高二の秋、親友に告られた。
「お前が好きだ」
その言葉が、風宇は意味がわからなかった。
「俺と付き合ってくれ」
ますます意味がわからなかった。
こいつは何を言っているんだ? と、目の前の「親友」を見つめる。
「ちょっと待てよ……」
ぐぐぐと近づいて迫り、風宇に圧をかけていた。
広瀬文燈は、葉山風宇を真剣な目力で圧倒し続ける。
「俺には、お前しかいない」
「ほんとに、ちょっと待てよ!」
誰もいない教室で、風宇の悲鳴のような声が響く。
クラスメイトがみんな帰っていて本当に良かった、風宇は心の片隅で辛うじてそう思う。
文燈は更に風宇に迫ってきた。キスでもされかねない距離に。
冗談じゃないよ!
オレ達、友達だったじゃん。いや、友達なんかじゃない。
「ビジネス親友」だったじゃん!!
◇ ◇ ◇
風宇が文燈と初めて出会ったのは高一の一学期。
その日、風宇はそれまで培ってきた自信が大きく崩れた。
隣のクラスの広瀬文燈。パッと見でもわかる美形男子だった。
黒い短髪に、前髪を中央で分けて。高身長なのに顔が小さく足が長い。
少し甘めの目元と、シャープな顎。そんなアンバランスさが何故か相乗効果でカッコ良い。
広瀬文燈はあっという間に在校生を蹴散らして、学校一のイケメンの座についた。
比べて自分はと言えば。実は負けず劣らずに美形である。
葉山風宇は中学時代、学区内の女子人気を独り占めしていた。
他校の女子が放課後待ち伏せするのは毎日で。自校の女子と喧嘩になりそうになれば颯爽と出向いて仲裁する。
その度にファンを増やして行く罪な男、それが葉山風宇だった。
高校でもその地位は獲得出来る。高校生になったらたくさん遊んでやろうと、風宇は高校入学を心待ちにしていた。
それなのに。
自分よりもイケメンがいるとはどういう事だ!
風宇は羨望の眼差しを浴びる文燈に、嫉妬の眼差しを向けていた。
もちろん風宇も同様の視線は浴びている。
凛々しい目元、にこやかな笑顔で人懐こさを演出。元から明るめの茶色い髪に、高校デビューでゆるふわパーマをかけた。
文燈とはまた違ったタイプのイケメンである。校内二位は固いと思われた。
悔しい。
先輩達を圧倒して、校内一のイケメンと称される自信があったのに。
入学して一ヶ月。
風宇にはすでに女子からの熱い視線が毎日送られるようになっていた。
積極的な女子が常に数人取り巻いている。
「ねえねえ、葉山くんてドコ住んでんの?」
「んー? 駅前かなあ」
「ええー、うちの駅の?」
「駅前の事なら何でも知ってるよ」
そんな軽快な会話で、今日も女子数人とカラオケにでも行こうと風宇は思っていた。
すると、キャッと急に色めきだつ女子達。その視線は風宇を通り越して、廊下を歩く文燈に注がれる。
「やったあ、広瀬くん見れたぁ」
「今日もカッコイイよねえ」
あちらは女子を連れてなどはおらず、少しクールな孤高のイケメンを気取っている。
女子に優しい風宇よりも、少し近寄りがたい文燈の方が人気があるのが気に食わない。
気取りやがって、嫌なヤツ。
風宇は文燈に対してはそんな印象を持っていた。
だがその気取りイケメンが、廊下からこちらを見る。視線が合った。
真正面から見ると、風宇が見てもドキッとするくらいに格好良い。
文燈は通り過ぎるかと思ったら、風宇のクラスの入口までやって来た。
風宇のクラスの雰囲気が一変する。女子は皆、心の中でキャアと叫んでいるのだろう。
彼は誰に用があるのか。教室の女子全員がそれを気にしていた。
「葉山くん」
「……へえっ?」
文燈が呼んだのは風宇だった。驚いて変な声が出てしまった。
当然会話をするのは初めてだし、風宇は文燈を知っているけれど、文燈の方はわからない。
いや、オレの事なんかどうせ眼中にない、と校内一位イケメン憎しでそう思っていた。
風が面食らって動けないので、少し躊躇った後、文燈は教室に入ってきた。
ひえええ、と周りの女子は小さく悲鳴を上げる。まるで颯爽と現れる王子様だ。
「葉山くんて、駅前のマンションに住んでるんだって?」
「そうだけど……」
何故それを知っているんだろう。風宇には心当たりがなかった。だから、余計にイケメン憎しで不審感が湧く。
「委員会で香川さんに聞いたんだ。実は俺んちも春からそのマンションに引っ越してて」
「へ、へえー」
文燈はどこまでも爽やかに話しかける。
駅前の高層マンションに住んでいる、というのは風宇の常套ナンパ文句なので、同じクラスの女子から聞いたのなら納得出来た。
ていうか、同じマンションだって!?
