おいでんさい、ドライブイン奥美濃! ~悪女は猫店長の手を借りて幸せ出張めしの恩返しをする~

 車を走らせるうちにも、どんどんおなかがすいてくる。
 見えるのは動物注意や急カーブ注意の看板ばかり。
「156号線なんてずうずうしい! 絶望ロードって名前つけてやるっ!」
 自分でもよくわからない悪口を口走る。
 確か昭和の頃は死亡事故が多くて、156号をもじって「イチコロ」なんて不名誉なあだ名をつけられてたんだっけか。
 ああ、そんなことどうでもいい。もう耐えられない。
 暴れまわる腹の虫をなだめすかしてるうちに、なじみのマークが目についた。白地にオレンジのⓂ……自社のコンビニのトレードマーク。
 看板が希望のように光って見える。そうか、希望は絶望があってこそ輝くんだ!
隣接する古びたドライブインには目もくれず、サークルMに停めて車を降りた。
駐車場はドライブインと共有みたいで、すごく広い。トラックでも余裕だろう。
 ごめん。私が買うとお客さんのぶんが減るけど、ごめん。
 けーっけーっ! とどこからか雉の鳴き声がした。うん、田舎の情緒たっぷり。だけど今はそれを楽しむ余裕はない。
 ととと、と視界を横切る動物がいた。
「あ、猫」
 薄いグレーに薄い茶色、口元がほんのり白い……三毛猫というには毛の色が入り乱れている。さび猫の一種だろうか。
 猫は外に落ちていたごみの入った袋を見つけると、そこに行ってふんふんと匂いをかぐ。
 直後、店から年配の男性が現れた。
「また来たな、迷惑なんだよ!」
 彼が足を振り上げると、猫はさっと走って逃げていった。
「客が餌付けするせいで!」
 男性は鼻に皺を寄せたまま店内に戻っていく。
 ……猫だって生きるのに必死なだけだ。だけど迷惑な人にはひたすら迷惑なわけで。
 共存って難しい。
 ぐううう。
 猫以上に、今は飼いたくもなかった腹の虫との共存を考えなくてはならない。現代医学で駆除できればいいのに。
 へろへろになって入口にたどりつき、ガラスに書かれた奥美濃町店という店名を見ながら自動ドアをくぐり、中に入る。
 独特のチャイム音を聞き流して弁当コーナーに行き、絶望の色は真っ白だと知った。その場に膝をつかなかったのは、最後の矜持だ。
「ない。なにもない……」
 配達の隙間時間だったのだろう。弁当コーナーにもパンコーナーにもなにもなくて、棚板の白さが際立っている。