「な、に、が、『やだ……尊い(ぴえん)』だあぁあ!!」
件の投稿ポストを見せられた風宇は絶叫した。
インプレッションは天文学的数値、いいねは一万を超え、見ている今もカウントアップが続いている。
「消せえ、今すぐ消せッ!!」
風宇が携帯電話を投げつけるように返すと、若月は眉毛を八の字にして惜しがった。
「ええー、せっかくバズったのにい」
「消さないと、お前を消す!!」
風宇が怒ってすごんでも、若月は「どうしようかなあ」とうだうだして埒があかない。
堪らずに風宇は文燈に目で訴える。すると文燈も真面目な顔で頷いてから若月に言った。
「若月」
「なあに、広瀬くん」
「まずはポストを消せ。話はそれからだ」
その視線はだいぶ冷たかった。その裏には「こうなる事も想像はしていた」ような諦めも見てとれる。
だが、若月には静かな怒りだけが伝わっていた。
「は、はいい……」
一撃でビビった若月は、絶賛バズり中の恋人繋ぎポストを削除する。
だが、文燈はさらに続けて冷たく告げた。
「それから、そのアカウントに鍵をかけろ。話はそれからだ」
「は、はひいぃ……」
ヘビに睨まれたカエルのごとく、若月は縮こまってSNSを操作する。
オープンだったアカウント名の横に鍵のマークがついた事を見せて、ようやく心から謝った。
「スミマセンでした……」
文燈は肩で大きく息を吐く。少し安堵したような表情だった。
「とりあえず、これで様子見だな。若月、俺がいいと言うまで何も投稿するなよ」
「わっ、わかりました……!」
若月はビシッと敬礼の真似事で答える。だが、風宇の不安は消えなかった。
風宇は流行りの投稿やバズりに対して、普段から敏感にキャッチしようとしている。基本真面目な性格の文燈はどうだろうか? 風宇よりも知識があるとは思えない。若月にさせた事は甘いんじゃないかとも思えた。
もしも炎上に近いバズり方をしてしまったら、削除しても無駄だ。投稿ポストはすでに画像保存されているだろう。
制服から学校を調べられる。そうしたら、風宇達にプライベートは無くなってしまう。
「風宇」
「……ん、ん?」
「顔色が悪い」
文燈は風宇の不安を悟って、その肩に触れた。しっかりと力を込めて励まそうとする。
「大丈夫だ。時間が経てば皆すぐに忘れる」
「ん……」
「俺もお前も若月のオープンアカウントとは繋がっていない。だから俺達の所には辿りつかないよ」
「そうだよな……」
それでも、怖い。得体の知れない不安に押しつぶされそう。
SNSの怖さは充分知っていたつもりだったのに。もっと若月を厳しく止めれば良かった。
自分勝手で、変なヤツで、少し面白かったから。
一緒になってはしゃいでしまった。
「葉山くん……ごめんね」
さすがの若月も、風宇の落ち込み様に反省の意を示す。
「ん……」
けれど風宇は何も答える事が出来なかった。
◇ ◇ ◇
若月の誤爆ポストがバズって、まる一日。
風宇と文燈の恋人繋ぎ写真は、思わぬ流行を呼んだ。
「なんじゃこりゃあ!」
風宇はSNSの検索結果に仰天した。
二人の写真は思ったよりも拡散されなかった。その代わり、高校生の間で「#親友と恋人繋ぎ」というものが流行った。
仲のいい友人同士で、男女問わずに指を絡めて手を繋ぐ写真を投稿するのが現在大流行中である。
「おお……拾いきれないほど投稿されてるな」
携帯画面をスワイプしながら、文燈も感嘆の声を上げる。
「これはもう、誰が最初にやったのかはよくわからなくなってるな」
短時間に、爆発的にポストが増えたため、風宇と文燈の画像はもはや見つけられない。元ポストは削除してあるのでそれは当然ではある。さらにこのネタが流行り過ぎて「誰が最初に始めたか」は、とっくにどうでも良くなっているようだ。
「……それは、ホントにラッキーだけども!」
風宇は安心したと同時に、この騒動に憤慨している。
