・
・【25 実食】
・
「食べてください」
そう一郎が言って三人分皿に盛りつけた。カウンターの席に座って、めっちゃフーフーするジュエル親子。
最初に母親が口にすると、
「うっ! あっ!」
と、今絶対旨いと言いかけたのに、無理して止めた。
父親のほうはしっかり咀嚼して「やっぱコレだけじゃ、コクが無いなぁ?」と笑いながら言った。
それを聞いた俺は『やっぱり』を『やっぱ』と言うこと、ダサいからやめるようにしようと思った。
すると一郎がジュエルへ、
「正直に美味しいかどうか言ってほしいです」
と言うと、ジュエルは嬉しそうに食べようとしたところで、ジュエルの父親も母親も目を丸くした。
何をそんな驚いているんだろうと思ったその時、俺はピンときて、ジュエルにこう言った。
「ジュエル、ここに来る前にいっぱい食べてきたんじゃないか?」
「うん。でも花田の料理、めっちゃ良い香りで、めっちゃ旨そうだからまだ食べられる!」
俺はすぐさま、
「ジュエルがここの料理を食べないという演出をするために、いっぱい家で食べさせてきたんですね。何か卑怯じゃないですか?」
という俺の声と被さるようにジュエルが、
「旨い! これホントに旨い! これならいくらでも食べられる! やっぱスーパーの唐揚げよりも全然花田の料理のほうが旨い!」
と叫んだ。
俺も小山もじとっとジュエルの両親のほうを向き、小山が、
「あの、スーパーの唐揚げのほうが添加物すごいですよ。今の世の中、大手のメーカーのほうが添加物に気を付けているので、イオッコが扱っている中華の素とかは添加物少なめですよ」
と言うと、ジュエルの両親は恥ずかしそうに俯きながら、
「もう帰る!」
と声を揃え荒らげて立ち上がった。
でもジュエルはカウンターの席から離れず、
「今日は来たばかりだからまだいたい……」
と言うと、ジュエルの父親が腕を振りかぶったので、俺はすぐさま腕を伸ばして、ジュエルの父親が振り下ろした拳を手のひらで受け止めて握った。
「やめてください。ジュエルが自己主張しているでしょうが」
握った手にチカラをギリギリと加えて潰そうとしたその時だった。
一郎が声を上げた。
「お子さんがワガママな時ってあると思います。子供食堂をしているとそういう場面にも出くわします。親御さんの子育ても大変でしょうから、食事はこちらに任せて頂き、御両親にしか出来ないことは御両親がしっかり面倒見てあげてください。ジュエルくん、今日は御両親と一緒に帰ろう。また明日、良かったら来てください」
そう言って頭を下げた。するとジュエルの父親は手を振るって俺から離れて、
「この料理人の言う通り、今日は帰るぞ」
と言うと、ジュエルの母親がジュエルの手を握って、引っ張った。ジュエルが態勢を崩しそうになったので、俺は腕でお尻を支え、
「また明日。ジュエル、明日はいっぱい遊ぼうぜ」
と声を掛けると、ジュエルは笑顔をこちらに向けて、
「バイバイ! また明日!」
「おう! 勿論!」
と俺が答えれば、小山も「バイバイ!」と言い、一郎も「また明日ですねっ」と優しい微笑みを向けた。
ジュエルたちがいなくなったところで、小山が柏手一発叩いて、
「ささ! ポトフをみんなに配るよ!」
と言って、急いで三人でサーブした。俺と一郎は隅のほうに移動して、ジュエルの父親がやりたい放題やって汚くなったホワイトソースを食べることにした。小山はホールに戻って、みんなを見ながら一緒にポトフを食べている。
すると一郎が、
「佐野くんのジュエルくんを守りたい気持ちも分かりますが、親子が喧嘩してしまうことが一番良くないので僕の形にさせて頂きました」
と頭を下げてきた。
いや、
「一郎の言う通りだ。あんな大人の対応が出来て本当にすごいよ。俺は、何か、ダメだなぁ……」
と遠くを見るように、天井を向くと、一郎は首を横に振って、
「違います。これは緊張と緩和です。佐野くんが強気に圧をかけてくださるおかげで、僕の救いの手のような一手が生きるんです。もしかしたら僕たちは、相性がすごく良いのかもしれませんね」
と俺にもジュエルに向けたような優しい慈しみの微笑みをしてくれて、俺は何か胸が高鳴った。こんな嬉しいことがあるんだ。
その後、子供食堂は女性の小児愛者が来たり、夏休み最終日に急遽人気取りの政治家などが来て、てんやわんやだったけども、無事乗り越えた。
高校が再開しても、週末は雪道さんの子供食堂を手伝う生活となった。
