その日から放課後は美術部に寄り、夕飯ギリギリに帰る生活が始まった。
この放課後が一番安心して過ごせる時間で、充実した日々——。
と言いたいところだけど、家に帰ったら先輩からの仲良くしようの圧が凄くて、俺の神経は磨り減るばかりだった。
というのも本当に距離が近くて、俺を徹底的に甘やかそうとしてくる。
昨夜の夕食時も——。
「誠吾、ご飯おかわりする?」
「え、いや……」
「僕がよそってあげるよ」
俺の米がなくなりそうになると、わざわざ先輩がおかわりを聞いてくるのだ。
おかずを最後に残しているだけなんだけど、米が大好きだと思われているんだろうか。
でもよそってもらって食べないわけにもいかない……。
残したら母さんが怒り狂うから。
そこへ圭吾が元気に声をあげる。
「れいじ兄ちゃん、ぼくも!」
「OK~~どのくらい食べる?」
「うんとね~……」
そんな兄弟たちのやり取りを見て、母さんが嬉しそうに笑っていた。
だから余計に嫌な顔をすることもできない。
……分かっていてやってる気がする。
恨めしそうな視線を送る俺に、おかわりをよそった先輩が眩しい笑顔を見せながらやってきて、
「はい、誠吾のだよ」
ま、まぶし……っ!!
小学校の時は周りの人間に対してもこんな表情を見たこともなかったのに、兄弟になったからってこんなに変われるものなの?
笑顔を向けられる度に複雑な気持ちが積もっていく。
でも母さんの前では我慢だ。
「あ、ありがと……」
「どういたしまして!」
なんだよ……やっぱりこの顔を見ると顔が熱くなるし心臓のあたりが苦しくなるから、そんな顔を向けないでほしいんだけど。
「熱い……」
「大丈夫? 炊き立てだから熱いんじゃない?」
熱いのは米じゃないけど、あえて先輩の言葉を否定しなかった。
なんでこんなに優しいんだよ。
ずっと……俺のことを避けていたくせに。
でもこれはまだ序章で、とある日は「はい、あーん」とか言いながら自分のおかずを分け与えてくる。
あまりに自然にやってくるのが悔しくて、そのまま食べてやったっけ。
圭吾にはやらないのに。
俺って餌付けされてるのか……?
そしてとある日は、リビングで先輩と圭吾が人生ゲームで遊んでいる中に無理やり引きこまれたり。
「兄ちゃんもあそぼ——!」
「誠吾も遊ぼう~~!」
くそっ……圭吾が可愛い!
先輩は弟の真似するの止めてくれ!
圭吾に言われたら俺が断れないのを分かって言っているのが質が悪い。
「兄ちゃん、早く~!」
「はいはい」
俺もたいがいチョロすぎだな……でも圭吾に言われたら仕方ない。
弟は父さんの顔を覚えていないから、ずっと俺が遊んでやっていた。
まだ自力で歩けるようになったばかりの年齢から……父親がいなくて寂しい時もあっただろうけど、今のところ弟は真っすぐに育っている。
母さんは働いて生活を維持していくことでいっぱいいっぱいだったし、俺が圭吾のそばに寄り添ってやりたかった。
その気持ちは今も変わらない。
だから弟が新しい家族ができて嬉しそうなのは俺も嬉しい。
嬉しい……はずなのに。
先輩と圭吾が仲が良いと妙にモヤるんだよな。
可愛い弟が取られたような気がするんだろうか。
高校生にもなって何言ってんだろ、俺——。
よく分からない自分の気持ちに蓋をして2人の中に交じって人生ゲームをした。
でも結局先輩や圭吾は超金持ちでバラ色の人生になったのに、俺だけド貧乏になって借金生活で終了したという。
二人から哀れみの目を向けられ、やらなきゃ良かったと後悔まみれになったのは言うまでもない。
その頃には田辺さんも帰ってきていて、大いに笑われてしまう。
でも、まぁ……母さんたちもみんなが楽しそうだからいっか。
こんな風に家族団らんするのも悪くないなって。
そう思っていたのに。
翌日目覚めた時、昨夜の自分を酷く後悔することになる——。
まさか隣りに先輩の温もりを感じて目覚めることになるとは、思ってもいなかったのだ。

