理に、思わず苦笑いしてしまう。
「毎日通うとなったらなかなかきついよ。だから僕は現にここに住んでるわけだし。てか真緒、もう6月入ったけど。今更オーキャン行ってて大丈夫?」
「大丈夫じゃないけどどうにかなる。じゃあさ、私がお兄ちゃんたちと同じ大学に通うことになったら私が夜猫さんとここに住むよ」
「なんでよ」
嫌なの? と意地悪く笑う妹に当然ながら「嫌だよ」と返すと、夜猫が楽しそうにふふっと笑った。
「私は歓迎しますよ」
「夜猫までそんなことを言う……」
肩から下げた鞄に片手を掛けて靴を履く夜猫に、「今日夕飯は? どうするの」と問うと、「家で食べます」という短い答えが返ってくる。
「了解」
「今日は何ですか」
「ん? んー、餃子かな。冷凍のやつだけど」
やったぁと言う夜猫と対照的に、「えー私も食べて帰って良い?」と真緒理が不満気な顔をする。「だめ」と返すと、「ケチー」と彼女が眉を顰めた。
「真緒理さんは早く帰らないと、お父さんとお母さんが心配しますよ。あれ、先輩も外出るんですか」
「うん、買い物。……珍しいって顔しないでくれる?」
真緒理と夜猫が同じような顔をしていて、呆れると同時に笑ってしまう。
「じゃあ、行ってらっしゃい。真緒、遅くなりすぎないように帰りなよ」
何歳(いくつ)だと思ってるの」と妹が笑った。
「では、行ってきます」と同居人が静かに言った。
通路に微かに反響する楽しそうな声に、思わず笑ってしまう。

「行ってらっしゃい」