勝負は魚で

丁度、都喜夫が大学受験の準備で悩んでいる頃、香津世の夫のオットーの様子がおかしくなってきました。仕事の会合でラスベガスへ行った時にギャンブルの味を覚えてしまったようなのです。その後、一人で、何回もラスベガスに通い、仕事も家庭もおろそかになってきました。ラスベガスのカジノは、ギャンブルに多額を使う客に、無料の航空券や宿泊券といった特典を与えて、ひっきりなしに勧誘するのです。当然、カジノ側がそのような手口で損をする訳はないのです。

オットーの会社でも、オットーのギャンブルの事は問題になっており、退陣を迫られていました。もし自分から辞職しない場合は、解雇されると言われていたのです。依存症の怖いところは、そう言った現実の問題点が見えなくなってしまうことです。

香津世は思い切ってオットーに言いました。
「オットー、わたしは今もあなたのこと愛している。だけど、あなたがギャンブルに夢中になっているときは、もう、そのあなたではない。オットー、ギャンブルはすでに家庭崩壊をもたらしている。わたしは、前のあなたとは一緒に居たいけど、今のあなたとはもう無理。離婚して!」
「カッチー、そんなこと言わないでよ。私たち、まだまだこれからじゃない。もうすぐ大儲けをして、今までの損害も補うから」
「辞めて! まだ、そんなこと言ってるの?!! わたし達、もう終わりだ!!!」

香津世は弁護士を雇って、離婚の手続きを始めました。香津世が、オットーのギャンブルの状況をすべて告発したので、離婚はすぐに認められました。その結果、オットーは、都喜夫の親権、財産と、すべての権利を失いました。そして、香津世にはアパートから追い出されました。オットーは、取り敢えず両親か兄姉のどこかに滞在させてもらうと言い、悲しそうな顔をして出て行きました。

香津世はまた矢紗史にメールを送りました。矢っちゃん、わたし、オットーと離婚したの。彼のギャンブル熱が高じて、家庭破壊の状態になってしまって。悲しい。

矢紗史からすぐに返事が来ました。香っちゃん、それは残念で仕方がない。香っちゃんが離婚したのだったら、相当問題だったのは想像できる。でも、ぼくは、ニューヨークで会った時、オットーがとてもいい人だと思ったし、まだ、そう信じている。ひよっとしたら、更生するんじゃないかと思う。そう、願っているよ。