校内ビジネスカップルの破局

「風宇(ふう)……?」

 一大決心の言葉、届いただろうか。
 風宇の告白を聞いた文燈(あやと)はますます驚いて、口元が半開きになっている。

 好きだ、と言ってしまったからには、風宇はもう止まらなかった。
 言わなければ、と思った言葉が次から次へと出てくる。

「オレには、お前しかいない!」

「ふ、風宇?」

「オレと付き合ってくれっ!」

 おかしいな。もっとロマンチックに渡すつもりだったのに。
 恥ずかしさをかなぐり捨てて買った指輪だったのに、怒りのままに投げつけて。
 さらにやっと言えた告白も、宣戦布告のようになってしまった。



 文燈は、風宇から投げられた指輪を握りながら、うわごとのように呟いた。

「で、でも……俺、北海道行くよ?」

「ああん? 関係ねえだろ! オレだって行くよ、大学出たらなあ!」

 違う、なんかもっと、格好良く言いたかったのに。
 どうしてこうなった。文燈が弱気だからいけないんだ。

 ヤケクソ気味に宣言した風宇に、文燈は震えながら確認する。
 瞳は温かく、潤んでいた。

「……来て、くれるの?」

「当たり前だろ! お前の夢が北海道にあるなら、オレの夢もそこだ!」

 風宇は、これだけはちゃんと伝わるようにゆっくりと言う。

「オレの夢は……文燈の側で生きてくことだ」

 なんとなく。テキトーに、楽しく過ごせればいい。そう思ってた。
 でも、今は違う。
 文燈がいないとダメ。
 文燈の側にいないと、オレは生きてる気がしない。

 依存してるみたいで重いかな。でも、依存じゃない。
 文燈はもうオレの半分なんだ。半分に別れたら、生きていけないだろ?

 文燈なら、きっとわかってくれる。
 だって、オレ達は繋がっているから。


 
「ふ、ふうぅー……」

 文燈はくしゃりと泣き顔になって、風宇に両手を伸ばす。
 甘える子どもをあやすように、風宇は文燈を抱きしめた。

「俺、獣医になるって決めたけど、一人で北海道に行くの心細くて……」

「うん」

「風宇と別れるの、すごく寂しくて……」

「文燈のアホ。最初からそう言え」

 背中を摩ってやると、文燈は感情を昂らせて叫ぶ。

「風宇の進路の邪魔しちゃダメだと思って……ッ!」

「お前が邪魔なわけないだろ!」

「ごめえん……」

 こんな甘えん坊が、校内ナンバーワンイケメンだなんて。
 すごく面白い。風宇は想いが通じ合った喜びも手伝って笑いが込み上げる。

「風宇……大好きだよ」

 急に整え直して言う台詞も、面白い。

「しょうがないな、文燈は……」

 全てが、愛しい。



 二人でしっかり抱き合って、顔を見合わせてまた笑った。
 一時は離れるけれど、心は離れない。その証に指輪を贈る。

「ねえ、風宇」

「ん?」

 文燈は指輪を風宇に差し出した。

「これ、風宇がつけてよ」

「……いいよ」

 文燈の温かい指先に触れる。
 左の薬指に誓いをくぐらせた。

「風宇のはないの?」

「えっ、その……ある」

 もう片方はポケットに忍ばせている。恥ずかしくて自分からは嵌められなかった。

「出して」

「……うん」

 文燈の手のひらに、風宇は自分用の指輪を乗せた。

「俺が買いたかったけど、まあ、風宇の気持ちだからね」

 文燈はその指輪に口付けをしてから、風宇の左の薬指に通した。

「……お前はそうやって、すぐカッコつける」

「ふふ」



 河川敷、桜並木。
 蕾はまだ小さい。

 それでいい。オレ達が花開くのはもう少し先。
 ずっと隣で生きていけるように、ここで誓う。

「愛してるよ、風宇」

 そう言って瞳を輝かせる文燈は、今までで一番格好良かった。
 風宇の胸が騒いでいく。大好きだと、叫びたくて。

「オレも、愛してる。文燈」

 少し背伸びをしてそう答えた。
 その言葉が似合うように、二人で育てていこう。

「やっぱり、俺にはお前しかいない」

 笑いながら、文燈の顔が近づいてくる。

「そうだな、オレにはお前しかいない」

 風宇も微笑みながら、文燈の唇を受け入れた。



 桜並木、早春の風。
 芝生の匂い、青くて苦い。

 風宇のグリーンシトラス、文燈にも移る。
 甘いキスを重ねて、ひとつになった。