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・【09 個体差個体差個体差】
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夕食、母親の手料理は俺が好きなエビフライだった。食べてみる。ちょっと衣に焦げの香りが強いが、カリカリで美味しい。海老もいつも通り、大きめのブラックタイガーってヤツだと思う。
父親はまだ帰って来ないので、母親と二人きりの食事。俺は思い切って、
「美味しい」
と言うと、母親は急に手で口を抑えたと思ったら、すぐに目を抑えて、
「そんなこと、言ってくれるなんて……」
と涙を流しそうになっていた。そうか、こういうことって言ったほうがいいのか。というか俺、花田にカツ丼美味しかったって言ったっけ? あんまちゃんと覚えていない。泣いてしまったから。
俺は恥ずかしい気持ちもあったが、しっかり母親のほうを見て、
「言うよ。今後美味しかったら言うよ」
と言ったわけだが、どう考えても”美味しかったら”は余計だ。本当に俺ってそういうとこ、ばっかだ。
母親はしんみりとした声で、
「秀哉がそんなこと言ってくれるなんて思わなかったから……」
ずっと俺はどんな人間だったのだろうか。全部が全部自分の主観だから分からない。でもまあ最低だったんだろうな。
母親との食事はトゲトゲしいことは無く、終わった。というか今まで尖らせていたのは俺だけだ。
部屋に戻ったら、すぐにスマホを開けて、LIMEを送った。
『あんまその時のこと覚えていないから書くけども 花田のカツ丼めっちゃ美味しかったよ 言ったかもだけども』
すると花田よりも先に小山莉愛からメッセージがあり、
『そういうことは言ってなかったよ でもそうでしょ 一郎のカツ丼最高だからね!』
既読は小山莉愛の1のまま。そうか、この時間帯は定食屋が忙しい時間帯か。
本当に、というか当たり前だけども、花田はもう”仕事”をしているんだ。よく考えたら俺は仕事なんてしていない。なのにずっと母親のこと、未だに専業主婦をしているとか思っていたのか。頭おかし過ぎないか? 俺は十分のお小遣いをもらっているし、仕事なんて大人になったらいくらでもするだろうからを理由にバイトなんてしていないし。花田は一体何を考えて仕事しているのだろうか。でも多分だけども、花田の性格なら、もっと美味しくなりたいとか考えているのかもしれない。いや勝手にそんなこと思うのは良くないか。合ってるかどうか分かんないわけだから。俺だったら、だるいの一点だけだな。
あの父親じゃまともに賃金も支払われていない感じがする。家族価格って感じ。家族価格と言えば、母親の家事にはお金を払わなくて本当に良いのだろうか。母親は一体何が家事で一番嫌なのだろうか。家にただ居るだけなら何か手伝ったほうがいいんじゃないか。
花田からのLIMEは夜九時頃に来た。
『そう言ってくれて嬉しいです。是非また食べに来てください。』
やっぱ花田は大人だ。でもちょっと営業臭もして少し悲しくなった。いやいや、こうやってまともに返信してくれることが奇跡、というか、花田が大人だからこうしてもらえているんだ。それを肝に銘じなければ。
その日は普通に寝て、朝に鏡を見たら、やつれのほうは徐々に回復しているっぽい。食事の効果か、それとも精神的なことか。まあ両方だろうな。
んでもって支度して登校。相変わらずクラスメイトからは冷めた目で見られるが、そんなことはどうでもいい。
教室では佐々木が、古永のことを「クサい」という直球の言葉でイジっている。確かにワキガっぽい匂いは感じるが、そんな真っ直ぐ言っても何も面白くないけどな。せめて花田みたいなセンス……いやまずクサいと言うことが良くないか。というかそのクサいというのも、不潔にしているからじゃなくて、個体差なのかな。元々クサくなりやすいってことなのかな。
ということは髭が濃いヤツは不潔だから伸びやすいと思っていたのだが、違うのかな。ちょっとスマホで検索してみるか。AIに聞くというか。
