「んん……」
なんだか温かいな。
今は夏が近いから部屋が温かいせいかもしれない。
この温もりを離したくない……ポカポカ気持ちいい。
しかもいい匂いがする。
あまりに安心する匂いに頬を摺り寄せた。
触り心地も気持ちいい……これ、夢だよな?
でも圭吾の匂いじゃないな。
自分の枕の匂いでもない…………ん?
何の匂いだ?
ようやく頭がはっきりしてきて、重い瞼を擦りながら目を開いていった。
するとそこには、綺麗な寝顔が——。
「え……せん、ぱい…………?」
?!!!!
しかもよく見たら自分から抱きついてる?!!
な……っ、え、え……んえぇぇぇええ?!!
なんとか大声を出さないようにしたけど変な汗止まらないし、あまりに恥ずかしくて震えて動けないし、しばらく思考が停止したままフリーズしてしまう。
昨夜はどうやって眠ったっけ……思い出せ、俺……!!
だめだ、頭が真っ白で……自分を落ち着かせようと深呼吸を繰り返す。
すぅ————はぁ————……っ。
これじゃまるで先輩の匂いを嗅いでるみたいだ……!
チラリと先輩の寝顔へと視線を移した。
よかった……まだ起きてないことにホッと胸を撫でおろす。
相変わらず綺麗な顔だな。
初めて見たときもそう思ったっけ。
綺麗なサラサラの黒髪、形の良い鼻、肌もすべすべ……触ってみたいくらい。
これで陽キャなんだからモテるよね。
でも先輩は……俺のこと、嫌いだったんじゃないの?
ずっと避けられ続けたし、俺の存在自体迷惑だったんじゃなかったの……?
そんな事を考えてボーっとしているうちに、先輩の瞼がピクッと反応し、ゆっくりと開いてくる。
「ん……あ、誠吾ぉ。 はよ」
寝ぼけているのか眩しさが100倍増した笑顔を見せた後、思い切り頭を抱き締められてしまう。
吸い込んだ空気に先輩の匂いがいっぱいで、何が起こっているのか頭が働かない。
「ちょ……っ、はなっ……!」
「ん~~……誠吾あったかぁ……」
?!!!
もう訳が分からず、手足をバタつかせることしかできない。
何でこんなことに……?!
圭吾と俺と先輩の3人で人生ゲームをやった後、疲れ切って風呂に入って……長風呂のせいで少しのぼせてしまったからリビングで水分補給したあと…………まさか……。
勢いよく顔をあげると、やはりこの部屋は先輩の部屋だったのだ。
なんてことだ……ボーっとしてたし、疲れてたしで部屋間違えるとか……!!
この部屋はもともと客間で、たまに気分転換に昼寝したりしていたこともあって、自然と入ってしまった——。
「あ、あの! 部屋間違えました!」
「んー? 間違えてないよ。 まだ早いし一緒に寝よう~」
「いや、戻ります!!」
何とかこの腕からすり抜けようとするも、先輩の腕ががっちりと俺を抱き締めていて、力が強すぎるし全然無理!
身を捩る俺、さらに腕の力を強める先輩との攻防戦になっていく。
「いや、先輩力強すぎですから……っ!」
「誠吾。 名前、敬語、戻ってる」
「うっ……」
もう完全に起きてるでしょうが!
こんな時だけ真顔になるとか……でもまったく放してくれなさそうなので、観念して言葉遣いを直したのだった。
「零時……離してくれ」
「よくできました」
パッと腕が離れ、顔を見上げると、目の前の先輩は満面の笑みを浮かべて満足げだ。
そんなに名前呼びが良かった……のか?
「零時……」
「ん?」
試しにもう一回名前を呟いてみたけど、すぐに後悔する。
物凄くまた呼んでほしそうだ。
その表情に——なんだかムズムズする。
「呼んだだけ。 部屋に戻る」
「ええ~~もう?!」
「当たり前だ。 だいたい零時の方が後に風呂に入ったのに……起こさなかっただろ!」
「バレたか」
「~~~~ッ!」
やっぱりか……おかしいと思った。
風呂の順番はいつも俺の方が先だから、零時が戻ってきた時に俺が寝てたはずだ。
そのままにして一緒に寝るとか……何考えてんの?!
早く自室に戻らないとと思い、布団からスルリと抜け出して扉へと向かう。
ここに長いしたら危険だ——。
後ろから聞こえる零時の声は、もういつもの軽い調子に戻っていた。
「誠吾~~~」
「……今日も学校だろ。 また後でな」
「……うん」
返事を聞く前に扉を開け、無遠慮に閉めた。
まだ6時……学校の準備をするには時間が早かったので二度寝しようとしたけど、さっきまでの温かさを知っているので、なんだか肌寒い気がしてなかなか寝付けない。
「はぁ……やってしまった」
さっきの出来事をあまり思い出したくなくて、布団にくるまった。
でもなぜだか思い出したくないことほど頭に浮かんでくる————二回目に名前を呼んだ時のアイツの顔。
酷く甘さを帯びている気がして直視できなかった。
同時に自分の顔が熱くて……なんで一緒に寝ようとするんだよ。
アイツが何を考えているのか分からなくて、頭も心も混乱する。
俺の平和が脅かされる気がして落ち着かない。
結局あのまま頭が冴えて眠れなかったので、そのまま準備して学校に行く羽目になったのだった。

