思えば去年のクリスマスは良かった。風宇は改めて思い出す。
カラオケボックスのパーティールームで、女子達と華やかに騒ぐ。
お膳立ては全部女子がやってくれた。風宇と文燈はゲストのように行くだけで喜ばれた。
今年は文燈とビジネスカップルを組んでしまった。早過ぎたかもしれない。
あと一回くらい、女子達とクリスマスパーティーをしたかった。やっぱり早過ぎたかもしれない。
そんな風宇の後悔など全く気にしていない相棒、ビジネスカップルの相手である文燈は隣を呑気に歩いている。
何故こいつとクリスマスイブに街を出歩かないとならない? 風宇はいまだに疑問だった。
「おい、広瀬」
風宇が呼びかけると、文燈は微笑みながらこちらを見てくる。
「何かな、風宇?」
クソが、相変わらずカッコいいな。
風宇は最近文燈を見るとそんな事ばかり思うようになった。
校内ナンバーワンイケメンなのだから、格好いいのはもちろん知っているはずだった。
一年生の頃から頻繁に遊んで来たけれど、風宇は女子に気をとられていて文燈を気にしたことはなかった。女子が一番、自分の身なりが二番。文燈の順位はその次だった。
今は女子もいないし、女子がいないと自分に気を使うこともない。自然と風宇の気になる順位を文燈が駆け上がってしまっていた。
「風宇って呼ぶな。てかなんで、学校の外でお前とマンツーマンで会わないといけねえんだよ」
付き合っているフリは学校の中だけ。外でまでやる必要なんてない。
しかし、現に二人でクリスマスの街を歩いている。風宇はまだ納得がいっていなかった。
「ええ? クリスマスデートに誘って、風宇がオッケーしてくれたからだろう?」
文燈は意外そうな顔をしていた。なんて白々しい。
風宇は今の気持ちを、歪めた目線を送ることで訴えようとした。
確かに、クリスマスや年末年始といった冬休み関連イベントに誘ってくる女子達を退ける必要はあった。
だから文燈がわざと人目の多い教室で、わざわざ風宇のクラスまで来て、「クリスマスはデートしような」と言って来た時は頷くしかなかった。
文化祭以降、すっかり公認カップルとして見守られている二人は、「冬休みは二人の世界」という設定を知らしめる事に成功したのだ。
女子はこぞってお祝いモード。男子には……なんだかますます遠巻きにされたけれど。まあ、それでいい。学校中を騙せた、と風宇は満足していた。
「あれは方便だろ? わざわざ当日、きっちり会う必要はねえ!」
「バカだな、風宇。俺達の取り巻き女子を甘く見ちゃいけない」
「ええ?」
風宇が聞き返すと、文燈は顔を寄せて囁くように説明する。
傍目から見れば、恋人同士が寄り添うように見えるかもしれない。風宇は心臓の鼓動が少し早くなる。
「後で聞こえてしまったんだ。俺達のデートをこっそり見に行こうと、彼女達が計画してるのを」
「えええっ? それって後つけるってコトかよ!?」
なんて恐ろしい事を考えるんだ。知り合いじゃなければ事件の匂いすらする。
風宇は女子達のムーブメントにすっかり怯んでしまった。
「うーん、本当にそこまでするかはわからない。今こうしていても、見られてる感じはしない」
「それなら——」
言いかけた風宇の腕をさらに引き寄せて、文燈は耳元で囁いた。
「だけど、念には念を入れ、だ。ちゃんとデートした事実を作っておいた方がいいだろ」
「まあ……そうかもしれんけど」
胸のドキドキは更に増し、風宇は考えをまとめる事が出来なくなっていた。
文燈の口車に乗せられている気もするが、こんなにキッパリ言い切られるとそうなんだろうと思えてくる。
文燈は少し腕を離して、今度は風宇にニヤと笑いかけて言った。
「風宇だって、それを知らないのに待ち合わせ場所に来てくれたじゃないか」
「お前が三十分おきにリマインドしてくるからだろ!」
風宇は本当にデートをするつもりはなかった。それなのに、まずはモーニングコールで起こされて。二度寝しようと思ったらメッセージの連続。待ち合わせ時間の直前まで、風宇の携帯画面は「広瀬」の文字で埋め尽くされてしまった。
こんなの怖くて思わず出かけてしまう。
ビクビクしながら駅前に行ったら、文燈は上機嫌で待っていた。
「……来てくれて、嬉しい」
開口一番にそう微笑まれて、風宇はなんだか胸の内がくすぐったくなった。
会ったら文句を言ってやろうと思ったのに、そんな気は失せてしまった。
「ありがとう、風宇」
最初に見せた、同じ笑顔で文燈はまた言う。
「今日は来てくれて、嬉しいよ」
「……しょうがねえだろ」
照れてしまって目も合わせられない。
イケメンは何でも笑えば解決出来るんだ。それは風宇が一番良く知っている。
だけど、それが同性にも効くなんて知らなかった。
「じゃあ、今日は余計な事考えずに遊ぼうか」
「……どこで?」
風宇がそう聞くと、文燈はハハと笑って答える。
「色気がないけど、ゲームセンターかな」
「色気なんかいらねえだろ!」
「ハハハ」
風宇と文燈は連れ立ってゲームセンターへと歩く。
クリスマスに、曲がりなりにもカップルが行くような場所ではない。
それは、無理矢理風宇を連れ出した文燈の気遣いかもしれなかった。
だから仕方なくクリスマスデートに付き合ってやる。
風宇はこの距離感が少し心地いいと思い始めていた。
建物に入って行く二人を、黒い影が追っているのには最後まで気づかなかった。
