ショートショート~短い時間で  読める物語たち~



「今年は俺にチョコくれないの?」

 少し甘えたその声に私は肩を竦めて答える。

「……まぁ、なくても仕方ないんじゃない?」
「そっか……」

 彼の手には仕事用の鞄と共にオシャレな紙袋がある。
 職場の女性たちに貰ったのだろう。
 なら、私のチョコレートなんて必要ないに違いない。
 そもそも、もう私達は恋人同士ではないのだから期待されても困るのだ。

「いや、そうなんだけどさ。毎年楽しみにしてたから」
「……あの頃、そう言って欲しかったな」
「ごめん」
「もう遅いよ」

 謝られたって仕方ない。
 毎年、どんなチョコレートにするのか悩んで渡したのに、素っ気なかったのはそっちなんだから。
 でも、どこか寂し気な表情に胸がちくりと痛む。
 関係性が変われば、行動だって変わる。
 私は悪いことなんてしてないはずなのに。
 
 
「……来週ならいいよ」
「え、いいのか?」
「ホワイトデーが近いしね」

 バレンタインが終わればすぐにホワイトデーのチョコレートが店先には並ぶ。
 それでいいなら、用意できる。

「ありがとう」
「まだあげてないんだけど」
「いや、そうなんだけどさ」

 嬉しそうに笑う夫の姿に、私もつられて笑う。
 今年から恋人同士ではなくなった私と彼、これからは夫婦として時を刻むのだ。
 お茶を入れて二人で頂いたチョコレートを食べよう。
 来週は彼へのチョコとお返しのチョコを買わなくちゃね。