・
・【17 俺の両親】
・
俺はスマホを改めて取り出しながら、
「これで録音はしていましたけども。貴方の気持ち悪い言葉責め、全部入っていますよ。勿論このスマホを盗んだとしても、クラウドで保存していますけどね」
警察官は俺に対して、
「じゃあその音声だけわたしのスマホに送ってきてほしいので、iPhoneですか?」
「はい、iPhoneなのでAirDropでいけますね」
「うん、そうしましょう」
オバサンが暴れ出したので、警察官が力強くアスファルトに押さえつけ、
「これ応援要請しないといけなくなりますよ。さすがに大事(おおごと)になってしまいますが。あと大事(おおごと)にしたとしても、この高校生の罪は軽いです。貴方よりずっとずっと軽いです。高校生は初犯だからです」
その時にオバサンが叫んだ。
「わたしも初犯!」
「認めましたね。仕方ありません。やっぱり君も補導ということにしましょうか。補導って知っていますか? その場で警察官から注意や指導を受けて、保護者に連絡がいって、引き渡しになるだけで、何の刑罰も無いんですよ。その点、貴方は未成年への性的虐待。罪は重いです」
「なんでぇぇええええええええ!」
結局、警察官はそのまま応援要請し、パトカーが一台やって来た。
その前に俺は水沢へ、
「俺は完璧な人間じゃないんだ。水沢、オマエの人生に俺はいない。水沢は水沢の人生を、どうか後悔しないように生きてほしい。本音を言えば、サッカーは続けてほしい。ほら、俺はもうこうなったら高校にも連絡行くかもだから、サッカー部は絶対無理だよ。迷惑が掛かる」
水沢は切なそうな顔で、
「そっか、そうなんですね、佐野先輩でもそんなところがあるんですね。僕、佐野先輩を頼り過ぎていました。それもきっと佐野先輩を非行に走らせてしまったんですね」
「いや、それは一切関係無い。俺は元々酷い人間よ。でも今はちゃんと更生したいんだ。ちゃんと認められたい相手がいてな」
「佐野先輩でもいろいろあるんですね。ぼく、やっぱりサッカー部に戻ります。バイトして分かりました。全然向いていないです」
そう最後に笑った水沢。俺とオバサンはパトカーに乗せられて、近くの駐在所へ行き、そこで聴取があってから、母親と父親が二人して俺を迎えに来た。
父親は俺を見るなり、
「バカなことをしていたんだな」
と語気を強めて言ったので、俺は頷いてから、
「本当に申し訳無いです。でもこれからは真面目に生きていきます。これからの俺を見ていてください」
母親は心配そうに見るだけで声を掛けてくることは無い。父親は母親の面持ちを確認してから、
「本当は心配なんて言葉はおかしい状況だ。秀哉は純粋に悪いことをしたんだから」
基本的に寡黙、というか言葉足らずの父親だと思っていたが、こんなちゃんと喋れるんだな、と思った。いや上から目線だけども、本当に父親は普段喋らない人間だったから、俺に興味が無いと思っていた。父親は続ける。
「反省するんだぞ。万引きしたお店は他にも無いか? 弁償しないといけないぞ」
と言ったところで警察官の一人が、
「まあ万引きしましたと言いに行くのもおかしな話なので、他にお店があったら、ちょっと多めに商品を購入するくらいでいいんじゃないんですか? あんまりこれを公式の見解にされることは困りますが、まあなんというか、まあ、まあばっかりですが、そういうことです」
父親はうんと強く頷いてから、
「とにかく全部洗いざらい家で言うんだぞ。ちゃんと言葉にして、自分でどこで何をしてしまったか認識してから反省するんだぞ」
俺は頭を下げて、
「分かりました。雑に反省するんじゃなくて、一つ一つ考えて反省します」
「よし、もう帰るぞ。皆様、本当に申し訳御座いませんでした。もし同じようなことがあれば、その時はどうぞ厳しく処罰してください」
そう警察官に頭を下げてから、俺の背中を叩き、車に促した。
母親はずっとおろおろしているだけだったけども、それも何だか有難かった。
家に着き、どこで何をしたか、何なら今までどんな悪いことをしたか洗いざらい話した。俺が話すべきだと思ったから。結果的に一郎のアウティングもしてしまったが、それは家族間ということで許してほしいと思った。
そして今、一郎と、小山莉愛と、どういった関係かなども喋った。父親は黙って聞いていた。母親は俯いていたけども、聞いていたと思う。
最後に父親が、
