出張の晩ごはんは各自で

さっぱりしたあとは風呂に入って完全にオフモードになった。

髪を乾かしてスキンケアをし、テレビをつける。
ここのホテルは入っている動画配信サービスが自分のアカウントで観られるのが魅力だ。

「なんにしようかなー」

適当に流していき、気になっていたB級邦画ホラーを見つけたのでそれにする。
ひとり愚痴大会にはげらげら笑える映画だと夏美は決めていた。

「さー、呑むぞー」

スーツケースから水色の巾着を取り出す。
特注で母親に作ってもらったその中には、冷酒グラスが入っていた。

「ふふーん」

飲み口部分が青く、下に向かって透明にグラデーションしていくグラスへとくとくとお酒を注ぐ。
八分目まで満たされたところで、夏美はグラスを手に取った。
底に手を添え、くいっと中身を一気に飲み干す。
日本酒はキリリと辛いが口当たりはよく、するりと喉を滑り落ちていく。
同時に芳醇なラフランスのような香りが鼻を抜けていった。

「くーっ!」

グラスを高く上げ、夏美は手足をばたばたとさせていた。

「最高!」

再びグラスに注ぎ、今度は狭いテーブルの上に倒さないように置く。
唐揚げのパックを開け、ひとつを口に放り込んだ。

「やっぱうまいよな」

冷めた唐揚げはジューシーとは言えないが、代わりによく漬け込まれた出汁の味が強くなる。
唐揚げの有名な大分県が隣だからか、夏美は東京のスーパーで買う唐揚げよりも福岡のほうが美味しい気がしていた。

唐揚げをつまみに日本酒を飲み進める。

「あーんな怯えた目で見なくてもいいじゃん?
別にちゃーんとしてればなんにも言わないんだし。
ちゃーんとしてれば、ね。
……え、なんで、テケテケがトイレの花子さん乗せて徘徊してんの!?」

つい、目に入ってきた映画のシーンにげらげらと笑っていた。

「だいたい、なんで娘ほど年下の私をあんなに怖がってるのかわけわからん。
そんなに私が怖いかってゆーの」

コンプレックスを刺激され、しんみりとなりそうな気持ちを振り払うように日本酒を呷る。
しかし、グラスを置きながら危うく噴き出しそうになった。

「いや、人体模型!
内臓ばら撒きながら全力疾走したらダメだろ!
ひぃーっ、お腹痛い……」

酔っているのもあり、情緒がおかしい自覚はある。
けれどこれがストレス発散なので夏美にとっては通常運転だった。
そういうわけでこんな姿は決して、後輩の浅生には見せられない。

「でもさ、あんなに机バンバン叩くことなくない?
私だって怖いんですけど?
てか、部下にやったらパワハラだよ、パワハラ。
男女関係なくパワハラですが?」

愚痴を吐きつつ、ひと息にグラスを空けてふうっとため息ともつかない息を吐く。

「……まあ、人事案件にはしないけど」