『髭の濃さや伸びやすさは不潔とは関係無いです。主に遺伝と男性ホルモンという、いわゆる個体差によるモノです。不潔だから伸びるわけではなく、体質で決まります。男性ホルモン(テストステロン)の量や、毛根の細胞組織(生えやすさ)によります。男性ホルモンが多いと、毛が太く、また濃くなりやすくなります。また両親や祖父の体質を受け継ぐことも大きく、生まれ持った要素であることが大きいです。年齢による変化もあり、男性ホルモンが活発になる四十代前後まで濃くなる傾向があります。まとめ:不潔さは一切関係ありません。基本的に遺伝が全てです。男性ホルモンの量も遺伝によるところが大きいからです。』
そうか、不潔さって関係無かったのか。勿論これが本当かどうかというところもAIにはあるけども、ここまで強く否定するということは、不潔さは本当に関係無いのかもしれない。
ずっとそういう体毛のこととか吹き出物のこととかも、全部努力でどうにでもなると思っていた。そして俺はちゃんと努力してきたから体毛は薄いし、吹き出物も無いんだと思っていた。でも確かに両親共に肌は綺麗だし、顔も整ってはいる。父親も祖父も髭が薄いほうだと思う。そういう家系なだけで、俺がずっといつの間にか努力してきたとかじゃないんだ。周りが不潔過ぎたわけでもなくて。
俺は溜息をついた。過去の自分のバカさ加減に今の自分がついていけない。思い込みというものは本当に怖いものだ。俺はずっと、自分はいつの間にか常に最良の選択をし、またそれは努力と呼ばれるもので、俺は完璧に出来ていて、他の出来ない連中は全員努力も根性も足りないカスだと思っていた。なんてことない。ただ俺には才能があっただけなんだ。総合的に顔も肌も綺麗な才能。特に何もしなくても勉強が出来る才能。運動神経は生まれながら常にピラミッドの頂点。
そのことに気付いたので、もう俺は慢心しないことにしようと胸に誓った。だからこそ慢心というパターンも実はあったのかもしれないけども、俺は花田の親環境と現在健気にしっかりと仕事していることを考えたら、もう天狗になんてなれない。
素直に俺は恵まれている、それを認識した。
そう思っていたその時だった。
八方美人の坂井が俺に対して、
「なあ佐野、古永って本当にクサいよな?」
と何か上から目線な感じでこっちに振ってきた。俺が落ち目になったら、こうやってイキリながら話し掛けてくることが本当にキモい。ちょっと前まではこちらを伺うような三下のように話し掛けてきていたのに。
・【09 個体差個体差個体差】
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夕食、母親の手料理は俺が好きなエビフライだった。食べてみる。ちょっと衣に焦げの香りが強いが、カリカリで美味しい。海老もいつも通り、大きめのブラックタイガーってヤツだと思う。
父親はまだ帰って来ないので、母親と二人きりの食事。俺は思い切って、
「美味しい」
と言うと、母親は急に手で口を抑えたと思ったら、すぐに目を抑えて、
「そんなこと、言ってくれるなんて……」
と涙を流しそうになっていた。そうか、こういうことって言ったほうがいいのか。というか俺、花田にカツ丼美味しかったって言ったっけ? あんまちゃんと覚えていない。泣いてしまったから。
俺は恥ずかしい気持ちもあったが、しっかり母親のほうを見て、
「言うよ。今後美味しかったら言うよ」
と言ったわけだが、どう考えても”美味しかったら”は余計だ。本当に俺ってそういうとこ、ばっかだ。
母親はしんみりとした声で、
「秀哉がそんなこと言ってくれるなんて思わなかったから……」
ずっと俺はどんな人間だったのだろうか。全部が全部自分の主観だから分からない。でもまあ最低だったんだろうな。
母親との食事はトゲトゲしいことは無く、終わった。というか今まで尖らせていたのは俺だけだ。
部屋に戻ったら、すぐにスマホを開けて、LIMEを送った。
『あんまその時のこと覚えていないから書くけども 花田のカツ丼めっちゃ美味しかったよ 言ったかもだけども』
すると花田よりも先に小山莉愛からメッセージがあり、
『そういうことは言ってなかったよ でもそうでしょ 一郎のカツ丼最高だからね!』
既読は小山莉愛の1のまま。そうか、この時間帯は定食屋が忙しい時間帯か。