「全部糧にしろ、なんて、被害者があることで言うことは出来ない。糧とは努力した上で負けた時にしか使わない。でもだ、取り返すことは出来る。オマエはサッカー部に戻るつもりが無いようだからサッカー部はもういいとして、それ以外のことは全部取り返せ。自分の手で、全て良い方向を向かせろ。具体的なことは自分で考えろ。自分のことは自分が一番知っているはずだから」
「はい。分かりました。絶対取り返します。一郎とのこと、小山莉愛とのことも、全部」
俺が部屋に戻ろうとすると母親も声に出した。
「何か困っていることがあれば、いつでも相談していいんだよ。親しか出来ない手助けもあるからね」
父親が即座に、
「それは勿論」
と頷いた。何だよ。俺の両親、全然毒親じゃねぇよ。俺は本当に恵まれてきたんだ。それを誰かに分け与えられる人間になりたいと強く誓った。
次の日、バイトへ行くと、あの大学生が水沢のことをネチネチと愚痴ってきた。相変わらず汚いバックヤードで、そのバックヤードと比例するかのような汚い愚痴。最初は聞き流していたが、
「あんなんじゃたいした大学に行けないわ。つーか大学に行けないだろ、バイトをすぐ辞めるバカ。大学に行けない、高卒おつ」
と言った時にさすがにまた腹が立ってしまい、
「大学の話ばっかしていますけども、浪人生なんですか?」
と適当に言うと、その大学生は急に喰らった顔をして黙りこくってしまった。
え、とは思ったけども、もしや本当に浪人生で本当は大学生じゃないってこと? 図星ってこと?
俺は逆に何も言えなくなってしまい、俺のほうが逃げるようにバックヤードから出て行くと、さらに次の日、あの大学生がバイトをバックレていた。俺と合わす顔が無いってヤツなのかもしれない。いやでもまさか。
そのせいで、なおさら人手不足になってしまい、パートのオバサン店員から全部俺のせいみたいにネチネチ言われ始めた。何でこのスーパーってこんなネチネチ言う人ばっかなの?
そもそも何でこのパートのオバサン店員はこんなに偉そうなんだと思って、思い切ってカマをかけてみることにした。大学生(浪人生)の成功体験もあるし。
「何ですか、何でそんな偉そうなんですか、まるで店長と付き合っている人みたいな偉そう感ですね」
すると、なんとそのパートのオバサン店員は鼻高々に、
「分かる? 気付いたんだっ」
と誇らしげに言い放ち、さすがにキモいので、バイトを辞めた。
八月中旬。
スーパーの外に出ると、蝉がセックスしたいと鳴きまくり、まるで昔の俺だねって思う。気持ち悪いほどの温度差がある。冷房と外気、昔の俺と今の俺。
でも夏は暑くて別にいいし、今の俺のほうがかなり好きだ。昔の俺はセックスさせてくれる女しか好きじゃなかったきらいがある。やっぱ自分のことが好きなほうが健全だよな。
適当にコンビニでアイスを買って、公園で食べていた時にLIMEの通知音が鳴った。小山莉愛からだった。
『佐野って子供のこと好き?』
『勿論嫌い』
と即座に返信すると、小山莉愛から、
『一郎のために 一緒に子供食堂でボランティアしない? というか佐野的にもボランティア活動っていい感じなんじゃないの? バイトの合間にさ』
俺は小首を傾げながら、
『普通子供が好きかどうか聞くんじゃないか? 好きじゃないとダメなんじゃないか?』
『ううん 小児愛者が一番良くないから 子供嫌いのほうがむしろ一線を引けるから良い』
なるほど。というか一郎のためなら絶対やるしかないだろ。というか、
『バ先はキモ過ぎて辞めた』
『分かる あそこ全員キモいよね』
そこから俺は小山莉愛がいなくなってから起きたことを全てLIMEで伝えた。小山莉愛からは爆笑のスタンプが送られてきた。俺と水沢がチンチンと言われたことに対しても。いやそれだけは”いい気味”のスタンプもあったか。
というわけで、俺はすぐさま一郎の家へ行く話になった。一郎自身はまだ”はなだ亭”で仕事中なので、一旦”はなだ亭”に入っていくことに。
中にはもう小山莉愛がいて、そこから一郎は店主のオッサンから仕事を上がらせてもらい、三人で居間のほうへ行った。
そこで一郎と小山莉愛から説明を受けて、俺も子供食堂の手伝いを行なうことになった。
しかしながら、
「俺が一郎と小山莉愛から話聞いただけで、子供食堂にボランティアで入っていいのか? 管理者だっているわけだし」
と、まともなことを言っただけなのに、一郎も小山莉愛は目を丸くして驚いている。俺ってそんなまともなこと言わなそう?
