おいでんさい、ドライブイン奥美濃! ~悪女は猫店長の手を借りて幸せ出張めしの恩返しをする~

「この子、美術の大学に行きたいって言いだして」
「絵が好きやもん」
「好きなだけじゃ食べていけんやん」
「学校の先生になるつもりやし。美術担当」
「先生の募集だって少ないやろ」
そういう話題かあ。私、ここにいたらまずいよね。
 私は慌てて残りをかきこんだ。
「お母さんも、いつまでもこの店やるの? 赤字続きやん」
「閉めたらボケる気がして嫌やわ」
「だけど、体もえらいやろ? 仕事やめてうちに来たらいいやん」
 えらいとは、疲れるとか大変だとかいう意味だ。
「私があとを継ぐから待っててよ」
「またあんたはそういうことを言う! 先生になるなら無理やろ」
「働きながら絵を描いて儲けて、お店を改装して人を雇って……」
「どんだけ夢見とるんかしゃん」
 母親はあきれてため息をつくが、女将さんは嬉しそうに目を細めている。
 いいなあ。若者特有の、無謀な夢。
 無謀は本人もわかってて、だけど心のどこかで不可能じゃないって気持ちもあるんだよね。
「せめて赤字じゃなければ」
 花代子さんのため息で、がまんできなくなった。席を立ち、彼女たちに近づく。
「唐突に申し訳ございません。売り上げアップのための改善案があるのですが」
 私の言葉に、彼女たちは固まった。
 しまった。やっぱりこんなの不審者だよね。
「すみません。お騒がせしました。なんでもないです。お会計をお願いします」
「こちらこそ、身内の話を聞かせてまって。ごめんなさいねえ」
 女将さんがてこてこと歩いてレジに行く。
 お会計は現金のみだった。現金を持ってたことにほっとしながら支払い、私は店を出た。
アイスでも買おうかとコンビニに向かいかけたとき。
「待ってください!」
 慌てた様子で希絵ちゃんが追いかけてきて、私は立ち止まった。