「ふぁ~~……っ」
「夜更かしでもしたの?」
朝ごはんの時に盛大に欠伸する俺に、零時が驚いたように聞いてくる。
誰のせいで夜更かしする羽目になったと……!
いや、コイツのことが気になっていたなんて認めたくない。
「別に」
素っ気なく答える俺に、母さんが痛いところをついてくる。
「遅くまで絵を描いていたんじゃないの?」
「ちがっ」
それにその話題を出しちゃったら、俺が絵を描くのが好きだって零時に知られてしまう……!
恐る恐る先輩に視線を移すと、満面の笑みを浮かべていた。
大丈夫、だよね?
「誠吾って絵を描くんだね!」
やっぱりバレてるよね!
泣きたい……コイツにだけは知られたくなかった……。
でも母さんもいる手前、もう誤魔化しようもないので仕方なく会話を続けていく。
「そうだよ」
「何を描いてるの?」
「好きな漫画とかアニメとか……人とか色々」
「じゃあ将来は漫画家?」
「……なんでもいいじゃん。 ごちそうさまー」
とにかく話を切り上げたくて食事を切り上げ、急いで着替えて玄関へと駆け込む。
将来の夢とかまだ不確かなことまで話すほど、アイツに気を許しているわけじゃないから。
それに漫画家については、ようやくほんのり芽生えてきた大切な気持ちだった……これから自分の中で育てていきたいと思っていたから、まだ母さんにも聞かれたくない。
とにかく学校に行ってしまおうと靴を履いていると、そこに零時もバタバタとやって来る。
「誠吾~~一緒に行こう!」
「なっ……んで、お前と……!」
「いいから! 行って来まーす」
零時は有無を言わさず俺の腕を引き、ぐいぐい進んでいく。
「ちょっ……行って来ます!」
半分引きずられるように家を出て、道路まで出るとようやく零時が腕を離した。
なんだったんだろう……不思議に思いながらも乱れた制服を整える。
「零時。 さっきのはなに?」
「ごめんね、腕痛かった?」
本気で心配しているような顔……に見える。
いや、俺は誤魔化されない。
「腕はなんとも。 それよりあんたの様子がおかしかったから」
聞いてから後悔する。
どうせ茶化したり誤魔化したりされるのに、先輩が話すはずがない。
そう思っていたのに——歩きながら聞いてみると、真面目な話を先輩がし始めたのだった。
「母さんがさ、僕たちのこと気にしてるから」
「俺たち?」
「うん。 僕と零時が仲良くなれるのかってことを気にしてると思う」
零時は申し訳なさそうな顔をこちらに向けながら話す。
俺はどう答えていいか分からず、目の前の人物の顔を見つめた。
極力母さんが悲しまないようにと思って零時と険悪なところを見せないようにと思ってきたけど、先輩も気にしていたなんて思わなかった。
朝食の時、俺は夢について話してきた先輩を素っ気ない態度であしらった。
まさか——。
「もしかして、それで俺たちが仲良く見せる為に一緒に登校しようって言ったの……?」
俺の言葉に零時はゆっくりと頷く。
驚いた。
何も考えないで我が道をゆく人間かと思っていた。
まさか今までの態度も全部、母さんの不安を払拭する為にしてきたことなの?
そういえば零時が母さんのことを「母さん」と呼んでいるのを初めて聞いたかもしれない。
そうか、先輩は全部覚悟して家族になったんだ。
こういう事も全部予想して……俺は自分が酷く幼く感じ、物凄く恥ずかしい気持ちに襲われる。
母さんのことを考えながらも零時への嫌悪感が先立ち、容赦なく振り回してくる先輩へのイライラを隠し切れずに、逆に母さんを不安にさせていた。
先輩にフォローされるなんて——全然覚悟が足りなかったのは俺の方だ。
初めて目の前の人物が「兄」に見える。
「凄いね。 そこまで考えて行動していたなんて」
「え! そ、そんなことないよ……!」
「俺もあんたを見習わないとだな」
「誠吾……好き!!」
「俺は嫌い」
「そんな~~!」
「ははっ」
零時は褒めるとすぐに調子に乗るし、軽い言葉をぽんぽん言うし、強引で信用ならない。
でも家族を大切に想う気持ちは本物のように感じた。
何より母さんの気持ちを考えてくれたのが……やっぱり田辺さんの息子なんだなって思う。
小学校の時のことをなかった事にはできないけど、前ほどの嫌悪感はなくなっていた。
でも学校に着くなり零時の取り巻きに囲まれ、その取り巻きたちが「仲良いんじゃん~~」とか言いながら揶揄ってくる。
「仲良くありません」
母さんはいないし、否定してもいいよね。
「誠吾! さっき愛を確かめ合ったばかりなのに……!」
「「きゃ——っ」」
は……?
愛?
何を言ってんの、この人?!!!
「誤解を招く言い方はやめてよ! やっぱり零時なんて嫌いだ——!!」
あまりにも恥ずかしい言葉を言われ、子供みたいな捨て台詞を言いながら走って自分の教室まで全力ダッシュをした。
もう関わりたくない会いたくない話したくない——!!
「真! 助けて!!」
「朝からハードだな」
「聞いてよ、零時のヤツ……!!」
少し心を開いてもいいかなと思ったら、やっぱりヤバいヤツで心を閉いたのを後悔するの繰り返し。
せっかく母さんへの配慮を聞いた時は大人で、カッコいいとすら思ったのに。
ほんの少し、この人が兄で良かったかもしれないとすら思ったのに。
絶対このことは言ってあげない!
「もうヤダ。 兄弟やめたい」
「ご愁傷様」
机に突っ伏して嘆く俺の頭を撫でながらも、真にも冷たくあしらわれてしまう。
くそ……俺はずっとアイツに振り回されっぱなしなのか?!
その日から俺と零時は、上級生から兄弟愛溢れる2人という認識をされ、俺がどんなに冷たい態度をしても「人前だから照れてるだけ」という風に思われるようになったという。

