となりびと と、

「柿畑」
声を掛けられて顔を上げると、暁と鈴森ちゃんが並んで俺を見ていた。大学の構内で一緒にいるのを見かけるのは珍しい。
「おう、おつかれ。2人とも帰り?」
「うん、たまたまそこで会って。柿畑も授業終わり?」
「ん、さっき終わったところ」
「おつかれさまです」
律儀に頭を下げる後輩に、ちょっと笑ってしまう。そんなに堅くなくて良いのに。
「ねぇ2人、この後暇? 飯行かね?」
暁と鈴森ちゃんが互いに一瞬目を合わせて、同時にふっと笑った。「え、何? どうしたの」と戸惑う俺に、鈴森ちゃんが笑って言う。
「流石コタロー先輩。まさに、そのお誘いに来たんですよ」
「マジか」
「マジです」
真面目そうだの無愛想だの美人だの色々な評価を聞くこの子だけど、案外よく笑うんだよなと思いながら、俺も釣られて笑ってしまった。

「あーー彼氏欲しいー」
歩きながら天を仰いでそう言うと、暁が少し困ったように首を傾げた。
「交友関係めっちゃ広い柿畑でもそういうこと言うんだね」
「暁サンは俺を何だと思ってるの?」
少し大袈裟に声を尖らせて見せると、「ごめんごめん」と彼が苦笑いした。
「そういえば、そういうのじゃないんだろうという前提で訊きますけど。あ、純粋な疑問と興味なので、答えたくなければそれで」
鈴森ちゃんが珍しく長めの前置きから話を始めて、「なに怖い」と言いながら彼女の言葉を待つ。
「コタロー先輩にとって、理央先輩って恋愛対象としてどうなんですか?」
なるほどなと思う。確かにこれは、訊き方と状況によっては俺は怒るかもしれない。鈴森ちゃんの棘も好奇も滲まない物言いは相変わらずすごいなと思いながら、答える。
「暁? うーん、あんまり考えたことないけど……」
「夜猫、その話題って大体対象者がいない時にするものじゃないの?」
ちょっと呆れたような暁の表情に笑って、続けた。
「友達としてはめっちゃ良いヤツだけど、俺こんな論理固めの奴は全然タイプじゃない」
「へぇ。そういうものなんですか」
恋愛感情そのものがぴんと来ない、と以前言っていたこの後輩にとっては、好きなタイプという概念も異文化みたいなものなんだろう。
「ねぇ僕、柿畑は恋愛対象外だし、そもそも誰かと恋愛関係になりたいと思わない人間なのにさ、全然タイプじゃないって言われると若干ショックなのなんで?」
「知らねー。だ、友達としてはめっちゃ良いヤツって言ってんじゃん」
「それはどうも」
全然どうもと思ってなさそうな暁を見て、鈴森ちゃんと同時に笑ってしまった。
「じゃ、意趣返しとして訊くけど。暁は鈴森ちゃんのこと、どうなの? 恋愛対象としては」
「なんで意趣返しが僕にくるの」
「だって私はそもそも答えられないじゃないですか」
完全なるifの話だからなのか、けろっとして鈴森ちゃんが言う。前に大学で「夜猫ちゃんって彼氏いるの?」と絡まれて死にそうな顔をしていたのが嘘のようだ。
「……まぁ、確かに一緒にいて楽だなとは思うけど、そういう風に見たことはないし見る予定もない。良くも悪くもただの後輩だよ」
「まぁ、そうですよね」
あっさりしてるなぁと思いつつ、この2人が仲も相性も良いのは見ていれば分かる。
「最早別の世界線の話っぽいですけど、10万歩ぐらい譲って私と理央先輩が恋愛関係だったら、コタロー先輩どう思うんですか」
「え、……解釈違い。想像つかない」
先輩後輩の域を出るんだか出ないんだかよく分からない2人が、俺の中の2人のイメージだ。それ以外の2人は、適当に噂を立てて騒いでいる奴らには申し訳ないけど全く想像がつかない。
「それはそうですけど」
「柿畑、僕らのこと漫画かアニメのキャラクターか何かだと思ってるの?」
呆れたように笑う暁に釣られたように、鈴森ちゃんもくすっと笑う。夕闇の中で笑い合う2人を見ていたら、何だかこっちまで楽しくなってきた。