カラオケボックスのパーティールームで、女子達と華やかに騒ぐ。
お膳立ては全部女子がやってくれた。風宇と文燈はゲストのように行くだけで喜ばれた。
今年は文燈とビジネスカップルを組んでしまった。早過ぎたかもしれない。
あと一回くらい、女子達とクリスマスパーティーをしたかった。やっぱり早過ぎたかもしれない。
そんな風宇の後悔など全く気にしていない相棒、ビジネスカップルの相手である文燈は隣を呑気に歩いている。
何故こいつとクリスマスイブに街を出歩かないとならない? 風宇はいまだに疑問だった。
「おい、広瀬」
風宇が呼びかけると、文燈は微笑みながらこちらを見てくる。
「何かな、風宇?」
クソが、相変わらずカッコいいな。
風宇は最近文燈を見るとそんな事ばかり思うようになった。
校内ナンバーワンイケメンなのだから、格好いいのはもちろん知っているはずだった。
一年生の頃から頻繁に遊んで来たけれど、風宇は女子に気をとられていて文燈を気にしたことはなかった。女子が一番、自分の身なりが二番。文燈の順位はその次だった。
今は女子もいないし、女子がいないと自分に気を使うこともない。自然と風宇の気になる順位を文燈が駆け上がってしまっていた。
「風宇って呼ぶな。てかなんで、学校の外でお前とマンツーマンで会わないといけねえんだよ」
付き合っているフリは学校の中だけ。外でまでやる必要なんてない。
しかし、現に二人でクリスマスの街を歩いている。風宇はまだ納得がいっていなかった。
「ええ? クリスマスデートに誘って、風宇がオッケーしてくれたからだろう?」
文燈は意外そうな顔をしていた。なんて白々しい。
風宇は今の気持ちを、歪めた目線を送ることで訴えようとした。
確かに、クリスマスや年末年始といった冬休み関連イベントに誘ってくる女子達を退ける必要はあった。
だから文燈がわざと人目の多い教室で、わざわざ風宇のクラスまで来て、「クリスマスはデートしような」と言って来た時は頷くしかなかった。
文化祭以降、すっかり公認カップルとして見守られている二人は、「冬休みは二人の世界」という設定を知らしめる事に成功したのだ。
女子はこぞってお祝いモード。男子には……なんだかますます遠巻きにされたけれど。まあ、それでいい。学校中を騙せた、と風宇は満足していた。
「あれは方便だろ? わざわざ当日、きっちり会う必要はねえ!」
「バカだな、風宇。俺達の取り巻き女子を甘く見ちゃいけない」
「ええ?」
風宇が聞き返すと、文燈は顔を寄せて囁くように説明する。
傍目から見れば、恋人同士が寄り添うように見えるかもしれない。風宇は心臓の鼓動が少し早くなる。
「後で聞こえてしまったんだ。俺達のデートをこっそり見に行こうと、彼女達が計画してるのを」
「えええっ? それって後つけるってコトかよ!?」
なんて恐ろしい事を考えるんだ。知り合いじゃなければ事件の匂いすらする。
風宇は女子達のムーブメントにすっかり怯んでしまった。
「うーん、本当にそこまでするかはわからない。今こうしていても、見られてる感じはしない」
「それなら——」
言いかけた風宇の腕をさらに引き寄せて、文燈は耳元で囁いた。
「だけど、念には念を入れ、だ。ちゃんとデートした事実を作っておいた方がいいだろ」
「まあ……そうかもしれんけど」
胸のドキドキは更に増し、風宇は考えをまとめる事が出来なくなっていた。
文燈の口車に乗せられている気もするが、こんなにキッパリ言い切られるとそうなんだろうと思えてくる。
文燈は少し腕を離して、今度は風宇にニヤと笑いかけて言った。
「風宇だって、それを知らないのに待ち合わせ場所に来てくれたじゃないか」
「お前が三十分おきにリマインドしてくるからだろ!」
風宇は本当にデートをするつもりはなかった。それなのに、まずはモーニングコールで起こされて。二度寝しようと思ったらメッセージの連続。待ち合わせ時間の直前まで、風宇の携帯画面は「広瀬」の文字で埋め尽くされてしまった。
こんなの怖くて思わず出かけてしまう。
ビクビクしながら駅前に行ったら、文燈は上機嫌で待っていた。
「……来てくれて、嬉しい」
開口一番にそう微笑まれて、風宇はなんだか胸の内がくすぐったくなった。
会ったら文句を言ってやろうと思ったのに、そんな気は失せてしまった。
「ありがとう、風宇」
最初に見せた、同じ笑顔で文燈はまた言う。
「今日は来てくれて、嬉しいよ」
「……しょうがねえだろ」
照れてしまって目も合わせられない。
イケメンは何でも笑えば解決出来るんだ。それは風宇が一番良く知っている。
だけど、それが同性にも効くなんて知らなかった。
「じゃあ、今日は余計な事考えずに遊ぼうか」
「……どこで?」
風宇がそう聞くと、文燈はハハと笑って答える。
「色気がないけど、ゲームセンターかな」
「色気なんかいらねえだろ!」
「ハハハ」
風宇と文燈は連れ立ってゲームセンターへと歩く。
クリスマスに、曲がりなりにもカップルが行くような場所ではない。
それは、無理矢理風宇を連れ出した文燈の気遣いかもしれなかった。
だから仕方なくクリスマスデートに付き合ってやる。
風宇はこの距離感が少し心地いいと思い始めていた。
建物に入って行く二人を、黒い影が追っているのには最後まで気づかなかった。
