・
・【14 小山莉愛と花田一郎】
・
「違う! 違う! 違うのにぃ……違うのにぃ……」
そう悔しそうに言った小山莉愛。
花田は物悲しそうに、
「泣くのはズルいよ」
と言った。俺も確かにそうだとは思った。
でも、
「泣くほど否定したいってことじゃないか。それは男なら分かるだろ?」
花田は唇を真一文字にしてから、
「本当に二人してズルいですよね。まるで善人みたいで」
俺は真っ直ぐ花田の目を見て、
「ムカつくよな、善人みたいで。オマエのことをイジメていた張本人なのに。一人で勝手に改心して気持ち良くなって。でも今、俺のこと、善人みたいだと思ったんだよな。俺のこと善人みたいだって認めてくれるんだな。俺は善人になりたい。少なくても花田にとって善人でありたい。これは本心だ。男だから泣かない。でも俺は本気でそう思っている」
花田は目を背けた。
俺は続ける。
「勿論小山莉愛にとっても善人でありたい。でもそれは付き合っているからじゃない。友達としてだ。俺は花田が許してくれるなら友達になりたいと思っている。バイトしてなお分かったよ。花田はすごい。カッコイイ。プロ意識を持って仕事をしているとカツ丼から感じる。俺のような高校生のバイトくんとは違う。花田は本気なんだな。栄養学だって結局料理人に還元するためだろ? もう未来を見据えてカッコイイよ。所詮俺はサッカーベスト四止まりでプロサッカー選手なんて夢のまた夢だよ。でも花田は」
「もういいです!」
花田は声を荒らげた。
「もう、いいんです……分かりました。分かりましたから、付き合っていないことは信じます」
そう頷いてくれた。
俺はでもこれだけは言いたくて、
「俺は花田の夢を応援したい。贖罪ってことだけじゃない。本当に、尊敬している上で応援したい。それだけなんだ」
小山莉愛は涙を手で拭いながら、
「佐野に何でも言うとか全部言うとか私は言われたけども、私はそれよりも一郎に全部言いたい。このままほっとけるわけないじゃん。だって私はもう本気で一郎のことが好きなんだから。キッカケは最悪でも話を聞いたら本当に真面目で真剣で。本気で好きにならないわけないじゃん。別にキッカケは最悪でもそのあと付き合った人の話とか聞くじゃん。それだよ」
花田も俺も黙って聞いている。
「ハッキリ言ってね、一郎といかがわしいことする妄想だってするよ。ま、まあそんな話はいいとして、って、自分からしといていいとしてさ。学びたいのに学べないなんて、おかしいよ。私は一郎が好き。料理も好き。信じてくれないのかな。全部吐露しても、恥ずかしいところまで吐露しても信じてくれないかな?」
そう顔を真っ赤にして言うので、俺はもう小山莉愛から顔を背けてしまった。俺は花田のほうを見ていると、花田も頬を赤らめてから、ふわふわした声で、
「もう、そんな話もしなくていいですよ。分かりました。それも分かりましたから」
小山莉愛は口ごもりながら、
「ほ、本当……?」
花田はさっきよりもハッキリとした声で、明確な声で、
「分かりました。僕も小山さんのことが好きです」
「いやっ、莉愛って呼んで」
「莉愛さん、好きです」
「ありがとう、私も一郎のこと大好き」
俺、いるんだけどな、と思ったけども、まあそれはいいか。そんな時もあるだろう。
というわけで本題に移らせてもらおうか。
「花田、両親を説得出来そうか?」
花田はハッとしてから、俺のほうを真面目な顔で見てから、
「それが、難しそうというか、なんというか……」
と歯切れが悪い。こここそ威圧感のある俺の出番なんじゃないかと思って、
「じゃあ俺は花田と一緒に高校へ通いたいって、オッサンに言うよ。なんせ事実だから」
花田は少し疑うように「事実?」とオウム返しした。
俺は続ける。