とんでもない接点に、風宇がますます面食らっていると、文燈はにっこり笑って話を進める。
「引っ越したばかりで、どこで何を買ったらいいかわからないんだ。良かったら、近所の有益な店とか教えてくれないか」
「ああ……?」
冗談じゃない、なんでこんなヤツに。
風宇はそう思ったが、女子がいる手前、あからさまに嫌がるのは踏み止まった。
おかげで困惑したような、微妙な顔になってしまう。
「ええー! あたしも教えて欲しいー!」
「私も放課後、遊ぶトコ知りたーい!」
「駅前で遊べば、すぐ帰れて便利だもんねー」
周りにいた女子達は口々に言う。風宇は文燈を敵視しているが、女子達から見ればイケメン二大巨頭の二人が遭遇している。
もしかしたら二人いっぺんに友達になれるかも。そんな機会が訪れて興奮の坩堝なのであった。
そんな雰囲気を文燈は察したのだろうか、それまでの孤高のイメージとは違った屈託のない笑顔で女子達に言った。
「いいね、葉山くんから駅前スポットを教えてもらおうよ」
すると、女子達は口々に「賛成!」と騒ぐ。
周りを巻き込まれては風宇も邪険には出来ない。これは断れないやつだと思った。
「しょ、しょーがないなあ。わかったよ、みんなで遊ぼうぜ」
文燈と風宇、周りの女子数人がその場で盛り上がる。
敵から一気に距離をつめられた。何故こんな事に。
少し呆けた風宇に、文燈は一瞬だけ片目をつぶる。風宇と同じような「モテたい遊びたい」テンションを感じた。
あ、そういう事か。
風宇は急に目の前が開けたような気分だった。
つまり、校内一位と二位のオレ達がつるむ事で、女子達を一網打尽にする事ができる。
二人セットでいれば多くの女子が釣れ、モテモテライフは約束されたようなもの。
なるほど、いいね。乗ってやる。
こうして風宇は文燈と「表面上」の親友になる事にした。
ビジネス親友の誕生だ。本当の友達なんかじゃない。都合の良い相方。
……ただそれだけの関係だと思っていたのに。
「お前が好きだ」
その言葉が、風宇は意味がわからなかった。
「俺と付き合ってくれ」
ますます意味がわからなかった。
こいつは何を言っているんだ? と、目の前の「親友」を見つめる。
「ちょっと待てよ……」
ぐぐぐと近づいて迫り、風宇に圧をかけていた。
広瀬文燈は、葉山風宇を真剣な目力で圧倒し続ける。
「俺には、お前しかいない」
「ほんとに、ちょっと待てよ!」
誰もいない教室で、風宇の悲鳴のような声が響く。
クラスメイトがみんな帰っていて本当に良かった、風宇は心の片隅で辛うじてそう思う。
文燈は更に風宇に迫ってきた。キスでもされかねない距離に。
冗談じゃないよ!
オレ達、友達だったじゃん。いや、友達なんかじゃない。
「ビジネス親友」だったじゃん!!
◇ ◇ ◇
風宇が文燈と初めて出会ったのは高一の一学期。
その日、風宇はそれまで培ってきた自信が大きく崩れた。
隣のクラスの広瀬文燈。パッと見でもわかる美形男子だった。
黒い短髪に、前髪を中央で分けて。高身長なのに顔が小さく足が長い。
少し甘めの目元と、シャープな顎。そんなアンバランスさが何故か相乗効果でカッコ良い。
広瀬文燈はあっという間に在校生を蹴散らして、学校一のイケメンの座についた。
比べて自分はと言えば。実は負けず劣らずに美形である。
葉山風宇は中学時代、学区内の女子人気を独り占めしていた。
他校の女子が放課後待ち伏せするのは毎日で。自校の女子と喧嘩になりそうになれば颯爽と出向いて仲裁する。
その度にファンを増やして行く罪な男、それが葉山風宇だった。
高校でもその地位は獲得出来る。高校生になったらたくさん遊んでやろうと、風宇は高校入学を心待ちにしていた。
それなのに。
自分よりもイケメンがいるとはどういう事だ!
