ショートショート~短い時間で  読める物語たち~



「ふぅん。それでそのあとはどうしたの?」

 腕を組み、こちらを突き放すような瞳で見つめる妻に俺は動揺してしまう。
 いつもは穏やかだからこそ、こういうときの妻は怖いのだ。
 じっと見つめられ、俺は正直に白状する。

「……飲み直そうってことで後輩の佐藤の家に行った」
「へぇ、気付かれないと思ってたんだ」
「う……いや、その……」

 どう考えてもこちらの分が悪い。
 飲み会の後に後輩に誘われ、家に行ったのは事実だ。
 これを浮気だと言われても仕方ないだろう。

 可愛い俺たちのリリとルルも、こちらをじっと見つめている。
 俺の浮気に一番先に気付いたのはリリである。
 ルルはまだ幼いため、よくわからないのだろう。
 純粋な目で俺と妻のやりとりを不思議そうに眺めている。

「……隠してもさ、匂いでわかっちゃうんだよ? どれだけリリが傷付いたと思うの?」

 それは十分、俺も気をつけた。
 佐藤の家でシャワーを借りた。……これを言ったら余計に怒られるのだろうか?
 その辺の感覚は俺は鈍い方だ。
 リリをぎゅっと抱きしめる妻。リリから俺に注がれる視線は冷たい。

「リリ……ごめんな?」

 俺は妻の腕の中のリリにそっと手を伸ばす。
 だが、リリはその腕で俺の手を拒絶する。



「みゃう!!」
「いってぇ! 今、爪立てたろ? リリ!」
「仕方ないでしょ? 他の猫の匂いをつけて帰ってきたんだから!」

 そう、愛猫のリリとルルがいるにもかかわらず、俺は後輩の佐藤の家に行った。
 最近、結婚した佐藤の家には可愛らしい猫がいるのだ。
 その誘惑に俺は勝てなかった。
 シャワーをお借りして匂いを消したはずだが、リリにはお見通しだったらしい。

「浮気者ー! ね、リリ」
「んみゃう」

 不服そうなリリは妻に抱かれ、部屋を出る。
 ルルもその後ろの後をとたとたと歩いて行ってしまう。
 浮気心を後悔しつつ、俺は酔い覚ましに水を飲む。
 明日の朝には機嫌を直してくれるだろうか? なにか、特別なおやつを用意することで許してくれるだろうか?
 浮気心の大きな代償に、俺は小さなため息を溢した。