「事実だ。俺はさっきから真実しか言っていない。口から出まかせじゃない。俺は花田のことを本気で尊敬している。でもそうだな、結局のところ、これは俺のエゴなんだろうなと思うよ。花田のためというよりも俺のエゴ。俺は花田と仲良くなって、まともな人間になりたいだけなんだと思う。尊敬する花田に許されてもらえるような人間になりたいだけなんだと思う。全ては俺のエゴ。俺のエゴとして花田と一緒に高校へ通って、普通の会話をしたい。友達のような会話をしたいんだ」
小山莉愛がクスッと笑ってから、
「嘘クサいでしょ? でも佐野、意外と本気なんだよ。本当に心を入れ替えったっぽい」
俺はすぐに「っぽいって言うな」と言ったんだが、小山莉愛はクスクスと笑うだけだった。もっと援護射撃してくれてもいいのに。でもこれも自然なのかもしれない。全ては今の俺にかかっている。俺が真摯に、と思ったその時だった。花田が口を開いた。
「もう本当にいいんですよ。分かりました。大げさには言っているだろうなとは思いますが、大筋はそうなのかなって思っていますから」
俺が即座に、
「大げさにも言っていない!」
と言ったんだが、小山莉愛が爆笑すると、花田もそれにつられて吹き出して、俺はもう笑うしかなかった……じゃないな、本当に笑ってしまったんだ。何だか楽しくなってしまい。そこから三人で普通に最近の好きな動画とか、漫画の話をして時間が過ぎていった。
店主のオッサンは大体午前九時以降、パチンコのために午前中は家を留守にして、正午頃に戻ってくるという話。帰って来たところで、三人でオッサンを説得することにした。
いつも花田は父親のオッサンと母親の三人で昼ご飯を食べるらしい。花田が料理を作るって話だ。でも今日は花田には父親が来るまで部屋にいてもらい、会話の後半はこうなったらこうなどの作戦を考えていた。
いろんな想定問答を三人でし、絶対に花田を高校に通わせるために案を出し合った。
「ただいまー」
花田の父親の声がした。俺と花田と小山莉愛は階段をおりて、居間へ行き、ちょうど入ってきた父親にも、既に居間でテレビを見ていた母親にも花田自身から言うことにした。
「お父さん、お母さん、ちょっとお話があります」
かしこまった言い方だったけども、父親も母親もあんま真面目に受け止める感じではなくて、母親のほうが、
「そんなことより、ご飯作ってなさいよ。友達いて楽しいか何だか知らないけども」
父親もその感じにつられて、
「昼ご飯は自分が作るって言ったんだからなぁ! なぁ!」
と調子良く言ったわけだけども、花田は芯をしっかり持った声で、
「それよりも大切な話があります」
と言いながら母親が座っているテーブルに対面になるように座った。父親は何だか違うというような面持ちで母親の隣に座ったんだけども、母親はプフーっと吹き出してから、
「何それー、友達と真面目ごっこでもすんのぉっ?」
と言うと、隣に座った父親が、
「いいから、一郎の話を聞こう」
と言った。でも母親は何がそんな楽しいのか、ずっとヘラヘラしている。俺と小山莉愛は花田側に直立不動で立っている。
店主のオッサンこと、父親のほうが、
「どうしたんだ。一郎から話があるなんて」
花田はコクンと頷いてから、
「やっぱり僕、高校へ行きたいです。佐野くんや小山さんと一緒に通って、大学で栄養学を学びたいです」
すると母親がガタンとテーブルを叩いて、
「ちょ! わたし! アンタの修学旅行費でコスメ買いたいのに!」
と声を荒らげたと思ったら、すぐに手で口を覆った。何言ってんだ、この人。
一郎はすぐさま、
「予定通り修学旅行には行かなくていいから、しっかり高校で真面目に勉強して、評定平均をとって、総合型選抜での大学入学を目指します。勿論、一般選抜も視野に入れて、勉学にも励みます」
母親は不満そうに、
「もううちで働くでいいじゃない。そうしたらわたしも今後は自由に出来るしー。アンタとアンタで働いてわたしは夢の海外旅行っ」
と手を広げて言って、本当毒親っているんだなと思った。
・【14 小山莉愛と花田一郎】