・【17 俺の両親】
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俺はスマホを改めて取り出しながら、
「これで録音はしていましたけども。貴方の気持ち悪い言葉責め、全部入っていますよ。勿論このスマホを盗んだとしても、クラウドで保存していますけどね」
警察官は俺に対して、
「じゃあその音声だけわたしのスマホに送ってきてほしいので、iPhoneですか?」
「はい、iPhoneなのでAirDropでいけますね」
「うん、そうしましょう」
オバサンが暴れ出したので、警察官が力強くアスファルトに押さえつけ、
「これ応援要請しないといけなくなりますよ。さすがに大事(おおごと)になってしまいますが。あと大事(おおごと)にしたとしても、この高校生の罪は軽いです。貴方よりずっとずっと軽いです。高校生は初犯だからです」
その時にオバサンが叫んだ。
「わたしも初犯!」
「認めましたね。仕方ありません。やっぱり君も補導ということにしましょうか。補導って知っていますか? その場で警察官から注意や指導を受けて、保護者に連絡がいって、引き渡しになるだけで、何の刑罰も無いんですよ。その点、貴方は未成年への性的虐待。罪は重いです」
「なんでぇぇええええええええ!」
結局、警察官はそのまま応援要請し、パトカーが一台やって来た。
その前に俺は水沢へ、
「俺は完璧な人間じゃないんだ。水沢、オマエの人生に俺はいない。水沢は水沢の人生を、どうか後悔しないように生きてほしい。本音を言えば、サッカーは続けてほしい。ほら、俺はもうこうなったら高校にも連絡行くかもだから、サッカー部は絶対無理だよ。迷惑が掛かる」
水沢は切なそうな顔で、
「そっか、そうなんですね、佐野先輩でもそんなところがあるんですね。僕、佐野先輩を頼り過ぎていました。それもきっと佐野先輩を非行に走らせてしまったんですね」
「いや、それは一切関係無い。俺は元々酷い人間よ。でも今はちゃんと更生したいんだ。ちゃんと認められたい相手がいてな」
「佐野先輩でもいろいろあるんですね。ぼく、やっぱりサッカー部に戻ります。バイトして分かりました。全然向いていないです」
そう最後に笑った水沢。俺とオバサンはパトカーに乗せられて、近くの駐在所へ行き、そこで聴取があってから、母親と父親が二人して俺を迎えに来た。
父親は俺を見るなり、
「バカなことをしていたんだな」
と語気を強めて言ったので、俺は頷いてから、
「本当に申し訳無いです。でもこれからは真面目に生きていきます。これからの俺を見ていてください」
母親は心配そうに見るだけで声を掛けてくることは無い。父親は母親の面持ちを確認してから、
「本当は心配なんて言葉はおかしい状況だ。秀哉は純粋に悪いことをしたんだから」
基本的に寡黙、というか言葉足らずの父親だと思っていたが、こんなちゃんと喋れるんだな、と思った。いや上から目線だけども、本当に父親は普段喋らない人間だったから、俺に興味が無いと思っていた。父親は続ける。
「反省するんだぞ。万引きしたお店は他にも無いか? 弁償しないといけないぞ」
と言ったところで警察官の一人が、
「まあ万引きしましたと言いに行くのもおかしな話なので、他にお店があったら、ちょっと多めに商品を購入するくらいでいいんじゃないんですか? あんまりこれを公式の見解にされることは困りますが、まあなんというか、まあ、まあばっかりですが、そういうことです」
父親はうんと強く頷いてから、
「とにかく全部洗いざらい家で言うんだぞ。ちゃんと言葉にして、自分でどこで何をしてしまったか認識してから反省するんだぞ」
俺は頭を下げて、
「分かりました。雑に反省するんじゃなくて、一つ一つ考えて反省します」
「よし、もう帰るぞ。皆様、本当に申し訳御座いませんでした。もし同じようなことがあれば、その時はどうぞ厳しく処罰してください」
そう警察官に頭を下げてから、俺の背中を叩き、車に促した。
母親はずっとおろおろしているだけだったけども、それも何だか有難かった。
家に着き、どこで何をしたか、何なら今までどんな悪いことをしたか洗いざらい話した。俺が話すべきだと思ったから。結果的に一郎のアウティングもしてしまったが、それは家族間ということで許してほしいと思った。
そして今、一郎と、小山莉愛と、どういった関係かなども喋った。父親は黙って聞いていた。母親は俯いていたけども、聞いていたと思う。
最後に父親が、
