・
・
・
今までの俺は人間への解像度が低過ぎたんだと思う。
この一件以降、反省しきりだ。
こんな俺を許し、俺をまともな人間に直してくれて、さらには友達にもなってくれた一郎には感謝してもしきれない。勿論小山にも謝辞を述べたい。
感謝してもしきれない・述べたい、じゃなくて、ちゃんと全て言葉に出そう。勿論それでも一郎には感謝しきれないけども、思ったことは言おう。
ふと脳内で反芻する。
俺が最低だった頃を。
・
・【01 手を抜くヤツと手で抜くヤツ】
・
体育の授業にて、何で下手なくせに手を抜くヤツがいるんだろうか。
絶対そこ全速力で走れば間に合うだろというタイミングで俺がノールックパスを出したのに、全然追い付けないまま、コートの外に出たボール。
するとボールは見学しているヤツの足元に行き、ソイツは手で掴んで俺に渡してきたわけだけども、めっちゃ汚ねぇんだよ。そもそもサッカーなんだから足でいいんだよ、バカ。
六月下旬に風邪引くとかキモ過ぎる。テンション上がって全裸でオナニーしたんだろうな、本当にダサ過ぎる。そんなこと中坊で飽きていろよ。高校二年生にもなって、全裸でオナニーとかすんなよ。だから風邪なんざ引くんだよ。十七歳になったら、さすがに体調管理出来ないと社会人になれなくね?
俺は舌打ちしてから、手でボールを受け取るフリをした。手では受け取らないのでボールはそのまま落下し、俺はマグネットトラップ。ビタ止めしたら、周りにいた女子から歓声が上がる。サッカー部のエースからしたら、このくらい余裕だけどもね。だって練習しなくても出来るようなもんじゃん。
全速力で走らなかった、下手なくせに手を抜いている花田一郎(はなだ・いちろう)つか花田に俺は喝を入れてやることにした。
「ちゃんと走れや! 手ぇ抜くなや! 雑魚!」
周りの女子からも男子からもウケている。こんな手軽にウケを頂戴出来て、人生楽勝だ。もっと言ってやるか。
「手を抜くのも手で抜くのもダセェからな! 童貞!」
女子は爆笑したが、男子はちょっとヒいているヤツもいて、まだまだ童貞のクラスメイトは多いらしい。無差別に刺しちゃってマンスー。スマンってことね。
そんな感じで、花田がミスる度に野次を飛ばしてあげた。つーか、美味しくイジってやってるわけだから、今度菓子折りくらい持ってこいよ。
……と思っていたら、ある日、学校側から学校調査というプリントを頂戴した。
なんと花田がイジメを苦に不登校になったと担任から聞かされた。え? 高校で? 本当に? 義務教育ならまだしも高校で? つーか別にあんなん本当にただのイジリだしさ。
せっかく次は体育だったのに、急遽道徳の授業になってしまったので、普通にサボることにした。道徳って全くもって意味の無いことだから。
騒然とする教室を適当に去った俺。つーか、みんなビビり過ぎじゃないか? SNSの書き込みとかでもそうだけども、イジられていたほうが守られることなんて現実社会では無いわけだし。元気に登校出来ている側は堂々と舌打ちでもくれてやればいいんだよ。
さて、校舎裏には川が流れていて、木々も鬱蒼としているから涼しいし、そこで適当にチルっとくかな。そう思って行ったら、なんと、うちのクラスの学級委員長の女子・小山莉愛(こやま・りあ)がタバコを吸っていたのだ。
俺を見るなり、すぐに自分の背中側にタバコを落とした。軽く後ずさりするフリして靴で踏んだみたいだけども、まあ隠したんだろうな。つい、へらっと笑ってしまうと、
「何で」
と小山莉愛が口をついて、吹き出して笑ってしまった。
俺はニヤニヤを抑えきれず、近付き、
「タバコなんて良い御身分ですね」
と言うと、観念したような面持ちで肩を落とし、少しパーマが掛かったようなセミロングの黒髪を揺らした。
小山はお手上げのようなポーズをとってから、
「何すればいい」
と言って話が早くて助かる。半袖のシャツのワームホールから脇の下が見えている。意外とちゃんと処理しているみたいだし、まあそういうことも悪くないかもな。顔も嫌いじゃない。ちょっと顔の輪郭が細過ぎるかもだが、それは痩せているからだし。だからって出るところはちゃんと出ているし。瞳は大きく、眉毛は長い。涙袋は本当は無いほうが好みだけども、まあそれ以外は整っているし、まあいいか。何よりも唇が桃色なのが好みだ。つり目がちの目が俺のテクニックで歪むところも見てみたい。
