今日、好きな人に告白します

 風間に好きだと言われた。
 自分も同じなのに、すぐに返事ができなかった。
 嬉しいのに、踏み込む勇気が持てない。
 告白の返事もできないまま、数日が経過した。
 風間とはお互い気まずさを秘めつつ、生田や五十嵐の手前、普通に振る舞った。
 2人きりになることもなく時間だけが過ぎていった。


⭐︎

「休みらしいよ、風間」
 朝、今日は弁当を渡す日だったのだが、風間はいつまで経っても登校してこなかった。
「風邪らしい」
 五十嵐が教えてくれた。

 朝スマホを見る時間がなかったから気づかなかったけど、休み時間にスマホを確認すると風間からのメッセージが届いていた。
『今日、ごめん』
 俺はすぐに返事した。
 もう4時間も経っているではないか。
『気にしないで。体調どう?辛い?』
『少し寝たら熱も下がってきたから大丈夫。弁当、食べたかった…』
 具合の悪い時まで、嬉しい事を言ってくれる。
「お見舞い、いくか?」
「おー!いいね。行くかー!」
「広瀬も」
「広瀬ー、お前自分だけ関係ねーって顔すんなよこらー」
 五十嵐が俺を誘う。生田が俺を引っ張る。
 風間もそうだけど、この2人も俺を1人にさせようとしない。
 凄く嬉しくて、仲良くなればなるほど、この関係性を壊したくないと願ってしまう。


 お見舞いに3人で行くと「お前らうるさい。熱が上がる」パジャマ姿のレアな風間が迎えてくれた。
 生田は抗議していたが、五十嵐がそんな生田をリュックごと引っ張っていった。「じゃ、俺も帰るよ」 
 お見舞いに持参したプリンの入った袋を手渡した。2人と一緒に自分も帰ろうとした時、
「広瀬は残って」
 熱がまだあるのだろう、辛そうに瞳を潤わせて懇願された。
 ずるい。そんなの…断れるはずがなかった。

「あ。なんか食べれてる?皆んなと色々買ってきたんだ。プリン好きなんだろ?生田から聞いた」
「ありがとう。頂こうかな」
 何も食べていないという風間に、プリンを渡すと美味しそうに食べてくれた。
 途中、『食べさせて』と甘えてきたけれど、恥ずかしさのあまり聞こえないふりをした。
「広瀬…。あのさ、変なこと、言ってもいい?」
「うん」
「好き。…結婚したい」
「…風間、ちょっといい?」
 風間のおでこに手を当ててみる。 
 熱い。
「…熱上がってるじゃん。薬飲んで寝よ」
「ごまかされた…。本気なのに」
「別に…。誤魔化したわけじゃ」
「寝たくない」
 弱ってるせいか、風間が甘えた声を出す。
「ダメだよ、休まなきゃ」
「寝たらお前、帰るだろ」
「わかった。…もう少しいるから。少し休んで」
 一気に退化して、子供のように甘えてくる。
 熱のせいか声色が艶っぽくて俺の緊張を高めてきた。
「じゃあ、手。繋いでて」
「うん」
 可愛いとさえ思ってしまう。

 繋いだ手を引き寄せ、風間は俺の手を頬にあて手の甲に唇をそっと当てた。「好きだよ」と何度も俺に告白してくれた。
 風間の寝顔を見ながらなんとも言えない愛おしさが込み上げてきた。
 

 風間が深く眠りに着いた頃、ガチャリと玄関が開き、風間の母親が帰って来た。 
 反射的に繋いでいた手を離す。
 風間はまだ眠っている。

「あの、お邪魔してます。俺。風間くんと同じクラスの広瀬っていいます。お見舞いきたら風間、寝ちゃったみたいで」
「あら、お見舞いありがとうね。……あなたもしかしてお弁当の子?」
「あ、はい」
「やっぱり。広瀬君ね。ちょっと話せるかしら?今お茶用意するわね」
 やはり親子だ。風間と同じように笑った。綺麗な人だった。

 あの子から聞いてるかもしれないけれど。美沙子さんは話しながら紅茶を淹れてくれた。フルーツの香りがする。おいしそうだ。
「私ね、お弁当が昔から苦手で。仕事が忙しかったのもあるんだけど。ほんと、上手くできなくてね。頑張ってた時期もあったんだけど。その事であの子、周りのお友達に揶揄われちゃって…。可愛そうで作れなくなっちゃったの。恥ずかしい話なんだけどね。
 あの子、優しいから…。作って欲しいと言われたこともあったんだけど。
…私、仕事に逃げちゃって。高校は給食ないでしょ。言わるかなぁって構えてたんだけど全く。毎日売店でパンでも食べてるのかなってこの前聞いたら貴方の名前が出てね。
 凄いのね、お弁当。あの子、あまりにも嬉しそうなは話すから少し悔しくなっちゃった。また挑戦してやろうかしら。でもあなたには叶わないかな。あんなに丁寧なお弁当、私には無理だもの」
 美沙子さんは可愛く笑った。
「風間は…。お母さんの作ってくれたものならなんだって喜ぶと思います」
 あの頃の風間も、嬉しかったと思う。友達にバカにされて、悔しかったと思う。お母さんを傷つけられて、腹が立ったはずだ。
「ありがとう。広瀬くん」

 これ以上悲しい思いをさせたくなかった美紗子さん。息子が冷やかしの対象になる事をさせなかった。
 その母親を、これ以上傷つけたくないと自分の思いを諦めた風間。
 同じだ。
 2人の根っこにあるのは互いへの愛だ。