おいでんさい、ドライブイン奥美濃! ~悪女は猫店長の手を借りて幸せ出張めしの恩返しをする~

 おなかの虫をなだめるように、コップの水を流し込んだ。茶色のプラスチックコップはすりきれてところどころ白くなっていて、見方を変えれば歴戦の猛者、かもしれない。
 男性はもくもくと食べて、席を立ちあがる。
「女将さん、お代は置いとくよ!」
「はーい、毎日トラックを運転してえらいねえ。ありがとうだなも!」
 先ほどの女性が返事をする。『えらい』は大変だ、とか疲れるとかいう意味だ。
 女将さんだったんだ。あの男人は常連さんだな、きっと。
 料理を待ちながらスマホを見た。
『出張先でおいしいごはんをいただきました!』
 投稿サイトにはおしゃれなごはんが並んでいる。彩りもよくて、世の中のみんなが思う『出張』とごはんだ。
「いいなあ……私もこういう出張したい」
 スーツを着て新幹線や飛行機に乗ってノートパソコンを広げて、みたいな。
 対する私は、動きやすい服装でコンビニの制服を社用車に積んでド田舎の道を走る。
 って、これも出張でいいのかな?
 気になって調べてみると、出張は「普段は行かない勤務地で勤務をすること」となっているから、その定義なら当てはまる。
「なんて地味な出張……」
 恨みがましくスマホを眺めていると、じゅうじゅう焼ける音が響き、味噌がこげる香ばしい匂いが漂ってきた。
 おなかの虫がまた暴れ始めた。もういいよ、今のうちに好きなだけ鳴きなよ。
 地べたに仰向けになってだだをこねる子供みたいに鳴いているんだろうな。だけどこのあと、ごめんなさいって泣くくらいに食べてやるんだから。食後のデザートは、そうだ、隣のサークルMでアイス!
 んふふ、と笑みをこぼしながら計画を立てていると、黒っぽいお盆に定食を載せて女性が現れた。
「明宝ハムとけいちゃん焼き定食、おまちどうさまだなも」
 しわくちゃな手が目の前にそっとお盆を置いてくれて、みそ汁の匂いが鼻孔を満たした。
 ああ、いい匂い。日本人でよかった。
 みそ汁は赤だしで、お麩と豆腐が浮かんでいる。ネギとわかめも入って、完璧に『みそ汁』だ。白いごはんは、ほかほかのつやつや。
 そして、メインのけいちゃん焼き!
 この店では鶏もも肉を使っているようだ。ざくぎりキャベツなどの野菜を味噌で炒めたシンプルな料理。湯気と一緒に漂う香りに、胃の準備運動はとっくに完了している。