また、二学期から一郎が登校してくれることになり、俺はめっちゃ心が躍った。
俺は普通に一郎や小山に話し掛けて、雑談をしている。すると俺が自分の席に戻った時に、一郎の周りの女子たちが、
「嫌ならちゃんと断るべきだよ」
とか言っていることが聞こえたが、一郎はハッキリとした声で、
「今はもう和解していますし、友達ですよ。本当に」
と言ってくれて、すごく嬉しい。
人間には当たり前のように個体差があるし、考え方も人それぞれ。難しいことも多いけども、自分が信じられる仲間が自分のことを認めてくれれば、それだけでいい。別に友達なんて多くなくていいし。なんとなく生きていければいいや、と思っていたが、子供食堂の手伝いをしてみて、なんとなくじゃ生きられない子供もいるんだとも知った。いわゆる毒親と社会の狭間で右往左往している子供もいる。自分が恵まれていると自覚して、真っ当に生きようと思った。
ある日、子供食堂へ行く時に、一郎と道でバッタリ会って二人きりになった時、ふと、
「それにしてもあの時、一郎からLIMEをブロックされていなくて良かったよ。あんまりLIMEの使い方とか慣れていなかったんだろ」
と軽くイジるように言うと、一郎は足を止めた。ヤバ、また良くない軽口叩いたかも、と思って謝る準備をしていると、
「ゴメン。カッコ悪い話なんだけども、わざとブロックしていなかったんだ」
「わざと、ブロック、していなかった……?」
予想外の言葉が返ってきたので、バカみたいにオウム返ししてしまうと、
「どこか佐野くんや莉愛のこと、頼っていた気持ちもあったんです。何か変えてくれるかもって。だからブロックしていなかったんです。カッコ悪いですよね」
「いいや、別に人に何か頼ったり期待したりすることは普通だし。というかあのジュエルの両親とバトる時、めっちゃカッコ良かったから、カッコイイのほうが全然勝つわ。まあ俺に弱みを見せてくれることは大歓迎だけどなっ」
一郎と俺は笑い合った。一郎にも、そんな一面があるんだと思った。やっぱり人というか個体って様々だな。
俺はちゃんと人を見て、人には個体差があるということを念頭に入れようと思った。
(了)
・【25 実食】
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「食べてください」
そう一郎が言って三人分皿に盛りつけた。カウンターの席に座って、めっちゃフーフーするジュエル親子。
最初に母親が口にすると、
「うっ! あっ!」
と、今絶対旨いと言いかけたのに、無理して止めた。
父親のほうはしっかり咀嚼して「やっぱコレだけじゃ、コクが無いなぁ?」と笑いながら言った。
それを聞いた俺は『やっぱり』を『やっぱ』と言うこと、ダサいからやめるようにしようと思った。
すると一郎がジュエルへ、
「正直に美味しいかどうか言ってほしいです」
と言うと、ジュエルは嬉しそうに食べようとしたところで、ジュエルの父親も母親も目を丸くした。
何をそんな驚いているんだろうと思ったその時、俺はピンときて、ジュエルにこう言った。
「ジュエル、ここに来る前にいっぱい食べてきたんじゃないか?」
「うん。でも花田の料理、めっちゃ良い香りで、めっちゃ旨そうだからまだ食べられる!」
俺はすぐさま、
「ジュエルがここの料理を食べないという演出をするために、いっぱい家で食べさせてきたんですね。何か卑怯じゃないですか?」
という俺の声と被さるようにジュエルが、
「旨い! これホントに旨い! これならいくらでも食べられる! やっぱスーパーの唐揚げよりも全然花田の料理のほうが旨い!」
と叫んだ。
俺も小山もじとっとジュエルの両親のほうを向き、小山が、
「あの、スーパーの唐揚げのほうが添加物すごいですよ。今の世の中、大手のメーカーのほうが添加物に気を付けているので、イオッコが扱っている中華の素とかは添加物少なめですよ」
と言うと、ジュエルの両親は恥ずかしそうに俯きながら、
「もう帰る!」
と声を揃え荒らげて立ち上がった。
でもジュエルはカウンターの席から離れず、
「今日は来たばかりだからまだいたい……」
と言うと、ジュエルの父親が腕を振りかぶったので、俺はすぐさま腕を伸ばして、ジュエルの父親が振り下ろした拳を手のひらで受け止めて握った。
「やめてください。ジュエルが自己主張しているでしょうが」
握った手にチカラをギリギリと加えて潰そうとしたその時だった。
一郎が声を上げた。
