おいでんさい、ドライブイン奥美濃! ~悪女は猫店長の手を借りて幸せ出張めしの恩返しをする~

「いつの間に!?」
「希絵ちゃん、またドアをええかげんにしといたね」
「ちゃんと閉めたんやけど」
 言い訳する間も猫は希絵ちゃんの足にからみつく。
「やっぱこの子、飼いたい」
「お母さんが反対しとるやろ」
「熊に食われるかもしれんやん」
「熊が出るの!?」
 びっくりして声が大きくなってしまい、慌てて口を押える。
「出るよ。熊も猪も鹿も猿も。熊が出たから帰りは気を付けましょうってHRで先生に言われたりするし。人間より獣に遭遇することが多い日だってあるよ」
「熊なんておそがいわ」
 叡子さんがぶるっと身を震わせる。『おそがい』は怖いと言う方言だ。
「猫ちゃんねえ。招き猫になってくれたらええんやけど」
 はあ、と叡子さんがため息をつく。
「それだ!」
 私が声をあげると、猫はびくっと震えて真ん丸の目をこちらに向けた。
「猫の手、貸してもらうわよ」

🐱🐱🐱

 その夜、ドライブイン奥美濃の一言投稿サイトアカウントには一枚の猫の写真が上がった。
『新店長を紹介します。にゃん太です! 手続きが完了しだい、お店に出勤します!』
 写真はお店で飼うことになった猫ちゃんだ。あの毛色はブルートーティーというらしい。ちなみに、名前をつけてからメスだと気づいたらしい。手遅れだ。
 土曜日に私がドライブイン奥美濃を訪ねると、希絵ちゃんが新店長をだっこして待っていてくれた。
「今日が新店長のお披露目だね」
 私が言うと、希絵ちゃんは嬉しそうに目を細めて頷く。
「猫を店長にするって言い出したときはびっくりしたけど。おばあちゃんも賛成してくれてよかった」
 叡子さんは年齢から猫を飼うのをためらっていたそうだ。
 熊に食べられるかも、と希絵ちゃんに言われて飼うことを決心。店長にするのも賛成してくれた。
「でもお客さん、嫌がらないかな」
「大丈夫だよ。お店が調理場と客席を扉で完全分離できる作りでよかった」
 おかげで役所の検査をすんなりクリアできた。猫嫌いな人や動物アレルギーのある人に対しては猫がいることを入り口に張り紙で注意喚起する。猫店長ののぼりはもう発注してある。