おいでんさい、ドライブイン奥美濃! ~悪女は猫店長の手を借りて幸せ出張めしの恩返しをする~

 お客さんはいかつい男性がひとりだけ。黙ってスマホを見ている。
 厨房は扉で完全に仕切ることができるようだ。今は開け放たれていて、木のビーズを連ねたのれんがかかっている。
 めったに見られないものの連続で、だんだんテンションが上がってきた。
 リアルに昭和を残していて、ノスタルジック。こんなのなかなか見られないよ!
「いらっしゃいませー。よういりゃあした」
 暖簾をじゃらっとくぐり、割烹着を着た小柄の高齢女性が現れた。しわの寄ったにこやかな顔に、それだけで心が安らぐ。
「ひとりですけど、いいですか?」
「どうぞどうぞ。お好きな席に座ってちょーでゃー」
 語尾ががっつりなまっていて、亡くなった祖母を思い出した。「〇〇してください」のときに「ちょーでゃー」になるんだよね。美濃弁と名古屋弁ってほとんど同じ気がする。
 私はどきどきしながら窓際の席に座った。窓も型板ガラスで、桜の模様が入っている。
 ほかにお客さんがいないので、まるで貸し切りだ。外には車が停まっていたのに、ぜんぶコンビニ客だったようだ。
「メニューは壁に貼ってあるもんで。決まったら呼んでちょーでゃー」
「はい」
 壁に雑然張られたそれらを見る。マジックででかでかと書かれている字は癖がある。紙は劣化して茶色になって、はがれかけているものもある。
 こういうの、直したらいいのに。
 って、それよりもメニュー選ばなきゃ。
 ハンバーグは定番だよね。カレーは郡上カレー……じゃなさそう。アユの塩焼き定食に、けいちゃん焼き定食って、どうして急に人名?
 首をひねっていると、さきほどの女性がお盆を持って現れた。香ばしいいい匂いがする。これは味噌かな?
「お待たせしました。けいちゃん焼き定食やね」
 男性の前に置かれたそれを見て、私は思いだした。
『けいちゃん』だ! こっちのB級グルメ!
 どうせならこれがいい。
明宝ハムもあるんだ? こんなん頼むに決まってるじゃん!
「すみません」
 女性を呼んで明宝ハムとけいちゃん焼き定食を注文すると、彼女は紙の伝票に書き込み、厨房にひっこんだ。