俺が品定めをしている目が気に食わなかったのだろう。少し苦悶した表情をしてから、こっちを睨み、
「でもさ、花田がこうなったのってアンタのせいじゃないの? その道徳の授業に佐野がいないと欠席裁判みたいになるんじゃないの?」
コイツ、自分の立場分かってんのか。俺の心次第で全てどうとでもなるのに。
でも確かにそれはあるかもしれない。欠席裁判という言葉の意味はよく分からないが、なんとなくニュアンスで分かった。やっぱ俺賢いかも、常に思考を巡らせているからなぁ。
ということはこのまま花田に不登校されると俺の評定平均が悪くなるということか。総合型選抜での大学入学を目指している俺にとっては痛手か。
じゃあそうしようか、
「莉愛。じゃあさ。オマエ花田に告って、登校促せよ」
「何それ、佐野って爽やかな顔して言うことエグいね」
「爽やかな顔? 別に」
髪の毛短くしているだけで爽やかとか言うなよ、意味分かんねぇ。俺はいつも思考を巡らしている策士だよ。
まあとにかく、
「あんな根性ナシのカス野郎、女子から告白されたら天に昇るような気持ちだろ」
「根性ナシのカス野郎とは思わないけども、まあそれするから、絶対タバコのこと言わないでね」
「言わねぇよ。チクっても俺に得ねぇじゃん。こうやって誰か使ったほうが有意義だろ」
「でも告白しなきゃチクるんでしょ?」
「だからそれは当然じゃん」
何その質問。呆れるわ。優等生と言っても結局、学校の勉強が出来るだけかよ。総合力がねぇんだよな、ちょっとは思考巡らせよ。そういうとこ怠るなよ。
「じゃ、そういうことで。ここタバコクサくていられねぇわ」
「あんま、おっきな声でタバコって言わないでよ」
と俯いて言った莉愛。わざとだよ。こうやってコントロールするもんだろ、人間関係って。
まあ莉愛のヤツが上手くいかなかったら、普通に抱こうかな。とか考えながら、適当な場所で涼んでいたんだけども、ハメ撮りのほうが良かったかと後になって後悔した。あー、莉愛の告白上手くいかないといいけどな。
チャイムが鳴り、道徳の授業も終わっただろうから、教室へ戻るとすぐに分かった。クラスメイトのじとっとした目が心をつんざく。
雑にトモダチへ話し掛けても何かノリが悪い感じで、あからさまってほどじゃないけども、避けている感じ。もしかするとそれこそ欠席裁判というのになったってヤツ?
これなら道徳の授業にもちゃんと出て、俺以外にもイジっていた連中もいるだろ、って言えば良かった。あぁ、本当にダルい。
次は国語かと思っていると、担任に呼び出されたので、本当に面倒かもしれない。じゃあもう道徳の授業出れば良かった。あぁでもそれだと莉愛の弱みを握れないか。じゃあ必要悪か。意味合ってるか分からんけども。
担任も何だか気が重いってツラしていて、じゃあもういいじゃんって思う。だってイジメられていたヤツが勝った歴史なんてないんだからさ。どうせ形だけだろ。
空き教室で担任から、
「佐野秀哉(さの・しゅうや)、オマエが主導していたらしいじゃないか」
ふと、
「つか小山莉愛もいなかったですよね、小山莉愛は怪しくないんですか?」
と聞いてみると、担任は溜息交じりに、
「小山莉愛からは気分が悪くなったと言って、保健室にいるって申し出があったよ。小山莉愛の話なんてどうでもいいだろ」
何で俺が小山莉愛がいないことを知っているのか聞いてきたら面白そうだなと思っていたけども、全然掘り下げてこなくて、つまんねぇー。
担任は続ける。
「花田の件、オマエが主導していたんだろ。いい加減もう大人になれよ。花田にそんな酷いこと言うんじゃない」
「主導というか、坂井や佐々木らと一緒になって言っていただけで、俺だけじゃないですよ」
「自分だけじゃないって言うんだな」
「勿論」
こういう時はとにかく堂々としているに限る。バカなフリってヤツかも。まあそう思わせたら勝ちだ。
担任は眉毛の上あたりを掻きながら、
「もういい。次の授業はサボるなよ」
と、たいした追及も無く、やっぱ形だけじゃんと内心嘲笑った。やってる風を自分でも出したいんだろうな。
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今までの俺は人間への解像度が低過ぎたんだと思う。
