笹と川のせせらぎ

ある日、彼女の病室を訪れると「スゥー、スゥー」という寝息をかきながら、すやすやと眠っていた。
せっかく寝ているのに起こすのは申し訳ない!としばらく寝ている姿の彼女を観察する。

いつもは瞬きばかりして、どんなことにも目を輝かせていた彼女。
寝ていると彼女のトレードマークとも言える「忙しなさ」が嘘のように、静かで、静寂が支配していた。
そして…ものすごく可愛かった。
天使かな?
長い間、入院しているせいで髪の毛は伸びに伸びて肩の下まで到達しているので、
もはや「男の娘」の面影はない。
誰が見たってささかわは「女の子」にしか見えない。
加えて、目を瞑ってわずかに空いた口から息をする姿がなんだかとてつもなく可愛いのだ。
そんな、あられもない姿を拝むことができるのはお見舞いを毎回来ている私の特権だ!と言わんばかりに誇っていると
彼女が起きた。

『ふわぁ………あ、あれ、君来てたの?』
『ヤダ、はずかし!会いに来てくれたんなら起こしてよ!』

ぽかっとさして強くもないパンチをお見舞いされた。

「ん、ごめん。あまりにも気持ちよさそうに寝てたから起こすの悪いな~って」
「眠り姫をキスで起こす機会を伺ってた」

そう冗談で言ってみた。
彼女は急に顔が真っ赤になり、顔をそむけて

『そ、そういうことはしなくて…いい』
『ボクの許可なしにそんなことしたら、怒るからね!?』

しかし、彼女は本気で怒っているわけではなく、それが冗談だとわかる。

「キスする前に起きたからギリギリセーフだね!」
「でもざんねーーん」
「ささとキス、してみたかったな?」

もちろん冗談だ。
冗談のつもりで言ったのに、彼女はみるみる赤くなり、目が泳いでいた。

『そ、そ、そ、そんな冗談言わないで!本気にしちゃうでしょ』
『君は最近そうやって時々、ボクをからかうんだから…もう』

頬を膨らませて怒ったポーズをするが、もちろん本気では怒っていない。
きっと照れ隠しなのだろう。
なんかとても可愛くてずっと弄ってあげたい。

「ささも最近、なんていうか…変わったよね」
『え?』
「こう、女の子っぽくなった。うん」
『い、いきなり、何おかしいこと言ってるの!?』
『前からだよ!?』
『ボクは最初からこんな感じ!』
『君が気づかなかっただけでしょー!』
『全くもう…こんなにずっといるのに気づかないなんて心外だなっ』

そう言って自分を正当化しようとする。
もちろん、認めるつもりはない。

「なんだろー劇的な変化があったのは夏祭りの時からかな~?」
「今までも少しずつ変化はあったけど、夏祭りで爆発した感じ、かな」
『な、なに言ってるんだ君は!』
『前からボクはボクだっ』

しどろもどろになっていてますます可愛かった。
だから優しく頭を撫でてあげた。

彼女は『あっ…』とだけ言い、頭のなでなでに全神経を集中させ、それを堪能していた。