今日、好きな人に告白します

 親の作る弁当に、昔から執着があった。
 ひどく羨ましかった。

 ある日、あれは小学一年生の時だった。郊外学習の日、母親の弁当をバカにされたことでクラスメイトからからかわれた時期があった。
 自分は何も気にならなかったけれど、何を言ったところでクラスメイト達はさらに面白おかしく冷やかしてくるものだから、自然と無視するようになった。
 どの流れで母親の耳に入ったのか。それ以降母親が弁当を作ることはなかった。
 クラスメイトの冷やかしもいつしかなくなっていた。

 どんなものだって、嬉しかったのに。もっと自分が強ければ。母を傷つけることもなかったのかもしれない。
 周りが弁当を持参しても、自分はコンビニの菓子パンを持たされた。米がよいと希望すれば、コンビニ勉強を詰めたものを渡された。それさえ用意してくれたとき手間を考えれば感謝していた。
 ただ、空腹は満たされても、いつもどこか心の奥深くに言葉に言い表せない寂しさを抱えていた。
 親の愛情はきちんと届いていた。
 でも、なぜか寂しくて。
 寂しさを埋めるようにSNSを開いては時間を溶かすようになった。

 
あの時、なんで言えなかったんだろう。
『お母さん、お弁当ありがとう。美味しかった。また作って』って。どうして言ってあげられなかったんだろう。


 色とりどりの弁当の写真。

 どれも美味しそうだ。
 ちくわやチーズを使って絵のように仕上げている弁当。キャラ弁というのだろうか。
 うちの母親が見たら倒れてしまいそうだなとも思った。


 ふと、目に止まった。
『好きな人にお弁当を作るまで』
 高校生です。弁当作ります。初心者です。

 見てみるとフォロワー数も二桁。
 最近立ち上げたばかりのようだ。

 流れるようにフォローボタンを押す。

 高校生が作る弁当。見てみたい。
 
 最初はいびつだった弁当が、日を追うごとに成長してた。
 そしてあることに気づいた。

 弁当箱のサイズ。
 包むナフキンの色。

 ずっと女の子が好きな人に作っているのだと思った。

 これ、男か?

 アカウント名soraとある。

 soraの弁当が形になって来た時。
『告白します』

 一言。

 ついにその日が来たのだ。 
 その頃にはsoraは一方的に親しみを感じていたから、自分のことのように緊張した。

 結果を報告してくれると思っていたのに。
 その日を境にsoraの更新はぴたりとやんだ。

 ふられてしまったのだろうか。
 soraは大丈夫だろうか。


 そしてもっと悲しいのは今までの筆跡が、消されたこと。
 日に日になくなって…。
 アカウントから投稿が全て、消えてしまった。

 喪失がすごかった。

 フォロワーとして.コメントしたらよかった。
 勇気づけてあげられたらよかった。

 昔も今も、自分が何もできなかったことにひどく落胆した。


 1ヶ月後…再びインスタが動いた時には本当にうれしかった。
 インスタ名が『sora弁』に変わり、『弁当記録』。とだけ書かれていた。

 よかった。
 戻ってきた。

 嬉しくて俺はますますsora弁のファンになっていた。

 
 あの空白の時間に、何があったのか。
 相変わらずコメントすることはなかったけど。
 見守りたかった。


 母親との記憶と重なったから。
 

 
「え…。マジか」

 だからあの日、俺の興奮と言ったらなかった。
 いつも教科書で弁当隠してる広瀬。
 カバンから出したナフキンに、見覚えがあった。

 もしやと近づく。

 広瀬 宙 sora…。

 やがて核心へとつながる。
 広瀬の弁当。
 soraだ。
 あの。soraだ。

 心拍数が一気に上がる。
 見つけてしまった。

 気づけば広瀬に声をかけていた。
 広瀬が驚きのあまり目を見開いている。


 俺だけは知っている。
 こいつの弁当が、誰かを思って作られていた事を。



⭐︎


 あの時から、広瀬が気になって仕方なかった。

 聞きたいことが沢山あった。

 時間をかけて紐解いていく中で、特別な感情が生まれた。

 その感情の答えを知りたくて、答え合わせをすることにした。

 ふとした瞬間、広瀬を目で追っているのは何故だろうか。
 こんなに気持ちが高まるのはなぜなんだろうか。
 可愛く思えて仕方ないのは何故なんだ。

 自分に向けられた物ならよかったのに。
 もっと俺に笑いかけてくれたらいいのに。
 もっと。もっと。

 この気持ちの答えはなんだろう。

 答え合わせなんて曖昧に言ったのは、広瀬を困らせたくなかった。
 すぐに1人になろうとする広瀬。
 彼の負った傷は、想像以上に深いのだろう。

 曖昧にして、広瀬を待ちたかった。