勝負は魚で

この間、香津世はエレベーター寿司の時の失敗を繰り返さないように、細心の注意を払いました。あの時は、多大な投資をしてそれを回収できませんでした。今回は、投資を最小限にして、頭脳集団のコンサルティングで収益を上げようという姿勢です。

丁度その頃、日系の通信業界大手がニューヨークに競合する現地法人を設立しました。香津世は、需要が十分にあるため、競争相手が存在することは心配していませんでした。それに、この競合会社もまだ新しく、香津世の鯖スシ程も経験がありません。

そして、この競合会社には、体質上の問題がありました。親会社は業界大手で、対面を重んじるが故に、社員に大幅な売り上げ増加を迫ったのです。そのため、この競合会社は、請負業者の契約も含めてすべてを一括して日系企業に納入するようにしたのです。問題点は、現地の業者は時間観念や責任感に欠けることが多く、それらの欠陥もすべて、自分の問題として請け負ってしまうことです。それで、日系の顧客の不満をも一手に引き受ける羽目になります。そのため、この競合会社の社員は大変苦労していました。

この競合会社の商法は、日本語対応はするが、姿勢としては、現地の業者、つまりベンダーの側に立つことになります。それで、香津世は、この商法を『スーパー・ベンダー』と呼んでいました

それに対して、香津世の鯖スシは、香津世が寿司レストランの店長、浜地を助けたように、あたかも顧客あるいはユーザーの一員として業者を取り仕切る立場を取ります。それで、香津世はこの商法を『スーパー・ユーザー』と呼んでいました。このアプローチだと、顧客は各業者と直接契約を結びます。スーパー・ユーザーとしては、その契約が適切かどうかは判断してサポートしますが、契約の間には入りません。それで、責任問題に巻き込まれずに済むわけです。

スーパー・ユーザーの立場を取ると、売上高は、基本的に、コンサルティングの人件費のみです。それで、スーパー・ベンダーのように大きくはなりません。ただし、この商法をとることによって、鯖スシは無責任な業者との板挟みで苦労することが減ります。それで、社員も、より伸び伸びと仕事が出来るようになります。そのような状況を察知したコンサルタントで優秀な人が、何人か、競合会社から鯖スシに転職したりしました。そして、最終的に、顧客の信頼を得たのは、競合会社ではなく、鯖スシでした。

鯖スシの業績は順調に伸び、顧客の全米ネットワーク構築をサポートすることも増えました。それで、暫くしてから、ロサンゼルスとシカゴにも小さなオフィスを開設しました。

ニューヨークの日系企業のシステム担当者の間では、鯖スシはよく知られた存在になりました。その頃、日本の経済出版社が海外で活躍する日本人女性を特集した時に、香津世もインタビューされました。香津世のプライドが再び満たされた訳です。日本に居る香津世の知り合いは、香津世が今度は技術分野で活躍しているのを見てさらに驚きました。

そして、その頃、今までニューヨークで知り合った女性たちと、『ニューヨークで働く日本人女性の会』を設立しました。母国を離れて働くには強い覚悟と適応性が要求されます。女性の場合、尚更の事です。それで、この会は、彼女らにとって、様々な共通の話題を語り合う良い機会になりました。その中で、母親たちの抱える問題の一つに子供の大学進学があります。