笹と川のせせらぎ

放課後、彼女の教室に顔を出すとポツンと一人座っていた。
教室にはすでに誰もいない。
少し早い夕日が教室をオレンジ色に染めている。

「ささ…?」

声をかけようとして押し殺す。
彼女は人知れず、泣いていた。
どうしたんだろう。
耳を澄まさないと聞こえないくらい小さなすすり泣き。
いてもたってもいられず、ズンズンと教室の中に入っていく。

「ささ、遅くなっちゃってごめん。一緒に…帰ろ?」

彼女はハッとしてこっそりと涙を拭き、何事もなかったかのように私を見上げる。

『う、うん。帰ろ!』
『遅いよバカっ』

もちろん遅いわけでもなく、「バカ」というのも言葉のあやだ。
さっきまでの現状を隠すように強がっただけだ。

「うん。遅くなって申し訳ございません、お嬢様?」

冗談を冗談で返してみる。

『なにそれ面白い』
『ふふふ』

笑ってくれた。
涙を流す彼女を見たくはない。
彼女もつらいだろうが、私もそんな姿を見るのは辛いし、悲しい。
だから笑わせてあげたかった。

「ささ、どうしたの?なにかあった?」

思い切って聞いてみることにした。

『ん…』

彼女も打ち明けてもいいものか、考えあぐねているようだった。

『えっとね…』
『今度はボクがいじめられちゃった』
『ははは…』

冗談っぽく話してくれたが、とても悲しそうだった。

「な、なんで…」
「だってささは人気者だったじゃないか」

『他とは違うってだけで仲間外れにするんだろうね…』
『仕方ないよ。ボク、みんなと「違う」し』

そう、笑顔で語るが、目は笑っていなかった。

そんな彼女に私は何をしてあげられるのだろう。

今はただ、手を繋いであげることしか、できなかった。


「ささ、一緒に帰ろ」

ただ、彼女の手を握って、引っ張ってあげた。