人間には個体差があるという話


・【07 脳内と】


 いや本当に最低だ。今そういうことを考えるなんて。小山莉愛のような巨乳とセックスしたかったが今思うようなことじゃないだろ。だいぶ俺の脳内は良くないことに毒されているんだなと実感した。
 それよりもまず、俺はあぐらから正座に変えて、
「その、さっきアウティングしたこともそうだが。本当に悪かった。俺が全て悪かった。スマンかった……という言い方も何かプライドあるよな、って気付いた。俺本当に悪かったと思っている。申し訳無かった。許してくれなんて言わないし、俺だったら絶対許さないからそれはいいんだけども、俺には謝罪の気持ちがあるということだけは伝えた。本当にスマ、申し訳御座いませんでした」
 そう言って土下座するように頭を下げると、すぐに花田が、
「いいですよ、顔を上げてあぐらで大丈夫です。まさか謝罪してくれるとも思っていなかったので、本当に、本当にもう大丈夫ですから。ちゃんと謝ってくださったんだから許しますから」
 俺は顔を上げたが正座のままで、
「いや許さなくていいんだけども」
 と言うと、小山莉愛が、
「何かその頑なさが、逆に佐野のほうが花田を許していないみたいな感じになるよ」
 俺はつい大きな声で、
「そんなわけあるかい!」
 と言ってしまうと、小山莉愛はクスッと笑ってから、
「咄嗟にそういうリアクションとるなら本当に謝罪しているんだね」
 花田も優しい笑顔で、
「僕もとろいところがあって……佐野くんと違って運動神経が良くないから……」
 小山莉愛が即座に「すぐに卑下しないでって言ってるじゃん」とムッとしながら言った。
 何か、本当に花田と小山莉愛って仲良いんだなってことが今のでよく分かった。いやそんなことはどうでも良くて、
「じゃあその、許してくれてサンキューな……いや許してくれて有難うございます」
 花田は柔らかい声で、
「そんなかしこまらなくていいですよ、いつも通りな感じでいいですよ」
 改めて花田の部屋をちょっと眺める。本当に俺が買っている漫画雑誌のコミックスと料理本ばかり。あ、ボロボロになっているモケットポンスター図鑑があった。俺も小学生の頃はしていたけども、最近のヤツは分からないな。まあ花田のベッドにいる、ぬいぐるみのカメラクスとクッションのカルゴンは知っているけども。
 すると小山莉愛が、
「あんま人の部屋じろじろ見ないほうがいいよ、でも佐野ってそういうことしそうな感じがする。解釈一致って感じ」
 花田は恥ずかしそうにした。俺はそれよりもというモノを見つけてしまったので、このまま黙ってジロ見したスケベのままでは終わりたくないので、
「あの堀越海平のコミックスあるけどさ、あれって何?」
 俺が指差した先を花田が見てから、
「あれは堀越先生が『俺がヒーロー』を連載する前に連載していた『モノクロ水族館』です。堀越先生の初連載は一年くらいで終わっちゃっていて。その時の漫画ですよ」
「え、堀越海平って『僕がヒーロー』がデビュー作じゃなかったんだ」
「はい、まあいわゆる打ち切りというヤツなんでしょうね。僕は好きで『モノクロ水族館』も、初期に出した短編集の『海平線』もありますよ」
 小山莉愛が割って入ってきて、
「海平線めっちゃ面白いよ、電子書籍もあるから買って読んだほうがいい!」
 すると花田が、
「一個一個が意外と短いですし、小山さんが一番オススメのヤツ、まず読んでみたらいいんじゃないんですか」
 と言ってきて、俺も小山莉愛もギョッとしてしまった。俺は真っ先に、俺みたいなヤツに触られるの嫌だろと思ったし、小山莉愛も矢継ぎ早に、
「あんま! 佐野は丁寧に扱えないかもだよ!」
 花田は笑いながら、
「そんな破るとかないでしょうに。そんなこと無いと思いますが、仮にちょっと折れてしまったとしてもどうせ僕は売ったりしませんし、大丈夫ですよ」