風宇は羨望の眼差しを浴びる文燈に、嫉妬の眼差しを向けていた。
もちろん風宇も同様の視線は浴びている。
凛々しい目元、にこやかな笑顔で人懐こさを演出。元から明るめの茶色い髪に、高校デビューでゆるふわパーマをかけた。
文燈とはまた違ったタイプのイケメンである。校内二位は固いと思われた。
悔しい。
先輩達を圧倒して、校内一のイケメンと称される自信があったのに。
入学して一ヶ月。
風宇にはすでに女子からの熱い視線が毎日送られるようになっていた。
積極的な女子が常に数人取り巻いている。
「ねえねえ、葉山くんてドコ住んでんの?」
「んー? 駅前かなあ」
「ええー、うちの駅の?」
「駅前の事なら何でも知ってるよ」
そんな軽快な会話で、今日も女子数人とカラオケにでも行こうと風宇は思っていた。
すると、キャッと急に色めきだつ女子達。その視線は風宇を通り越して、廊下を歩く文燈に注がれる。
「やったあ、広瀬くん見れたぁ」
「今日もカッコイイよねえ」
あちらは女子を連れてなどはおらず、少しクールな孤高のイケメンを気取っている。
女子に優しい風宇よりも、少し近寄りがたい文燈の方が人気があるのが気に食わない。
気取りやがって、嫌なヤツ。
風宇は文燈に対してはそんな印象を持っていた。
だがその気取りイケメンが、廊下からこちらを見る。視線が合った。
真正面から見ると、風宇が見てもドキッとするくらいに格好良い。
文燈は通り過ぎるかと思ったら、風宇のクラスの入口までやって来た。
風宇のクラスの雰囲気が一変する。女子は皆、心の中でキャアと叫んでいるのだろう。
彼は誰に用があるのか。教室の女子全員がそれを気にしていた。
「葉山くん」
「……へえっ?」
文燈が呼んだのは風宇だった。驚いて変な声が出てしまった。
当然会話をするのは初めてだし、風宇は文燈を知っているけれど、文燈の方はわからない。
いや、オレの事なんかどうせ眼中にない、と校内一位イケメン憎しでそう思っていた。
風が面食らって動けないので、少し躊躇った後、文燈は教室に入ってきた。
ひえええ、と周りの女子は小さく悲鳴を上げる。まるで颯爽と現れる王子様だ。
「葉山くんて、駅前のマンションに住んでるんだって?」
「そうだけど……」
何故それを知っているんだろう。風宇には心当たりがなかった。だから、余計にイケメン憎しで不審感が湧く。
「委員会で香川さんに聞いたんだ。実は俺んちも春からそのマンションに引っ越してて」
「へ、へえー」
文燈はどこまでも爽やかに話しかける。
駅前の高層マンションに住んでいる、というのは風宇の常套ナンパ文句なので、同じクラスの女子から聞いたのなら納得出来た。
ていうか、同じマンションだって!?
とんでもない接点に、風宇がますます面食らっていると、文燈はにっこり笑って話を進める。
「引っ越したばかりで、どこで何を買ったらいいかわからないんだ。良かったら、近所の有益な店とか教えてくれないか」
「ああ……?」
冗談じゃない、なんでこんなヤツに。
風宇はそう思ったが、女子がいる手前、あからさまに嫌がるのは踏み止まった。
おかげで困惑したような、微妙な顔になってしまう。
「ええー! あたしも教えて欲しいー!」
「私も放課後、遊ぶトコ知りたーい!」
「駅前で遊べば、すぐ帰れて便利だもんねー」
周りにいた女子達は口々に言う。風宇は文燈を敵視しているが、女子達から見ればイケメン二大巨頭の二人が遭遇している。
もしかしたら二人いっぺんに友達になれるかも。そんな機会が訪れて興奮の坩堝なのであった。
そんな雰囲気を文燈は察したのだろうか、それまでの孤高のイメージとは違った屈託のない笑顔で女子達に言った。
「いいね、葉山くんから駅前スポットを教えてもらおうよ」
すると、女子達は口々に「賛成!」と騒ぐ。
周りを巻き込まれては風宇も邪険には出来ない。これは断れないやつだと思った。
「しょ、しょーがないなあ。わかったよ、みんなで遊ぼうぜ」
文燈と風宇、周りの女子数人がその場で盛り上がる。
敵から一気に距離をつめられた。何故こんな事に。
少し呆けた風宇に、文燈は一瞬だけ片目をつぶる。風宇と同じような「モテたい遊びたい」テンションを感じた。
あ、そういう事か。
風宇は急に目の前が開けたような気分だった。
つまり、校内一位と二位のオレ達がつるむ事で、女子達を一網打尽にする事ができる。
二人セットでいれば多くの女子が釣れ、モテモテライフは約束されたようなもの。
なるほど、いいね。乗ってやる。
こうして風宇は文燈と「表面上」の親友になる事にした。
ビジネス親友の誕生だ。本当の友達なんかじゃない。都合の良い相方。
……ただそれだけの関係だと思っていたのに。
