幼なじみの距離ってなんでしたっけ

高校2年生の春…クラス替えで仲良かった友達とクラスが離れ、新しいクラスにはほとんど知り合いは居なかった。

唯一仲良い人…というより、話せる奴が…俺の幼なじみの" 渡瀬 湊 "である。
だが、俺はこいつにムカついてばかりのせいか、日頃の行いもあるのか…ウザったくてしょうがない。

今だって、お前犬なの?ってなるレベルで、俺の後ろにベッタリで、本当にウザイ。

「あのさ、離れてくんない?」

「いくら春でも、流石に暑い。」

それに、渡瀬はムカつくほどに顔がいいから、先輩後輩関係無くとにかく女子からの人気が凄い。
そのせいで、クラス中の女子の視線が俺の方にきててかなり痛いし、睨まれているような…?

「えー、よくない?」

お前は女子からの視線っていうものを感じ取る力はないのか?なんて文句を垂れながらも、渡瀬はそんな簡単に俺の言うことをきく人間ではないため、半ば諦めている。

2年が始まったばかりだというのに、勘弁してくれよ。

「てか、俺以外の人の所に絡み行って」

「俺はお前みたいに顔よくないから、今だってみんなからの視線が痛くて堪らないんだよ!」

だめだ、暑くてベタベタするのと、渡瀬の顔が良くてイライラしてきてしまう。
俺、平和主義だから喧嘩したくないのに…

「俺は陽と居たいから大丈夫。てか、そこら辺の人にマジで興味ない。」

と、真顔で言う彼の顔に一瞬心臓がドキッとしてしまったのは…きっと、ただの気紛れだろう。

「…あの、渡瀬…くん」
「ごめん…今から少しだけ時間いいかな?」

俺らの元にやって来たのは、少し派手めな一軍女子のリーダーの様な子だった。
確か名前は…

「ごめん、誰?」

「あと、話すなら陽も一緒じゃないと無理。」

相手の子が話す隙を与えること無く、言葉を詰めていく
てか、俺まで巻き込むなよ。
渡瀬が爆弾発言をしたせいで、一軍女子のお仲間さんたちのような人が俺を一瞬睨んでいた気がする。

最悪だ…高校2年生、スタートから幼なじみのせいで地獄を味わう可能性が出てきました。
今すぐクラス替えをお願いします、神様。

「……2人って、どんな関係なの?」

渡瀬に話しかけてきた女子が口を開いたかと思えば、俺らの関係に関する質問て…。
まぁ、こんだけベッタリしていれば、疑問に思うのも不思議ではないだろう。

「ただの幼な-」

「俺が生涯守る奴。」

俺の発言を遮って発した言葉に、一瞬戸惑った。

「「は?」」

流石の発言に、相手の子も俺も唖然としてしまった。
あまりのガチトーンだったこともあり、これ以上なにか言う訳でもなく、相手の子は元いた集団の所へ帰って行った。

「お前、マジ嫌われるよ?」

「別に、陽に嫌われなければいいし」

そもそも、渡瀬みたいなイケメンは静かに高校生活を送りたい凡人みたいな人間と住む世界が違うというのに、なぜそこまでして俺に執着……?
それに、俺とはただの幼なじみってだけなのに…

「なー、今日陽の家行っていい?」

「千紗都ちゃんいるっしょ?」

「俺の母さんをちゃん付けやめてもらって」

幼なじみということもあり、家族ぐるみで仲がいい。
だからといって、ちゃん付けは論外だが。

「とりあえず、母さんに伝えとく」

「ありがと、陽」

ガラガラ、と扉を開ける音が聞こえると同時にホームルームが開始されるチャイム音が校舎に鳴り響いた。

「お前らー席着けー」

「てか渡瀬、その着崩し方辞めろって注意したばっかだよな昨日!?」

「俺はこのスタイルがトレードマークだから!」

そう、こいつはシャツ出しネクタイ緩めの腕捲りが基本スタイル。
それがまた女子の癖かなんか知らないが、刺さるらしい。
……今更だが、なぜあんな冷たくあしらわれても、渡瀬って女子から嫌われたりしないんだ?
これがモテ男子の特権ってか!?
渡瀬の奴うぜぇ……

「はぁ…ホームルーム始めるぞー」

なんやかんや言って、先生楽しそうすね。
注意しながらも顔が怒ってないよ先生、こいつのことはしっかり怒ってくれ、頼む。

「…なぁ、俺緑川。よろしく、宮野。」

突然、隣の…これまたイケメンが俺に話しかけてきた。
俺のクラスはイケメンしかいないのか?
ブサイクに人権なしってか、ちくしょう。

「あ…うん、よろしく…?」

「宮野ってさ、渡瀬とめっちゃ仲いいじゃん?」

「仲が良いというか…幼なじみってだけ」

「あいつさ、俺らと遊び行く時いっつも宮野の話を出すんだよね」

なんだそれ。
てか、渡瀬って遊び行くんだ…いやそりゃあ行くか。
学校始まって1ヶ月経ってるし。

「なんかねー「陽は俺が守るべき存在だから、お前ら絶対手出すなよ?」って圧かけられてて」

そう笑いながら話す緑川。
笑った顔もイケメンだなぁ…って、そうじゃなくて!

