出張の晩ごはんは各自で

学生かとツッコみたくなるほど興奮気味に呼ばれ、鬱陶しく夏美は振り返った。

「商品名は焼き鳥なのに豚バラなんですが」

浅生はくすくす笑っているが、なにがそんなにおかしいのだろうか。

「福岡だからな」

ため息交じりに彼に説明してやる。

「え?」

「福岡は焼き鳥といえば豚バラなんだ。
焼き鳥屋に行けばみんな頼んでる」

「へー、そうなんですね」

軽く感心しながら、彼は焼き鳥という名の豚バラ串を自分のカゴに入れた。
その横で夏美は目当てのものを探している。

「あった」

夏美が手に取ってカゴに入れた弁当は蓋まで不透明なタイプで、中身は見えない。

「それ、なんです?」

近寄ってきた浅生が夏美のカゴの中をのぞき込んだ。

大牟田(おおむた)名物イカタル弁当」

「大牟田……ってどこですか?」

情けなく彼が笑い、脱力する。

「福岡の南のほう。
久留米よりさらに熊本寄りだな」

「へぇ。
博多にいるのに大牟田名物ですか」

「いいだろ、好きなんだ」

そう言いつつ、夏美の目はすでに別のものを探していた。

「これこれ」

すぐにアジフライと一緒に置かれていたパックを取り上げる。
中にはタルタルソースだけが詰めてあった。

「え、タルタルソースだけですか?
アジフライは買わずに?」

「うるさいな、いいんだ」

少し熱を持つ顔で移動する。
浅生がなんと言おうと、これは大事なのだ。

「オマエは決まったのか?」

「俺はこれにします!
明太子と高菜と両方食べられるんで、お得です!」

彼が見せてきたのは明太子がひと腹のった、説明どおりの弁当だった。

「福岡に来たって感じがします」

嬉しそうな彼が不憫になってくる。
やはり少しくらい無理をしてでも食事に連れていってやったほうがいいのでは、と夏美は申し訳なくなった。

「なあ、やっぱり……」

「先輩」

言いかけた夏美の唇を封じるように、浅生が軽く人差し指で押さえる。

「俺、今、めっちゃ楽しいんで」

夏美と目をあわせ、彼が眼鏡の向こうでにっこりと微笑む。
後輩に気を遣わせたとさらに落ち込んだがこれ以上、彼の気持ちを無下にするわけにはいかない。

「これも食え。
福岡の有名な会社の出汁を使ってて、うまいんだ」

唐揚げのパックを取り、浅生と自分、両方のカゴに入れる。

「わーい、先輩のオススメだー」

嬉しそうににこにこ笑っている浅生の背後に、夏美はなぜかぶんぶん振られている犬の尻尾が見えた気がした。

目的のものは買ったので、コーナーを移動する。
次は冷凍食品だ。

「先輩先輩、肉まんが充実してます」

眼鏡の幅に迫らんばかりに見開かれた浅生の、目の向こうには肉まんがショーケース一台に詰められていた。

「しかも、デカいです」

「ああ、福岡には有名な豚まん屋がいくつかあるんだ」