この一件以降、反省しきりだ。
こんな俺を許し、俺をまともな人間に直してくれて、さらには友達にもなってくれた一郎には感謝してもしきれない。勿論小山にも謝辞を述べたい。
感謝してもしきれない・述べたい、じゃなくて、ちゃんと全て言葉に出そう。勿論それでも一郎には感謝しきれないけども、思ったことは言おう。
ふと脳内で反芻する。
俺が最低だった頃を。
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・【01 手を抜くヤツと手で抜くヤツ】
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体育の授業にて、何で下手なくせに手を抜くヤツがいるんだろうか。
絶対そこ全速力で走れば間に合うだろというタイミングで俺がノールックパスを出したのに、全然追い付けないまま、コートの外に出たボール。
するとボールは見学しているヤツの足元に行き、ソイツは手で掴んで俺に渡してきたわけだけども、めっちゃ汚ねぇんだよ。そもそもサッカーなんだから足でいいんだよ、バカ。
六月下旬に風邪引くとかキモ過ぎる。テンション上がって全裸でオナニーしたんだろうな、本当にダサ過ぎる。そんなこと中坊で飽きていろよ。高校二年生にもなって、全裸でオナニーとかすんなよ。だから風邪なんざ引くんだよ。十七歳になったら、さすがに体調管理出来ないと社会人になれなくね?
俺は舌打ちしてから、手でボールを受け取るフリをした。手では受け取らないのでボールはそのまま落下し、俺はマグネットトラップ。ビタ止めしたら、周りにいた女子から歓声が上がる。サッカー部のエースからしたら、このくらい余裕だけどもね。だって練習しなくても出来るようなもんじゃん。
全速力で走らなかった、下手なくせに手を抜いている花田一郎(はなだ・いちろう)つか花田に俺は喝を入れてやることにした。
「ちゃんと走れや! 手ぇ抜くなや! 雑魚!」
周りの女子からも男子からもウケている。こんな手軽にウケを頂戴出来て、人生楽勝だ。もっと言ってやるか。
「手を抜くのも手で抜くのもダセェからな! 童貞!」
女子は爆笑したが、男子はちょっとヒいているヤツもいて、まだまだ童貞のクラスメイトは多いらしい。無差別に刺しちゃってマンスー。スマンってことね。
そんな感じで、花田がミスる度に野次を飛ばしてあげた。つーか、美味しくイジってやってるわけだから、今度菓子折りくらい持ってこいよ。
……と思っていたら、ある日、学校側から学校調査というプリントを頂戴した。
なんと花田がイジメを苦に不登校になったと担任から聞かされた。え? 高校で? 本当に? 義務教育ならまだしも高校で? つーか別にあんなん本当にただのイジリだしさ。
せっかく次は体育だったのに、急遽道徳の授業になってしまったので、普通にサボることにした。道徳って全くもって意味の無いことだから。
騒然とする教室を適当に去った俺。つーか、みんなビビり過ぎじゃないか? SNSの書き込みとかでもそうだけども、イジられていたほうが守られることなんて現実社会では無いわけだし。元気に登校出来ている側は堂々と舌打ちでもくれてやればいいんだよ。
さて、校舎裏には川が流れていて、木々も鬱蒼としているから涼しいし、そこで適当にチルっとくかな。そう思って行ったら、なんと、うちのクラスの学級委員長の女子・小山莉愛(こやま・りあ)がタバコを吸っていたのだ。
俺を見るなり、すぐに自分の背中側にタバコを落とした。軽く後ずさりするフリして靴で踏んだみたいだけども、まあ隠したんだろうな。つい、へらっと笑ってしまうと、
「何で」
と小山莉愛が口をついて、吹き出して笑ってしまった。
俺はニヤニヤを抑えきれず、近付き、
「タバコなんて良い御身分ですね」
と言うと、観念したような面持ちで肩を落とし、少しパーマが掛かったようなセミロングの黒髪を揺らした。
小山はお手上げのようなポーズをとってから、
「何すればいい」
と言って話が早くて助かる。半袖のシャツのワームホールから脇の下が見えている。意外とちゃんと処理しているみたいだし、まあそういうことも悪くないかもな。顔も嫌いじゃない。ちょっと顔の輪郭が細過ぎるかもだが、それは痩せているからだし。だからって出るところはちゃんと出ているし。瞳は大きく、眉毛は長い。涙袋は本当は無いほうが好みだけども、まあそれ以外は整っているし、まあいいか。何よりも唇が桃色なのが好みだ。つり目がちの目が俺のテクニックで歪むところも見てみたい。