本当に、というか当たり前だけども、花田はもう”仕事”をしているんだ。よく考えたら俺は仕事なんてしていない。なのにずっと母親のこと、未だに専業主婦をしているとか思っていたのか。頭おかし過ぎないか? 俺は十分のお小遣いをもらっているし、仕事なんて大人になったらいくらでもするだろうからを理由にバイトなんてしていないし。花田は一体何を考えて仕事しているのだろうか。でも多分だけども、花田の性格なら、もっと美味しくなりたいとか考えているのかもしれない。いや勝手にそんなこと思うのは良くないか。合ってるかどうか分かんないわけだから。俺だったら、だるいの一点だけだな。
あの父親じゃまともに賃金も支払われていない感じがする。家族価格って感じ。家族価格と言えば、母親の家事にはお金を払わなくて本当に良いのだろうか。母親は一体何が家事で一番嫌なのだろうか。家にただ居るだけなら何か手伝ったほうがいいんじゃないか。
花田からのLIMEは夜九時頃に来た。
『そう言ってくれて嬉しいです。是非また食べに来てください。』
やっぱ花田は大人だ。でもちょっと営業臭もして少し悲しくなった。いやいや、こうやってまともに返信してくれることが奇跡、というか、花田が大人だからこうしてもらえているんだ。それを肝に銘じなければ。
その日は普通に寝て、朝に鏡を見たら、やつれのほうは徐々に回復しているっぽい。食事の効果か、それとも精神的なことか。まあ両方だろうな。
んでもって支度して登校。相変わらずクラスメイトからは冷めた目で見られるが、そんなことはどうでもいい。
教室では佐々木が、古永のことを「クサい」という直球の言葉でイジっている。確かにワキガっぽい匂いは感じるが、そんな真っ直ぐ言っても何も面白くないけどな。せめて花田みたいなセンス……いやまずクサいと言うことが良くないか。というかそのクサいというのも、不潔にしているからじゃなくて、個体差なのかな。元々クサくなりやすいってことなのかな。
ということは髭が濃いヤツは不潔だから伸びやすいと思っていたのだが、違うのかな。ちょっとスマホで検索してみるか。AIに聞くというか。
『髭の濃さや伸びやすさは不潔とは関係無いです。主に遺伝と男性ホルモンという、いわゆる個体差によるモノです。不潔だから伸びるわけではなく、体質で決まります。男性ホルモン(テストステロン)の量や、毛根の細胞組織(生えやすさ)によります。男性ホルモンが多いと、毛が太く、また濃くなりやすくなります。また両親や祖父の体質を受け継ぐことも大きく、生まれ持った要素であることが大きいです。年齢による変化もあり、男性ホルモンが活発になる四十代前後まで濃くなる傾向があります。まとめ:不潔さは一切関係ありません。基本的に遺伝が全てです。男性ホルモンの量も遺伝によるところが大きいからです。』
そうか、不潔さって関係無かったのか。勿論これが本当かどうかというところもAIにはあるけども、ここまで強く否定するということは、不潔さは本当に関係無いのかもしれない。
ずっとそういう体毛のこととか吹き出物のこととかも、全部努力でどうにでもなると思っていた。そして俺はちゃんと努力してきたから体毛は薄いし、吹き出物も無いんだと思っていた。でも確かに両親共に肌は綺麗だし、顔も整ってはいる。父親も祖父も髭が薄いほうだと思う。そういう家系なだけで、俺がずっといつの間にか努力してきたとかじゃないんだ。周りが不潔過ぎたわけでもなくて。
俺は溜息をついた。過去の自分のバカさ加減に今の自分がついていけない。思い込みというものは本当に怖いものだ。俺はずっと、自分はいつの間にか常に最良の選択をし、またそれは努力と呼ばれるもので、俺は完璧に出来ていて、他の出来ない連中は全員努力も根性も足りないカスだと思っていた。なんてことない。ただ俺には才能があっただけなんだ。総合的に顔も肌も綺麗な才能。特に何もしなくても勉強が出来る才能。運動神経は生まれながら常にピラミッドの頂点。
そのことに気付いたので、もう俺は慢心しないことにしようと胸に誓った。だからこそ慢心というパターンも実はあったのかもしれないけども、俺は花田の親環境と現在健気にしっかりと仕事していることを考えたら、もう天狗になんてなれない。
素直に俺は恵まれている、それを認識した。
そう思っていたその時だった。
八方美人の坂井が俺に対して、
「なあ佐野、古永って本当にクサいよな?」
と何か上から目線な感じでこっちに振ってきた。俺が落ち目になったら、こうやってイキリながら話し掛けてくることが本当にキモい。ちょっと前まではこちらを伺うような三下のように話し掛けてきていたのに。



