出張の晩ごはんは各自で

自分たちの仕事が人の気持ちを逆なでするものだというのはわかっているので、ある程度は飲み込む。
それでもあの場でもし、営業部長が浅生を殴っていたら、人事に上げていたが。

唐揚げを食べてしまい、次はイカタル弁当の蓋を開ける。
言うなればのり弁のおかずがタルタルソースのかかったイカゲソの唐揚げとちくわの天ぷら、昆布の佃煮に代わったものだ。

「さらに追いタルタルーっと」

別で買っておいたタルタルソースを夏美は豪快にかけていく。
最初に食べたとき、タルタルソースが足りないと思った。
そのあと偶然、福岡出張中に観たローカル番組で、本場では溺れるほどタルタルソースをかけるのだと知ったのだ。
その後、スーパーでは別にタルタルソースを買ってかけている。

「おおーっ、背徳……」

イカゲソを覆い隠すタルタルソースにごくりと喉が鳴った。
普段ならこんな高カロリー食など食べないが、出張のときはなにをやっても許される……と、夏美はもはや開き直っている。

タルタルソースごとご飯とイカゲソを箸で掬い、慎重に口に運んで入れる。
ほぼタルタルソースの味しかしないが、その中でイカがぷちぷちと切れ、いいアクセントになっている。
さらにご飯という固形物があるので食べ応えもあった。

「うひっ。
うひひひっ」

知らず知らず、笑い声が漏れる。

「うんうん、やっぱりいいよな」

一度、日本酒でさっぱりと口を流し、二口目にいく。
福岡出張に来たときにしか食べられないこのイカタル弁当が、夏美の大のお気に入りだった。

「てか浅生、あれ、ヤバいな。
緩和どころか追撃してるし」

以前は怖がられる夏美を、いつもにこにこ笑っている仏の東さんが中和していた。
浅生も同じくにこにこ笑って人当たりがよく、上司は東さんの後継者として期待していたはずだ。
なのに実態は。

「愛想がよく見えるだけの、慇懃無礼で容赦ないヤツじゃん……」

とうとう夏美の口からはぁーっと大きなため息が落ちた。
ちくわの天ぷらにもたっぷりとタルタルソースを絡め、もそもそと囓る。

「いや、でも、悪いヤツじゃないし。
ちゃんとフォローはしてくれたし、フォローは」

行儀悪く、箸を振りながら自分に言い聞かせた。
それに怒りの矛先を彼が彼自身へと向けてくれたおかげで助かったのもわかっている。

「まあ明日、礼くらい言うか」

うん、と一回、頷き、夏美は弁当箱を手に取った。
そのまま、残りのご飯を掻き込んでいく。
濃厚なタルタルソースにぷんと海苔が磯の香りを加え、さらに甘塩っぱい昆布の佃煮が後追いしてきて、これ以上ないほどの旨味が口の中を支配する。

「ごちそうさまでした」

空になった弁当箱に、夏美は手をあわせた。

食事を済ませたあとはデザートが待っている。

「ふんふんふんふーん」