俺が品定めをしている目が気に食わなかったのだろう。少し苦悶した表情をしてから、こっちを睨み、
「でもさ、花田がこうなったのってアンタのせいじゃないの? その道徳の授業に佐野がいないと欠席裁判みたいになるんじゃないの?」
コイツ、自分の立場分かってんのか。俺の心次第で全てどうとでもなるのに。
でも確かにそれはあるかもしれない。欠席裁判という言葉の意味はよく分からないが、なんとなくニュアンスで分かった。やっぱ俺賢いかも、常に思考を巡らせているからなぁ。
ということはこのまま花田に不登校されると俺の評定平均が悪くなるということか。総合型選抜での大学入学を目指している俺にとっては痛手か。
じゃあそうしようか、
「莉愛。じゃあさ。オマエ花田に告って、登校促せよ」
「何それ、佐野って爽やかな顔して言うことエグいね」
「爽やかな顔? 別に」
髪の毛短くしているだけで爽やかとか言うなよ、意味分かんねぇ。俺はいつも思考を巡らしている策士だよ。
まあとにかく、
「あんな根性ナシのカス野郎、女子から告白されたら天に昇るような気持ちだろ」
「根性ナシのカス野郎とは思わないけども、まあそれするから、絶対タバコのこと言わないでね」
「言わねぇよ。チクっても俺に得ねぇじゃん。こうやって誰か使ったほうが有意義だろ」
「でも告白しなきゃチクるんでしょ?」
「だからそれは当然じゃん」
何その質問。呆れるわ。優等生と言っても結局、学校の勉強が出来るだけかよ。総合力がねぇんだよな、ちょっとは思考巡らせよ。そういうとこ怠るなよ。
「じゃ、そういうことで。ここタバコクサくていられねぇわ」
「あんま、おっきな声でタバコって言わないでよ」
と俯いて言った莉愛。わざとだよ。こうやってコントロールするもんだろ、人間関係って。
まあ莉愛のヤツが上手くいかなかったら、普通に抱こうかな。とか考えながら、適当な場所で涼んでいたんだけども、ハメ撮りのほうが良かったかと後になって後悔した。あー、莉愛の告白上手くいかないといいけどな。
チャイムが鳴り、道徳の授業も終わっただろうから、教室へ戻るとすぐに分かった。クラスメイトのじとっとした目が心をつんざく。
雑にトモダチへ話し掛けても何かノリが悪い感じで、あからさまってほどじゃないけども、避けている感じ。もしかするとそれこそ欠席裁判というのになったってヤツ?
これなら道徳の授業にもちゃんと出て、俺以外にもイジっていた連中もいるだろ、って言えば良かった。あぁ、本当にダルい。
次は国語かと思っていると、担任に呼び出されたので、本当に面倒かもしれない。じゃあもう道徳の授業出れば良かった。あぁでもそれだと莉愛の弱みを握れないか。じゃあ必要悪か。意味合ってるか分からんけども。
担任も何だか気が重いってツラしていて、じゃあもういいじゃんって思う。だってイジメられていたヤツが勝った歴史なんてないんだからさ。どうせ形だけだろ。
空き教室で担任から、
「佐野秀哉(さの・しゅうや)、オマエが主導していたらしいじゃないか」
ふと、
「つか小山莉愛もいなかったですよね、小山莉愛は怪しくないんですか?」
と聞いてみると、担任は溜息交じりに、
「小山莉愛からは気分が悪くなったと言って、保健室にいるって申し出があったよ。小山莉愛の話なんてどうでもいいだろ」
何で俺が小山莉愛がいないことを知っているのか聞いてきたら面白そうだなと思っていたけども、全然掘り下げてこなくて、つまんねぇー。
担任は続ける。
「花田の件、オマエが主導していたんだろ。いい加減もう大人になれよ。花田にそんな酷いこと言うんじゃない」
「主導というか、坂井や佐々木らと一緒になって言っていただけで、俺だけじゃないですよ」
「自分だけじゃないって言うんだな」
「勿論」
こういう時はとにかく堂々としているに限る。バカなフリってヤツかも。まあそう思わせたら勝ちだ。
担任は眉毛の上あたりを掻きながら、
「もういい。次の授業はサボるなよ」
と、たいした追及も無く、やっぱ形だけじゃんと内心嘲笑った。やってる風を自分でも出したいんだろうな。