「お子さんがワガママな時ってあると思います。子供食堂をしているとそういう場面にも出くわします。親御さんの子育ても大変でしょうから、食事はこちらに任せて頂き、御両親にしか出来ないことは御両親がしっかり面倒見てあげてください。ジュエルくん、今日は御両親と一緒に帰ろう。また明日、良かったら来てください」
そう言って頭を下げた。するとジュエルの父親は手を振るって俺から離れて、
「この料理人の言う通り、今日は帰るぞ」
と言うと、ジュエルの母親がジュエルの手を握って、引っ張った。ジュエルが態勢を崩しそうになったので、俺は腕でお尻を支え、
「また明日。ジュエル、明日はいっぱい遊ぼうぜ」
と声を掛けると、ジュエルは笑顔をこちらに向けて、
「バイバイ! また明日!」
「おう! 勿論!」
と俺が答えれば、小山も「バイバイ!」と言い、一郎も「また明日ですねっ」と優しい微笑みを向けた。
ジュエルたちがいなくなったところで、小山が柏手一発叩いて、
「ささ! ポトフをみんなに配るよ!」
と言って、急いで三人でサーブした。俺と一郎は隅のほうに移動して、ジュエルの父親がやりたい放題やって汚くなったホワイトソースを食べることにした。小山はホールに戻って、みんなを見ながら一緒にポトフを食べている。
すると一郎が、
「佐野くんのジュエルくんを守りたい気持ちも分かりますが、親子が喧嘩してしまうことが一番良くないので僕の形にさせて頂きました」
と頭を下げてきた。
いや、
「一郎の言う通りだ。あんな大人の対応が出来て本当にすごいよ。俺は、何か、ダメだなぁ……」
と遠くを見るように、天井を向くと、一郎は首を横に振って、
「違います。これは緊張と緩和です。佐野くんが強気に圧をかけてくださるおかげで、僕の救いの手のような一手が生きるんです。もしかしたら僕たちは、相性がすごく良いのかもしれませんね」
と俺にもジュエルに向けたような優しい慈しみの微笑みをしてくれて、俺は何か胸が高鳴った。こんな嬉しいことがあるんだ。
その後、子供食堂は女性の小児愛者が来たり、夏休み最終日に急遽人気取りの政治家などが来て、てんやわんやだったけども、無事乗り越えた。
高校が再開しても、週末は雪道さんの子供食堂を手伝う生活となった。
また、二学期から一郎が登校してくれることになり、俺はめっちゃ心が躍った。
俺は普通に一郎や小山に話し掛けて、雑談をしている。すると俺が自分の席に戻った時に、一郎の周りの女子たちが、
「嫌ならちゃんと断るべきだよ」
とか言っていることが聞こえたが、一郎はハッキリとした声で、
「今はもう和解していますし、友達ですよ。本当に」
と言ってくれて、すごく嬉しい。
人間には当たり前のように個体差があるし、考え方も人それぞれ。難しいことも多いけども、自分が信じられる仲間が自分のことを認めてくれれば、それだけでいい。別に友達なんて多くなくていいし。なんとなく生きていければいいや、と思っていたが、子供食堂の手伝いをしてみて、なんとなくじゃ生きられない子供もいるんだとも知った。いわゆる毒親と社会の狭間で右往左往している子供もいる。自分が恵まれていると自覚して、真っ当に生きようと思った。
ある日、子供食堂へ行く時に、一郎と道でバッタリ会って二人きりになった時、ふと、
「それにしてもあの時、一郎からLIMEをブロックされていなくて良かったよ。あんまりLIMEの使い方とか慣れていなかったんだろ」
と軽くイジるように言うと、一郎は足を止めた。ヤバ、また良くない軽口叩いたかも、と思って謝る準備をしていると、
「ゴメン。カッコ悪い話なんだけども、わざとブロックしていなかったんだ」
「わざと、ブロック、していなかった……?」
予想外の言葉が返ってきたので、バカみたいにオウム返ししてしまうと、
「どこか佐野くんや莉愛のこと、頼っていた気持ちもあったんです。何か変えてくれるかもって。だからブロックしていなかったんです。カッコ悪いですよね」
「いいや、別に人に何か頼ったり期待したりすることは普通だし。というかあのジュエルの両親とバトる時、めっちゃカッコ良かったから、カッコイイのほうが全然勝つわ。まあ俺に弱みを見せてくれることは大歓迎だけどなっ」
一郎と俺は笑い合った。一郎にも、そんな一面があるんだと思った。やっぱり人というか個体って様々だな。
俺はちゃんと人を見て、人には個体差があるということを念頭に入れようと思った。
(了)