登校したら、学校中が恋人繋ぎの写真を撮っているのだ。風宇には、あの「黒歴史」を全校生徒からいじられているような気分だ。
しかも、学校内ではこの流行が風宇と文燈が発端であると知っている者が多い。たまに恋人繋ぎを風宇に見せにくる。
どんな顔でいればいい。風宇は対処に困っていた。
「もおおー! 全国の高校生どもお、流行りに乗せられやがってえ!」
事件の張本人、若月もまた憤慨していた。携帯電話を握りしめて怒っている。
「恋人繋ぎをやったのは、葉山くん達が最初なのにいぃい!」
バズりの元ポストを削除してしまった若月は、歯ぎしりして悔しがっていた。
「光、反省がなってない」
「征士は黙っててよお!」
若月の側には昨日から常に畦地が控えるようになった。文燈がそう命じたためだ。
風宇の不安と落ち込みが酷かったので、畦地も見るに見かねて進んでお目付け役をしている。
「葉山、すまん。光に代わって謝罪する」
畦地は若月の頭を押さえつけ、一緒に一礼した。
若月は懲りずに喚いている。
「もおお! 保護者ぶらないでよお!」
そんな二人の愉快なやり取りを見ていると、悔しいが怒りが収まってくる。
「もういいよ。なんかバズりはオレ達からそれたみたいだし」
「あのバズりはアヤフウのものなのにいぃ! ふぎゅっ」
性懲りも無く悔しがる若月の頭を、畦地が再び押さえ込んだ。
それで風宇は少し笑ってしまう。
「しかし、本当に幸運だ。恋人繋ぎの方だけがバズって」
文燈は風宇の肩に手を置いた。そうされると、ほっと安心する。
風宇は文燈を見て微笑む。もう大丈夫だと、言うように。
それが伝わったのか、文燈も同じように微笑んだ。
「みんな、俺達の事なんて忘れてるよ」
「そうだよな」
ただ幸運だっただけ。それは風宇もわかっている。
それでも、悪い方向にいかなくて良かったと、安心していた。
だが、流行は思いもよらない方へ流れてしまうのである。
件の投稿ポストを見せられた風宇は絶叫した。
インプレッションは天文学的数値、いいねは一万を超え、見ている今もカウントアップが続いている。
「消せえ、今すぐ消せッ!!」
風宇が携帯電話を投げつけるように返すと、若月は眉毛を八の字にして惜しがった。
「ええー、せっかくバズったのにい」
「消さないと、お前を消す!!」
風宇が怒ってすごんでも、若月は「どうしようかなあ」とうだうだして埒があかない。
堪らずに風宇は文燈に目で訴える。すると文燈も真面目な顔で頷いてから若月に言った。
「若月」
「なあに、広瀬くん」
「まずはポストを消せ。話はそれからだ」
その視線はだいぶ冷たかった。その裏には「こうなる事も想像はしていた」ような諦めも見てとれる。
だが、若月には静かな怒りだけが伝わっていた。
「は、はいい……」
一撃でビビった若月は、絶賛バズり中の恋人繋ぎポストを削除する。
だが、文燈はさらに続けて冷たく告げた。
「それから、そのアカウントに鍵をかけろ。話はそれからだ」
「は、はひいぃ……」
ヘビに睨まれたカエルのごとく、若月は縮こまってSNSを操作する。
オープンだったアカウント名の横に鍵のマークがついた事を見せて、ようやく心から謝った。
「スミマセンでした……」
文燈は肩で大きく息を吐く。少し安堵したような表情だった。
「とりあえず、これで様子見だな。若月、俺がいいと言うまで何も投稿するなよ」
「わっ、わかりました……!」
若月はビシッと敬礼の真似事で答える。だが、風宇の不安は消えなかった。
風宇は流行りの投稿やバズりに対して、普段から敏感にキャッチしようとしている。基本真面目な性格の文燈はどうだろうか? 風宇よりも知識があるとは思えない。若月にさせた事は甘いんじゃないかとも思えた。
もしも炎上に近いバズり方をしてしまったら、削除しても無駄だ。投稿ポストはすでに画像保存されているだろう。
