出張の晩ごはんは各自で

鼻歌交じりに夏美は持ってきたスティックカフェラテを備え付けのカップに入れ、お湯を注いだ。

「しまった。
アイツにもわけてやればよかった」

カフェラテは多めに持ってきている。
浅生もオムレットを買っていたので渡せばよかったが、今頃気づいてももう遅い。

「まあいいか」

気持ちを切り替えてオムレットのパックを開ける。
ホテルにはコーヒーのサービスもあるし、自販機だってある。
飲みたくなれば子供ではないのだから自分で調達するだろと夏美は片付けた。

「やっぱり美味しい」

オムレットは北九州にある、老舗パン屋が作っているものだ。
ふわふわの生地にクリームが挟んであり、ひとくちでぺろっといける。
福岡のスーパーには比較的、冷凍のものが置いてあった。
あっさりと甘く、気づいたらいくつもいってしまう、危険なものだ。
一度、ヤケになって四パック、計二十個を買ったことがあるが、秒でなくなった。

映画は佳境に入っているらしく、トイレの花子さんが校長先生の銅像と戦っていた。

「なんで校長先生の銅像とかあるねん」

思わずえせ関西弁でツッコむ。
まあ、それくらいわけのわからないのがB級邦画ホラーのいいところだと夏美は思っている。

カフェラテ片手にゆっくりとオムレットを堪能していたが、最後のひとつになってしまった。

「ああっ、終わってしまう……」

名残惜しく口に入れたオムレットは、ふわりと消えてしまった。

「さーて、歯ー磨いて寝るか」

ちょうど映画も終わり、夏美はテレビを消して立ち上がった。


翌朝、ロビーではすでに浅生が待っていた。

「おはよう」

昨日と同じくきっちり髪をまとめ、パンツ姿の夏美に昨晩の酒が残っている様子はない。

「おはようございます、先輩!」

一方の浅生も、眩しいばかりに笑顔全開だ。
とりあえず二日酔いの後輩の世話をするとかいう恐れていた事態にはならず、夏美はほっと胸を撫で下ろした。

「じゃあ行こうか」

「はい」

今回の監査は軽い内容だったので一日のみで、今日はもう東京へ帰って本社へ報告に行くだけだから気が軽い。
空港へと向かう地下鉄の中でちらちらと浅生の顔を夏美がうかがう。

「どうかしましたか」

「いや、なんでもない」

眼鏡の向こうで何度か瞬きした彼に不思議そうに尋ねられ、夏美は少し熱を持つ顔で目を逸らした。
昨日はどうだったのか聞きたい。
しかし、もし引かれていたらと思うと怖くて聞けなかった。

空港でお土産を買い、搭乗を待っているあいだも浅生は昨晩のことについてなにも言わない。
やはりあんな方法でストレス発散しているなど軽蔑されたのではと、夏美の中でだんだんと不安が降り積もっていった。

「先輩」

飛行機が安定飛行に入り、サービスのコーヒーを受け取った彼が思い詰めたように口を開く。