左手でスーツケースを引き、右手でスマホを操作して調べている浅生を止める。
「初めての出張だし、私が食事に連れていってやったほうがいいのはわかってる。
わかってるが、今の私は愚痴しか言わないからきっとオマエを不快にさせる。
だから、夕食は各自で」
怒鳴られ、詰られるのにはもう、慣れた。
監査とはアラを探し、人に嫌われる仕事だから仕方ない。
けれど、誰かがやって不正を糺さねばならない、必要な仕事だというのも理解している。
しかし人間なので心にはダメージを負うし、仕事が終わったあとはひとりで盛大に文句を言いたい。
それを後輩に聞かせるわけにはいかないのもわかっている。
「あー、了解です」
素直に彼が承知してくれ、ほっとしたのも束の間。
「ちなみに先輩はどうするんです?」
身体を横に折り曲げ、顔をのぞき込まれた。
「私か?
私はスーパーで買って帰る」
夏美が歩きはじめ、浅生も着いてくる。
「え、せっかくの出張なのに?」
「もう外食は飽きた。
金はかかるしゆっくりできんし」
たまの出張ならば楽しみにもなるだろうが、月に三、四回は出張が入る。
しかも内容によっては一週間と長期になり、すでに出張でご当地グルメを楽しむなんて気持ちはない。
「スーパーで食べたいものを買い、酒も調達し、ホテルで風呂も済ませてあとは寝るだけにして思いっきり愚痴りながら飲んで食べて、限界が来たらガンガンに冷やした部屋で布団にくるまって、寝る。
私の出張ストレス解消法だ」
これは前にペアを組んでいた、東さんから伝授された方法だ。
きつく当たられて落ち込んでいたときに『秘密だけどね』と教えてくれた。
もっとも、彼の場合は奥さんに酒を止められていたので、出張でこっそり飲む酒が楽しみだったらしいが。
「へぇ。
それ、楽しそうですね。
俺もやりたいです」
「へ?」
まさか、彼が乗ってくるなんて思わず、夏美の足が止まった。
「いや、オマエはどこか、食べに行ったらいいじゃないか。
それこそ屋台でも」
彼の人懐っこい性格なら、他の客ともすぐに馴染みそうだ。
「えー。
俺だって怒鳴られたりしてけっこう、きてるんですよ?」
「ああ、すまん」
行こうと促され、再び歩きだす。
支社を出てからもややもすればテンションの高い浅生がダメージを負っているようには見えないが、もしかしたらあれは演技かもしれないと夏美は考え直した。
もうすっかり馴染みとなった、ホテル近くのスーパーに寄る。
「このスーパー、福岡ローカルです?」
「ああ」
浅生に返事をしつつ、夏美はカゴを持って真っ直ぐに惣菜コーナーへと向かった。
ここに来たら買うものはだいたい決まっている。
「先輩先輩!」
「大きな声を出すな、聞こえる」
「初めての出張だし、私が食事に連れていってやったほうがいいのはわかってる。
わかってるが、今の私は愚痴しか言わないからきっとオマエを不快にさせる。
だから、夕食は各自で」
怒鳴られ、詰られるのにはもう、慣れた。
監査とはアラを探し、人に嫌われる仕事だから仕方ない。
けれど、誰かがやって不正を糺さねばならない、必要な仕事だというのも理解している。
しかし人間なので心にはダメージを負うし、仕事が終わったあとはひとりで盛大に文句を言いたい。
それを後輩に聞かせるわけにはいかないのもわかっている。
「あー、了解です」
素直に彼が承知してくれ、ほっとしたのも束の間。
「ちなみに先輩はどうするんです?」
身体を横に折り曲げ、顔をのぞき込まれた。
「私か?
私はスーパーで買って帰る」
夏美が歩きはじめ、浅生も着いてくる。
「え、せっかくの出張なのに?」
「もう外食は飽きた。
金はかかるしゆっくりできんし」
たまの出張ならば楽しみにもなるだろうが、月に三、四回は出張が入る。
しかも内容によっては一週間と長期になり、すでに出張でご当地グルメを楽しむなんて気持ちはない。
「スーパーで食べたいものを買い、酒も調達し、ホテルで風呂も済ませてあとは寝るだけにして思いっきり愚痴りながら飲んで食べて、限界が来たらガンガンに冷やした部屋で布団にくるまって、寝る。
私の出張ストレス解消法だ」
これは前にペアを組んでいた、東さんから伝授された方法だ。
きつく当たられて落ち込んでいたときに『秘密だけどね』と教えてくれた。
もっとも、彼の場合は奥さんに酒を止められていたので、出張でこっそり飲む酒が楽しみだったらしいが。
「へぇ。
それ、楽しそうですね。
俺もやりたいです」
「へ?」
まさか、彼が乗ってくるなんて思わず、夏美の足が止まった。
「いや、オマエはどこか、食べに行ったらいいじゃないか。
それこそ屋台でも」
彼の人懐っこい性格なら、他の客ともすぐに馴染みそうだ。
「えー。
俺だって怒鳴られたりしてけっこう、きてるんですよ?」
「ああ、すまん」
行こうと促され、再び歩きだす。
支社を出てからもややもすればテンションの高い浅生がダメージを負っているようには見えないが、もしかしたらあれは演技かもしれないと夏美は考え直した。
もうすっかり馴染みとなった、ホテル近くのスーパーに寄る。
「このスーパー、福岡ローカルです?」
「ああ」
浅生に返事をしつつ、夏美はカゴを持って真っ直ぐに惣菜コーナーへと向かった。
ここに来たら買うものはだいたい決まっている。
「先輩先輩!」
「大きな声を出すな、聞こえる」



