「あの、すみません」
夏美が手を上げると、控えていた課長がすっ飛んできた。
「この会社、数ヶ月分の伝票が抜けているんですが、なんでですか」
「えーっと、そのー」
課長は額の汗を拭きながら、助けを求めるように浅生へと視線を送った。
「この会社、以前、本社から無許可の下請け発注を注意されたところですよね。
そのあたり、きちんと改めてチェックが必要ですので書類は抜けなくよろしくお願いします」
「は、はいーっ!
すぐに揃えてまいります!」
半泣きになりながら課長が部屋を出ていき、夏美の口からため息が漏れる。
浅生に言いたいことはあるが、今は時間が惜しい。
ずっと課長の怯えたような視線に胸を痛ませながら仕事を続ける。
「おい!」
唐突にドアがバン!と勢いよく開き、課長が宥めるのも無視してグレイヘアーで体格のいい男が夏美へと詰め寄った。
「検討し直しってどういうことだ!」
口から唾を飛ばし、机を殴りつける。
しかし夏美は眉ひとつ動かさなかった。
「下請け選定の承認がありませんので、認められません」
極めて冷静に彼――営業部長へと告げる。
「こことはもう長い付き合いなんだよ!
問題がないのはオレが知っている!」
相手が小娘なので威嚇すれば従うとでも思っているのか、部長はバンバンと机を叩いた。
それに怯む気などさらさらないが、それでも一打ごとに夏美の心を削っていく。
「も……」
夏美が口を開きかけたところで、浅生が頭を上げた。
「あなたが知っていても我々は知りません。
規則は規則ですので。
あと、これとこれも下請け選定の承認がありませんので差し戻しです」
ドン!ドン!と部長の前にファイルを積み、浅生は口端をつり上げてにっこりと笑った。
「……くぅっ」
顔を真っ赤にし、両の拳を部長がぶるぶると震わせる。
「これ以上は人事案件になりますが」
「くそっ、本社の犬ふぜいがいい気になるなよ!」
夏美から淡々と忠告され、部長はファイルを掴んで足音荒く出ていった。
「オマエ、少しは殴られるかもとか考えろよ」
再び書類に目を落としながら、浅生に注意する。
「え?
ああいう人は案外、そこまで度胸はないんで大丈夫ですよ」
先ほどのことなどもう忘れたかのように、彼も書類を捲っている。
意外と大物なのかもなと夏美は少しだけ感心していた。
その後も何度か同じようなことがありつつ、本日の業務を終える。
「あー、腹減ったー!」
「お疲れ」
支社を出た途端、声を上げる浅生の背中を慰めるように叩いていた。
監査はとにかく時間が惜しいので、昼食を食べる暇などない。
飛行機の中で早めの昼食は摂ってきたが、腹も空こうというものだ。
「なに食べます?
ここからだとホテルに荷物を預けてから博多駅に一回、出たほうがいいのかな」
「あー、わるい」
夏美が手を上げると、控えていた課長がすっ飛んできた。
「この会社、数ヶ月分の伝票が抜けているんですが、なんでですか」
「えーっと、そのー」
課長は額の汗を拭きながら、助けを求めるように浅生へと視線を送った。
「この会社、以前、本社から無許可の下請け発注を注意されたところですよね。
そのあたり、きちんと改めてチェックが必要ですので書類は抜けなくよろしくお願いします」
「は、はいーっ!
すぐに揃えてまいります!」
半泣きになりながら課長が部屋を出ていき、夏美の口からため息が漏れる。
浅生に言いたいことはあるが、今は時間が惜しい。
ずっと課長の怯えたような視線に胸を痛ませながら仕事を続ける。
「おい!」
唐突にドアがバン!と勢いよく開き、課長が宥めるのも無視してグレイヘアーで体格のいい男が夏美へと詰め寄った。
「検討し直しってどういうことだ!」
口から唾を飛ばし、机を殴りつける。
しかし夏美は眉ひとつ動かさなかった。
「下請け選定の承認がありませんので、認められません」
極めて冷静に彼――営業部長へと告げる。
「こことはもう長い付き合いなんだよ!
問題がないのはオレが知っている!」
相手が小娘なので威嚇すれば従うとでも思っているのか、部長はバンバンと机を叩いた。
それに怯む気などさらさらないが、それでも一打ごとに夏美の心を削っていく。
「も……」
夏美が口を開きかけたところで、浅生が頭を上げた。
「あなたが知っていても我々は知りません。
規則は規則ですので。
あと、これとこれも下請け選定の承認がありませんので差し戻しです」
ドン!ドン!と部長の前にファイルを積み、浅生は口端をつり上げてにっこりと笑った。
「……くぅっ」
顔を真っ赤にし、両の拳を部長がぶるぶると震わせる。
「これ以上は人事案件になりますが」
「くそっ、本社の犬ふぜいがいい気になるなよ!」
夏美から淡々と忠告され、部長はファイルを掴んで足音荒く出ていった。
「オマエ、少しは殴られるかもとか考えろよ」
再び書類に目を落としながら、浅生に注意する。
「え?
ああいう人は案外、そこまで度胸はないんで大丈夫ですよ」
先ほどのことなどもう忘れたかのように、彼も書類を捲っている。
意外と大物なのかもなと夏美は少しだけ感心していた。
その後も何度か同じようなことがありつつ、本日の業務を終える。
「あー、腹減ったー!」
「お疲れ」
支社を出た途端、声を上げる浅生の背中を慰めるように叩いていた。
監査はとにかく時間が惜しいので、昼食を食べる暇などない。
飛行機の中で早めの昼食は摂ってきたが、腹も空こうというものだ。
「なに食べます?
ここからだとホテルに荷物を預けてから博多駅に一回、出たほうがいいのかな」
「あー、わるい」



