駅前の賑わいを抜けて、スマートフォンの地図アプリを見ながら、照り返しの強い歩道を進む。
事前に調べていた通り、ちょうど二十分ほど歩いたところで、白い外壁の大きな建物が見えてきた。
正門のプレートを確認する。
【東海パッケージ株式会社】
間違いない。
腕時計を見ると、十三時十五分だった。
約束の時間まで、あと十五分。
十分前には着きたいが、十五分前は少し早すぎる。
恵美は門の前で五分ほど待つことにした。
いいころ合いになると、汗を拭い、身だしなみを整えて門をくぐる。
受付で名乗ると、これまでメールと電話で何度もやり取りをしてきた営業担当者が迎えに現れた。
「鈴鹿様、お待ちしておりました。本日は遠いところありがとうございます」
「こちらこそ、お時間をいただきありがとうございます。本日はよろしくお願いいたします」
***
二階の会議室へ案内されると、恵美はノートパソコンと資料を広げ、仕様や納期など、事前に詰めていた条件をひとつずつ確認した。
すべて予定通りであることを確かめると、ようやく表情を緩めた。
「ありがとうございます。事前の仕様書通りで間違いありませんね」
「はい。では、実際の製造工程をご案内します。細かい部分は技術担当から説明させますね」
営業担当者が内線を入れて数分後、ドアが控えめにノックされた。
入ってきた男性を見て、恵美が最初に抱いた印象は、丸い、だった。
丸い顔に、どことなく柔らかな体つき。
恵美よりほんの少し年上だろうか。
紺色の作業着を着た三十代前半くらいの長身の男性が、穏やかに笑った。
「技術部の西村です。よろしくお願いします」
笑うと、さらに丸い。
「彩菓堂の鈴鹿です。本日はよろしくお願いいたします」
「では、製造棟へ移動しましょうか。少し歩きますよ」
西村に促され、管理棟を出る。
「今日は東京からですよね。三重は初めてですか」
「実家が名古屋なので愛知にはよく帰るんですけど、四日市は今日が初めてです」
「それなら、今日はぜひ四日市を堪能していってください」
当たり障りのない、穏やかな会話。
やがて製造棟に着き、西村が重い扉を開けた。
一歩中へ足を踏み入れた途端、空気が変わった。
大型の機械が規則正しい音を響かせている。
回転するローラーの間を、印刷されたフィルムが途切れることなく流れていく。機械油とインクの独特な匂いがした。
ラインのそばでは、紺色の作業着を着た従業員たちが働いている。その中には、外国人らしい若い人の姿もちらほら見えた。
そして、西村の雰囲気も変わった。
会議室でにこにこと笑っていたときより、ずっと引き締まって見える。
「こちらが、今回のパッケージを印刷するラインです」
機械の音に負けないよう、西村が声を張った。
「御社の商品は色の再現性をかなり重視されていますので、印刷時の色の濃度やインクの状態を通常より細かく確認する予定です」
恵美は説明を聞きながら、品質管理や、不良品が出た場合の対応についていくつか質問した。
西村はそのたび足を止め、分かることはその場で答えた。
確認が必要なことには、「そこは確認します」とはっきり言う。
曖昧な答えで済ませることは、一度もなかった。
その受け答えに、恵美は少し安心した。
この人は、信頼できそうだ。
事前に調べていた通り、ちょうど二十分ほど歩いたところで、白い外壁の大きな建物が見えてきた。
正門のプレートを確認する。
【東海パッケージ株式会社】
間違いない。
腕時計を見ると、十三時十五分だった。
約束の時間まで、あと十五分。
十分前には着きたいが、十五分前は少し早すぎる。
恵美は門の前で五分ほど待つことにした。
いいころ合いになると、汗を拭い、身だしなみを整えて門をくぐる。
受付で名乗ると、これまでメールと電話で何度もやり取りをしてきた営業担当者が迎えに現れた。
「鈴鹿様、お待ちしておりました。本日は遠いところありがとうございます」
「こちらこそ、お時間をいただきありがとうございます。本日はよろしくお願いいたします」
***
二階の会議室へ案内されると、恵美はノートパソコンと資料を広げ、仕様や納期など、事前に詰めていた条件をひとつずつ確認した。
すべて予定通りであることを確かめると、ようやく表情を緩めた。
「ありがとうございます。事前の仕様書通りで間違いありませんね」
「はい。では、実際の製造工程をご案内します。細かい部分は技術担当から説明させますね」
営業担当者が内線を入れて数分後、ドアが控えめにノックされた。
入ってきた男性を見て、恵美が最初に抱いた印象は、丸い、だった。
丸い顔に、どことなく柔らかな体つき。
恵美よりほんの少し年上だろうか。
紺色の作業着を着た三十代前半くらいの長身の男性が、穏やかに笑った。
「技術部の西村です。よろしくお願いします」
笑うと、さらに丸い。
「彩菓堂の鈴鹿です。本日はよろしくお願いいたします」
「では、製造棟へ移動しましょうか。少し歩きますよ」
西村に促され、管理棟を出る。
「今日は東京からですよね。三重は初めてですか」
「実家が名古屋なので愛知にはよく帰るんですけど、四日市は今日が初めてです」
「それなら、今日はぜひ四日市を堪能していってください」
当たり障りのない、穏やかな会話。
やがて製造棟に着き、西村が重い扉を開けた。
一歩中へ足を踏み入れた途端、空気が変わった。
大型の機械が規則正しい音を響かせている。
回転するローラーの間を、印刷されたフィルムが途切れることなく流れていく。機械油とインクの独特な匂いがした。
ラインのそばでは、紺色の作業着を着た従業員たちが働いている。その中には、外国人らしい若い人の姿もちらほら見えた。
そして、西村の雰囲気も変わった。
会議室でにこにこと笑っていたときより、ずっと引き締まって見える。
「こちらが、今回のパッケージを印刷するラインです」
機械の音に負けないよう、西村が声を張った。
「御社の商品は色の再現性をかなり重視されていますので、印刷時の色の濃度やインクの状態を通常より細かく確認する予定です」
恵美は説明を聞きながら、品質管理や、不良品が出た場合の対応についていくつか質問した。
西村はそのたび足を止め、分かることはその場で答えた。
確認が必要なことには、「そこは確認します」とはっきり言う。
曖昧な答えで済ませることは、一度もなかった。
その受け答えに、恵美は少し安心した。
この人は、信頼できそうだ。