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「違う! 違う! 違うのにぃ……違うのにぃ……」
そう悔しそうに言った小山莉愛。
花田は物悲しそうに、
「泣くのはズルいよ」
と言った。俺も確かにそうだとは思った。
でも、
「泣くほど否定したいってことじゃないか。それは男なら分かるだろ?」
花田は唇を真一文字にしてから、
「本当に二人してズルいですよね。まるで善人みたいで」
俺は真っ直ぐ花田の目を見て、
「ムカつくよな、善人みたいで。オマエのことをイジメていた張本人なのに。一人で勝手に改心して気持ち良くなって。でも今、俺のこと、善人みたいだと思ったんだよな。俺のこと善人みたいだって認めてくれるんだな。俺は善人になりたい。少なくても花田にとって善人でありたい。これは本心だ。男だから泣かない。でも俺は本気でそう思っている」
花田は目を背けた。
俺は続ける。
「勿論小山莉愛にとっても善人でありたい。でもそれは付き合っているからじゃない。友達としてだ。俺は花田が許してくれるなら友達になりたいと思っている。バイトしてなお分かったよ。花田はすごい。カッコイイ。プロ意識を持って仕事をしているとカツ丼から感じる。俺のような高校生のバイトくんとは違う。花田は本気なんだな。栄養学だって結局料理人に還元するためだろ? もう未来を見据えてカッコイイよ。所詮俺はサッカーベスト四止まりでプロサッカー選手なんて夢のまた夢だよ。でも花田は」
「もういいです!」
花田は声を荒らげた。
「もう、いいんです……分かりました。分かりましたから、付き合っていないことは信じます」
そう頷いてくれた。
俺はでもこれだけは言いたくて、
「俺は花田の夢を応援したい。贖罪ってことだけじゃない。本当に、尊敬している上で応援したい。それだけなんだ」
小山莉愛は涙を手で拭いながら、
「佐野に何でも言うとか全部言うとか私は言われたけども、私はそれよりも一郎に全部言いたい。このままほっとけるわけないじゃん。だって私はもう本気で一郎のことが好きなんだから。キッカケは最悪でも話を聞いたら本当に真面目で真剣で。本気で好きにならないわけないじゃん。別にキッカケは最悪でもそのあと付き合った人の話とか聞くじゃん。それだよ」
花田も俺も黙って聞いている。
「ハッキリ言ってね、一郎といかがわしいことする妄想だってするよ。ま、まあそんな話はいいとして、って、自分からしといていいとしてさ。学びたいのに学べないなんて、おかしいよ。私は一郎が好き。料理も好き。信じてくれないのかな。全部吐露しても、恥ずかしいところまで吐露しても信じてくれないかな?」
そう顔を真っ赤にして言うので、俺はもう小山莉愛から顔を背けてしまった。俺は花田のほうを見ていると、花田も頬を赤らめてから、ふわふわした声で、
「もう、そんな話もしなくていいですよ。分かりました。それも分かりましたから」
小山莉愛は口ごもりながら、
「ほ、本当……?」
花田はさっきよりもハッキリとした声で、明確な声で、
「分かりました。僕も小山さんのことが好きです」
「いやっ、莉愛って呼んで」
「莉愛さん、好きです」
「ありがとう、私も一郎のこと大好き」
俺、いるんだけどな、と思ったけども、まあそれはいいか。そんな時もあるだろう。
というわけで本題に移らせてもらおうか。
「花田、両親を説得出来そうか?」
花田はハッとしてから、俺のほうを真面目な顔で見てから、
「それが、難しそうというか、なんというか……」
と歯切れが悪い。こここそ威圧感のある俺の出番なんじゃないかと思って、
「じゃあ俺は花田と一緒に高校へ通いたいって、オッサンに言うよ。なんせ事実だから」
花田は少し疑うように「事実?」とオウム返しした。
俺は続ける。