制服から学校を調べられる。そうしたら、風宇達にプライベートは無くなってしまう。
「風宇」
「……ん、ん?」
「顔色が悪い」
文燈は風宇の不安を悟って、その肩に触れた。しっかりと力を込めて励まそうとする。
「大丈夫だ。時間が経てば皆すぐに忘れる」
「ん……」
「俺もお前も若月のオープンアカウントとは繋がっていない。だから俺達の所には辿りつかないよ」
「そうだよな……」
それでも、怖い。得体の知れない不安に押しつぶされそう。
SNSの怖さは充分知っていたつもりだったのに。もっと若月を厳しく止めれば良かった。
自分勝手で、変なヤツで、少し面白かったから。
一緒になってはしゃいでしまった。
「葉山くん……ごめんね」
さすがの若月も、風宇の落ち込み様に反省の意を示す。
「ん……」
けれど風宇は何も答える事が出来なかった。
◇ ◇ ◇
若月の誤爆ポストがバズって、まる一日。
風宇と文燈の恋人繋ぎ写真は、思わぬ流行を呼んだ。
「なんじゃこりゃあ!」
風宇はSNSの検索結果に仰天した。
二人の写真は思ったよりも拡散されなかった。その代わり、高校生の間で「#親友と恋人繋ぎ」というものが流行った。
仲のいい友人同士で、男女問わずに指を絡めて手を繋ぐ写真を投稿するのが現在大流行中である。
「おお……拾いきれないほど投稿されてるな」
携帯画面をスワイプしながら、文燈も感嘆の声を上げる。
「これはもう、誰が最初にやったのかはよくわからなくなってるな」
短時間に、爆発的にポストが増えたため、風宇と文燈の画像はもはや見つけられない。元ポストは削除してあるのでそれは当然ではある。さらにこのネタが流行り過ぎて「誰が最初に始めたか」は、とっくにどうでも良くなっているようだ。
「……それは、ホントにラッキーだけども!」
風宇は安心したと同時に、この騒動に憤慨している。
登校したら、学校中が恋人繋ぎの写真を撮っているのだ。風宇には、あの「黒歴史」を全校生徒からいじられているような気分だ。
しかも、学校内ではこの流行が風宇と文燈が発端であると知っている者が多い。たまに恋人繋ぎを風宇に見せにくる。
どんな顔でいればいい。風宇は対処に困っていた。
「もおおー! 全国の高校生どもお、流行りに乗せられやがってえ!」
事件の張本人、若月もまた憤慨していた。携帯電話を握りしめて怒っている。
「恋人繋ぎをやったのは、葉山くん達が最初なのにいぃい!」
バズりの元ポストを削除してしまった若月は、歯ぎしりして悔しがっていた。
「光、反省がなってない」
「征士は黙っててよお!」
若月の側には昨日から常に畦地が控えるようになった。文燈がそう命じたためだ。
風宇の不安と落ち込みが酷かったので、畦地も見るに見かねて進んでお目付け役をしている。
「葉山、すまん。光に代わって謝罪する」
畦地は若月の頭を押さえつけ、一緒に一礼した。
若月は懲りずに喚いている。
「もおお! 保護者ぶらないでよお!」
そんな二人の愉快なやり取りを見ていると、悔しいが怒りが収まってくる。
「もういいよ。なんかバズりはオレ達からそれたみたいだし」
「あのバズりはアヤフウのものなのにいぃ! ふぎゅっ」
性懲りも無く悔しがる若月の頭を、畦地が再び押さえ込んだ。
それで風宇は少し笑ってしまう。
「しかし、本当に幸運だ。恋人繋ぎの方だけがバズって」
文燈は風宇の肩に手を置いた。そうされると、ほっと安心する。
風宇は文燈を見て微笑む。もう大丈夫だと、言うように。
それが伝わったのか、文燈も同じように微笑んだ。
「みんな、俺達の事なんて忘れてるよ」
「そうだよな」
ただ幸運だっただけ。それは風宇もわかっている。
それでも、悪い方向にいかなくて良かったと、安心していた。
だが、流行は思いもよらない方へ流れてしまうのである。
