完璧主義OL、サ飯に学ぶ

 社会人五年目、東京出張なんて慣れたもの、な〜んて高を括っていた自分を殴りたいです、ハイ。
「何ココ……?」
 無人駅を降りた私は、うだるような暑さ、プラス鬱蒼と茂る山の緑と騒々しい蝉の声に圧倒されていた。
 ファンシー雑貨の会社で企画営業をしている私。今日は本社のある地方都市から一人、一泊で東京にやって来た。今回の出張は、足を伸ばして隣の県へ。
 取引先との商談の前に、カフェにでも寄って一人ミーティングするつもりだったんだけど……。降り立った場所は、自然いっぱいの山の中。
「カフェがない!」
 っていうか、人っ子一人いやしないんだけど!
 私の悲痛な叫びは、真夏の喧騒(蝉の)に吸い込まれていった。


 一時間後。私は商談相手のイラストレーター・江角(えすみ)遥香(はるか)さんのお宅兼アトリエへとやって来た。駅から徒歩十五分。小さな古民家を改装したという、温かみのあるレトロなお家だ。
 インターホンを押すと、江角さんのおっとりした可愛らしい声が聞こえた。
『は〜い』
「こんにちは。二時にお約束していた川辺(かわべ)です」
『こんにちはぁ。今、開けますね』
 あ、結局、カフェはなかったので、苦肉の策として、駅近くにあった定食屋に入りました。ランチはすでに食べ終えていたけど、店員さんに聞いたら、飲み物だけの注文でも居座れた。優しい世界。
 だから、事前準備は完璧だ。加えて、乱れ一つないアップヘアに崩れ知らずのメイク、ノースリーブのサマーニットに接触冷感テーパードパンツという、デキる女感満載の私。抜かりはないわよ!
 ドアが開き、江角さんがちょこんとお辞儀をする。
「川辺さん。こんな山の中まで、ようこそおいでくださいました」
 江角さんは、私より六歳年上の三十三歳。でも、随分と若く見える。化粧っ気のない肌はツヤツヤで、まるで少女のよう。
 緩くウェーブした長い髪を後ろでまとめて、リネン素材の小花柄ワンピースを着ている。
 私が同じワンピースを着ても、似合わないどころか部屋着感が出てしまうだろう。ナチュラルガーリーコーデは、地味に着る人を選ぶ。