「事実だ。俺はさっきから真実しか言っていない。口から出まかせじゃない。俺は花田のことを本気で尊敬している。でもそうだな、結局のところ、これは俺のエゴなんだろうなと思うよ。花田のためというよりも俺のエゴ。俺は花田と仲良くなって、まともな人間になりたいだけなんだと思う。尊敬する花田に許されてもらえるような人間になりたいだけなんだと思う。全ては俺のエゴ。俺のエゴとして花田と一緒に高校へ通って、普通の会話をしたい。友達のような会話をしたいんだ」
小山莉愛がクスッと笑ってから、
「嘘クサいでしょ? でも佐野、意外と本気なんだよ。本当に心を入れ替えったっぽい」
俺はすぐに「っぽいって言うな」と言ったんだが、小山莉愛はクスクスと笑うだけだった。もっと援護射撃してくれてもいいのに。でもこれも自然なのかもしれない。全ては今の俺にかかっている。俺が真摯に、と思ったその時だった。花田が口を開いた。
「もう本当にいいんですよ。分かりました。大げさには言っているだろうなとは思いますが、大筋はそうなのかなって思っていますから」
俺が即座に、
「大げさにも言っていない!」
と言ったんだが、小山莉愛が爆笑すると、花田もそれにつられて吹き出して、俺はもう笑うしかなかった……じゃないな、本当に笑ってしまったんだ。何だか楽しくなってしまい。そこから三人で普通に最近の好きな動画とか、漫画の話をして時間が過ぎていった。
店主のオッサンは大体午前九時以降、パチンコのために午前中は家を留守にして、正午頃に戻ってくるという話。帰って来たところで、三人でオッサンを説得することにした。
いつも花田は父親のオッサンと母親の三人で昼ご飯を食べるらしい。花田が料理を作るって話だ。でも今日は花田には父親が来るまで部屋にいてもらい、会話の後半はこうなったらこうなどの作戦を考えていた。
いろんな想定問答を三人でし、絶対に花田を高校に通わせるために案を出し合った。
「ただいまー」
花田の父親の声がした。俺と花田と小山莉愛は階段をおりて、居間へ行き、ちょうど入ってきた父親にも、既に居間でテレビを見ていた母親にも花田自身から言うことにした。
「お父さん、お母さん、ちょっとお話があります」
かしこまった言い方だったけども、父親も母親もあんま真面目に受け止める感じではなくて、母親のほうが、
「そんなことより、ご飯作ってなさいよ。友達いて楽しいか何だか知らないけども」
父親もその感じにつられて、
「昼ご飯は自分が作るって言ったんだからなぁ! なぁ!」
と調子良く言ったわけだけども、花田は芯をしっかり持った声で、
「それよりも大切な話があります」
と言いながら母親が座っているテーブルに対面になるように座った。父親は何だか違うというような面持ちで母親の隣に座ったんだけども、母親はプフーっと吹き出してから、
「何それー、友達と真面目ごっこでもすんのぉっ?」
と言うと、隣に座った父親が、
「いいから、一郎の話を聞こう」
と言った。でも母親は何がそんな楽しいのか、ずっとヘラヘラしている。俺と小山莉愛は花田側に直立不動で立っている。
店主のオッサンこと、父親のほうが、
「どうしたんだ。一郎から話があるなんて」
花田はコクンと頷いてから、
「やっぱり僕、高校へ行きたいです。佐野くんや小山さんと一緒に通って、大学で栄養学を学びたいです」
すると母親がガタンとテーブルを叩いて、
「ちょ! わたし! アンタの修学旅行費でコスメ買いたいのに!」
と声を荒らげたと思ったら、すぐに手で口を覆った。何言ってんだ、この人。
一郎はすぐさま、
「予定通り修学旅行には行かなくていいから、しっかり高校で真面目に勉強して、評定平均をとって、総合型選抜での大学入学を目指します。勿論、一般選抜も視野に入れて、勉学にも励みます」
母親は不満そうに、
「もううちで働くでいいじゃない。そうしたらわたしも今後は自由に出来るしー。アンタとアンタで働いてわたしは夢の海外旅行っ」
と手を広げて言って、本当毒親っているんだなと思った。