「全部糧にしろ、なんて、被害者があることで言うことは出来ない。糧とは努力した上で負けた時にしか使わない。でもだ、取り返すことは出来る。オマエはサッカー部に戻るつもりが無いようだからサッカー部はもういいとして、それ以外のことは全部取り返せ。自分の手で、全て良い方向を向かせろ。具体的なことは自分で考えろ。自分のことは自分が一番知っているはずだから」
「はい。分かりました。絶対取り返します。一郎とのこと、小山莉愛とのことも、全部」
俺が部屋に戻ろうとすると母親も声に出した。
「何か困っていることがあれば、いつでも相談していいんだよ。親しか出来ない手助けもあるからね」
父親が即座に、
「それは勿論」
と頷いた。何だよ。俺の両親、全然毒親じゃねぇよ。俺は本当に恵まれてきたんだ。それを誰かに分け与えられる人間になりたいと強く誓った。
次の日、バイトへ行くと、あの大学生が水沢のことをネチネチと愚痴ってきた。相変わらず汚いバックヤードで、そのバックヤードと比例するかのような汚い愚痴。最初は聞き流していたが、
「あんなんじゃたいした大学に行けないわ。つーか大学に行けないだろ、バイトをすぐ辞めるバカ。大学に行けない、高卒おつ」
と言った時にさすがにまた腹が立ってしまい、
「大学の話ばっかしていますけども、浪人生なんですか?」
と適当に言うと、その大学生は急に喰らった顔をして黙りこくってしまった。
え、とは思ったけども、もしや本当に浪人生で本当は大学生じゃないってこと? 図星ってこと?
俺は逆に何も言えなくなってしまい、俺のほうが逃げるようにバックヤードから出て行くと、さらに次の日、あの大学生がバイトをバックレていた。俺と合わす顔が無いってヤツなのかもしれない。いやでもまさか。
そのせいで、なおさら人手不足になってしまい、パートのオバサン店員から全部俺のせいみたいにネチネチ言われ始めた。何でこのスーパーってこんなネチネチ言う人ばっかなの?
そもそも何でこのパートのオバサン店員はこんなに偉そうなんだと思って、思い切ってカマをかけてみることにした。大学生(浪人生)の成功体験もあるし。
「何ですか、何でそんな偉そうなんですか、まるで店長と付き合っている人みたいな偉そう感ですね」
すると、なんとそのパートのオバサン店員は鼻高々に、
「分かる? 気付いたんだっ」
と誇らしげに言い放ち、さすがにキモいので、バイトを辞めた。
八月中旬。
スーパーの外に出ると、蝉がセックスしたいと鳴きまくり、まるで昔の俺だねって思う。気持ち悪いほどの温度差がある。冷房と外気、昔の俺と今の俺。
でも夏は暑くて別にいいし、今の俺のほうがかなり好きだ。昔の俺はセックスさせてくれる女しか好きじゃなかったきらいがある。やっぱ自分のことが好きなほうが健全だよな。
適当にコンビニでアイスを買って、公園で食べていた時にLIMEの通知音が鳴った。小山莉愛からだった。
『佐野って子供のこと好き?』
『勿論嫌い』
と即座に返信すると、小山莉愛から、
『一郎のために 一緒に子供食堂でボランティアしない? というか佐野的にもボランティア活動っていい感じなんじゃないの? バイトの合間にさ』
俺は小首を傾げながら、
『普通子供が好きかどうか聞くんじゃないか? 好きじゃないとダメなんじゃないか?』
『ううん 小児愛者が一番良くないから 子供嫌いのほうがむしろ一線を引けるから良い』
なるほど。というか一郎のためなら絶対やるしかないだろ。というか、
『バ先はキモ過ぎて辞めた』
『分かる あそこ全員キモいよね』
そこから俺は小山莉愛がいなくなってから起きたことを全てLIMEで伝えた。小山莉愛からは爆笑のスタンプが送られてきた。俺と水沢がチンチンと言われたことに対しても。いやそれだけは”いい気味”のスタンプもあったか。
というわけで、俺はすぐさま一郎の家へ行く話になった。一郎自身はまだ”はなだ亭”で仕事中なので、一旦”はなだ亭”に入っていくことに。
中にはもう小山莉愛がいて、そこから一郎は店主のオッサンから仕事を上がらせてもらい、三人で居間のほうへ行った。
そこで一郎と小山莉愛から説明を受けて、俺も子供食堂の手伝いを行なうことになった。
しかしながら、
「俺が一郎と小山莉愛から話聞いただけで、子供食堂にボランティアで入っていいのか? 管理者だっているわけだし」
と、まともなことを言っただけなのに、一郎も小山莉愛は目を丸くして驚いている。俺ってそんなまともなこと言わなそう?