 なんて器がデカいんだと思ってしまった。何か、ハッキリ言って、人として負けている感じがした。否、明確に負けているんだと思う。
 小山莉愛は少し不満げにしながら、
「えー、一郎の漫画を読めるのは私だけだと思っていたのにー」
 と頬を膨らませると、花田が、
「一郎の漫画って僕が描いているわけじゃないですからっ」
 と言った。何気無いツッコミっぽいけども、正直おもろ、と思った。確かに一郎の漫画って言うと、花田が漫画家みたいな言い方になっている。そこ、そういう角度でツッコむんだ。
 花田はコミックスを差し出しながら、
「読んでみますか?」
 と言った。俺は堀越海平作品ならマストで読みたいので、
「あ、有難う……で、でも、俺は小山莉愛のオススメじゃなくて、花田のオススメが読みたっい……」
 と、ちょっと言葉が詰まったりしてダサかったけども、思ったことを素直に言えたと安心していると、花田が、
「僕は『俺がヒーロー』のたたき台になったと思われる『ヒーローウェポン製作高校』がオススメです」
 と言うと、矢継ぎ早に小山莉愛が、
「それ! 私だってそれ! やっぱり一郎とは感性合うねぇ!」
 と言うと、すぐさま花田が、
「そんな嬉しそうに言われても、僕と答えが合ったところで賞金もらえませんから」
 と答えていて、花田っていちいちセンスある返答するんだと思った。お笑い的にというか、なんというか。やっぱ人間によって個体差あるんだな。俺はそんなことしようとか思わなかった。小山莉愛はずっと上機嫌に笑っていて、そりゃこんな面白い返ししてくれる友達(というか恋人?)がいたら、楽しいだろうな。
 俺は本を受け取りながら、
「じゃあちょっと読ませてもらうわ」
 と言って普通に読んだわけだけども、めっちゃ面白い! 堀越海平、何でこの流れですぐに『俺がヒーロー』を連載しなかったんだって感じだ。
 俺はすぐにこの物語の話をすると、三人で盛り上がって、そのまま『俺がヒーロー』の話になって、それもめっちゃ楽しく喋ることが出来て。
 俺ってコミックスの話はどこかナードっぽいと思って、高校でも一切しないでいた。漫画雑誌を買っていることは黙っていた。ずっと女の話かサッカーの話だけ高校ではして、あとは、えっと、あれだ、人のことをイジるだけで。イジるの本当に良くないと思ったから、もう脳内で蓋をしていた。いやそれもいいんだろうけども、こうやってすぐに善人になろうとすることも良くないのでは。いや、いやいや、その話はいいとして、みたいなことを時折考えつつも、めっちゃ楽しかった。
 意外と長居してしまい、花田からトイレを借りるってことになり。一階にある、居住区のほうのトイレの場所を教えてもらって、俺は階段をおりていくと、ちょうど店主のオッサンと鉢合わせてしまい、正直かなり気まずい。
 俺が泣いたこともそうだし、何よりもアウティングしてしまったことが一番良くない。そういうの親に知られるの、本当に嫌だもんな。
 すると店主のオッサンから笑顔で、
「うちの子を不登校にしてくれたおかげで、もう教育費やら学費やら払わないで継がせることが出来るかもなんだわ! 感謝! 感謝!」
 と言われて、俺はヒクというか、完全に血の気が引くというか、オシッコも普通に漏らしそうだった。
 なんとかトイレに入って、用を足して、洗面台の鏡で自分を見ると、あからさまにやつれていて、絶対あの部屋でコミックスの話をしていた時はこんなんじゃなかったと思った。いや花田の部屋は鏡が無くて、本当のところは分からないいけども。とにかく火を見るよりも明らかに青ざめてもいて、このまま戻っても大丈夫かと思った。が、ずっと一階にいるとまた店主のオッサンに話し掛けられるかもと思って、足早に花田の部屋に戻った。