「いやあの…渡瀬がすみません。」

「なんかあれば言ってください、叱っておきます」

「そんなかしこまんないで」

「ただ、渡瀬がいっつも宮野のこと話すから、俺らもどんな子なのか気になっちゃって!」

「まぁ…これは守りたくなるっていうか…保護欲出るわ」

渡瀬と一緒に居るせいで、俺という存在への感情がおかしくなってしまっている。
俺、男だから保護欲とか出るはずがない。
可愛さも無ければただの凡人なので、ははっ。

「ね、これから俺とも仲良くしよ?」

「う、うん…?よろしく。」

勢いでOKしてしまったが、話せる人が増えただけマシだと思おう。
それに、緑川はイケメンだが紳士タイプだ。
渡瀬のようにわがままでひっつき虫じゃないから、とても感動して涙が出そう。

「……ねぇ、俺の陽と何話してたの?」

と、心の中で噂をしていると、ご本人登場。
やはり、バックハグは当たり前らしい、彼の中で。

「んー?仲良くなろー?ってだけ」

「陽、こいつと仲良くなりすぎないでね?」

「お前にそこまで縛られる義理無いんだけど?」

「まぁまぁ……ね?」

これ以上は口論がヒートアップするのだと悟った緑川は、優しい口調で俺らを宥めてくれた。
優しすぎる、緑川…この方は神だ。

「あ、てか最近湊って呼んでくれない!」

「湊呼びに戻してよーー」

このわがままな男には、少しお灸を据えてやる!

「渡瀬がわがまま控えてくれたら戻してあげる」

「俺のこと好きなら我慢出来るでしょ?」

ちょっとしたイタヅラも加えてみよう。
普段言わないセリフ…しかも幼なじみの男を相手に言うってちょっと厳しい部分もあるが…

「うわ、今のエロティック」

「最高!な、隼人録音した?」

「録音するはずないでしょ…アホなの?」と緑川。

「キッショ。」と俺。

「てか、宮野って大人しそうに見えて、結構お口悪めなタイプ?ギャップ凄いんだけど」

渡瀬に向ける言葉と、「普段大人しく過ごしている俺」というイメージが掛け離れているのもあって、そりゃあそうなるわな、と腑に落ちた。

「…渡瀬がしつこいからイラついちゃうだけ」

「はは、なるほどね」

俺もたまにあるわ〜って、笑いながら発言する緑川。
やはり、こんな神のような緑川でも、渡瀬にイラつくこともあるのだと知った。

「つーか、俺も授業中とか陽と話したい」

「ごめんね湊、俺が独占するわ」

「は、許さない」

無理無理、絶対やだ!と俺の肩に頭をグリグリしてくる渡瀬。
何歳児なんだこいつは…と思いながらも、そんな姿も少し子供っぽくて可愛らしいと感じてしまう俺を殴りたい。

「おーーい渡瀬、1年の子がお前のこと呼んでるぞー!」

ボソッと「ダルすぎ」と呟くこいつは、俺から離れて足取り重くその子の方へ向かって行った。
女子からモテるだけでありがたいと思え、渡瀬!
俺なんて告白された回数も付き合った回数も両方0だよ!
改めて、世界は不平等なんだと思い知らされた。

「ほんと、湊はモテるよね」

「いや、絶対緑川モテてるよね?神様みたいに優しいし、普通にイケメンだし」

「あれ、俺口説かれてる?」

「渡瀬みたいなこと言うな」

ごめんって冗談交じりに謝る姿ですら、様になっている。
イケメンってのは何をやっても許されるらしい。

「…宮野、自覚ない系?」

「え、なにが?俺がモテてないってやつ?」

「俺はモテてないってことに関しては、しっかりと自覚してるよ?」

なんか、自分で言ってて悲しくなってきた。

「あー…無自覚系男子か。」

「あの、驚かずに聞いてね?」

「うん…?」

「その…宮野って、知らないだけで女子からも男子からも噂なるくらいかなり可愛いと評判なんですよ」

「…は?」

俺が?可愛いと評判?
流石にからかい過ぎだな、緑川のやつ。

「待って、流石に冗談にも限度があるよ?」

「いくらイケメンだからって-」

「…おい、隼人お前、陽になに教えこんだ?」

声のトーンがワントーン低く、機嫌が悪いのだとすぐ分かるくらいの渡瀬が戻ってきた。

「宮野が可愛いって話。」

「こいつに変なこと吹き込むなよ」

「それで自覚されたら俺が困るから。」

なんの話をしてるのか、俺にはさっぱりだ。
てか、詳しく聞きたいのに邪魔された……しかも、一限目始まるチャイム鳴ったし!

「も、もういいから1回席戻って!渡瀬!」

「……ん」

今は珍しく俺の言うことを1回で聞いてくれた。
席に戻っていく渡瀬の背中は、なんだか少し寂しさが漂っていた気がするのは、俺の錯覚なのだろうか。

「…これ以上言うと湊に殺されちゃうかもだし、いつか教えてあげるね」

「え…そんな〜…」

見事、続きは話して貰えずのまま、一限目が始まった。
やっぱ、顔が良い幼なじみは今日もうざい。