「誠吾!!!」
扉が開いた瞬間、真っ先に零時が飛び込んできて、俺を抑え込んでる男たちを突き飛ばし、俺を抱きしめてくれた。
「零時……零時……っ!」
一時は怒りに燃えていたけど、今になって恐怖がよみがえってきて、気付けば大好きな温もりに縋り付いていた。
この腕の中では何も心配しなくていい。
そう思えるから——。
そして後から入ってきた先生方は零時からも説明を受け、すぐにヤンキーたちを連行していった。
連行されていく彼らを見て、ようやく危機が去ったんだと胸を撫でおろす。
そこへ真もやってきて、心配そうに顔を覗き込んできた。
「誠吾……大丈夫か?」
「真も来てくれたのか。 ありがと……そうだ、食材をクラスに持って行ってほしいんだ」
「……分かった」
「誠吾は保健室に行こう。 腕に擦り傷あるし」
「ん……分かった」
俺もクラスに戻らなきゃって思ったけど、少し落ち着いてから戻りたかったから、保健室にって言われてホッとする。
でもそれも束の間。
やはり距離感ゼロの兄に軽々と抱き上げられ、お姫様抱っこをされてしまう。
「ちょっ……零時!!」
「わー」
真は無表情で実に気のない声を出し、驚いたフリをしている。
それがなんだか余計に気恥ずかしい……!
「自分で歩けるって!」
「ダメ。 しっかり摑まってて。 じゃあ真くん、よろしくね」
「はいー」
真の返事を待つ時間も惜しいと言わんばかりに足早に歩きだした零時——。
俺はというと、こんなことをされているのを誰かに見られたくなくて、零時の服に顔を埋めるしかなかった。
それに今、自分の顔が真っ赤である自信がある。
お姫様抱っこされている自分よりも、こんな顔をしている自分を見られたくない。
周りの人間にも。
零時にも——。
保健室は一階なので割とすぐに到着し、扉を開くとそこには誰の気配もなかった。
養護教諭も不在で、心の底からホッとする。
零時は抱きかかえた俺を空いてるベッドへと連れて行き、そっと下した。
まるで宝物を扱うみたいで、胸がぎゅっと苦しくなる。
特に会話をするわけでもなく、零時は怪我をしている箇所をチェックし始めた。
「腕と……手首にも痕が……」
そう言われた時、押さえつけられた時の恐怖が襲ってきて手の震えが止まらなくなってしまうのだった。
「ごめんね……怖かったよね」
「俺……こんな見た目嫌だ…………真みたいに男らしかったら、こんな目に遭わなかったのに……っ」
知らずに涙が溢れてきて、せっかく化粧で綺麗にしてもらったのに、ぐちゃぐちゃになっていく。
クラスの皆が頑張ってくれたのに。
俺が頼んだ……少しでも意識してほしいと思って。
まさかこんな事が起きるなんて——。
「服もすぐに脱ぎたい……っ」
「ダメ」
「だって……っ」
「すごーく可愛いんだから。 もっとよく見せて」
「可愛い……? ほんとう?」
零時に可愛いって言われたくて頑張ったメイド姿……やっと可愛いって言ってくれた。
もはや悲しいのか嬉しいのかよく分からず、涙が次から次へと溢れて零れていく。
「ほんとう。 僕はいつでも本当のことしか言ってないよ。 こんなに震えて……可哀想に」
そう言いながら、両手首に付いている痕や額、頬、腕の傷跡、瞼にキスをしてくる零時。
そのすべてが嬉しくて、心臓が痛いほどに高鳴っていく。
やがて彼の両手が俺の頬を優しく包み込み、自然と唇が重なっていった。
まるでそれが必然であったように。
ピタリと重なり、溶け合うように。
この時間がずっと続けばいいのに……そう思ったけれど、やがて名残惜しさを残しながら離れた唇は熱を帯び、吐息まで沸騰しそうなほど熱い気がした。
「……なんで…………」
自分の口から出た絞り出すような言葉は消えてしまいそうだったけど、零時は聞き逃さず、いつもみたいに茶化すこともなく。
真剣な眼差しを向けて伝えてきた。
「さっきも言ったけど、僕はいつも本当のことしか言ってない。 君が好きって。 大好きだって」
「でもそれは……っ」
「シ——……」
言葉は彼の人差し指で遮られてしまう。
「アイツらにどこを触られた?」
その目はいつもの目じゃなくて、酷く熱を帯びているような気がして視線を逸らせない。
「どこも……太ももとか腰は触られたけど」
「ふーん」
途端に不機嫌な顔になり、腰を引き寄せられて太ももにキスをし始める。
「ちょ……っ、零時っ!」
それって……まるで上書きしているかのよう——。
お前は俺のものだって言われてるみたいで、動揺してしまう。
「やっぱり隙だらけだね。 こんなんじゃ心配だなぁ」
「……じゃあ、零時のものにしてよ」
一世一代の勇気を振り絞り、彼の胸に顔を埋めながら懇願した。
顔は見えないけど、零時が固まってる。
そりゃ困るよね。
兄弟だと思ってる相手にこんなこと……でももう兄弟は嫌だ。
零時だって好きって言ったんだから、俺を受け入れてよ——。
顔を上げるとそこには、見たこともないほど顔を赤くしている零時がいた。
「本気?! 僕のは兄弟としての気持ちじゃないよ?」
「こんなの冗談で言うわけないでしょ!」
「ふふっ。 そうだった、君はウソが下手だもんね」
「な……っ」
「し——……っ」
再度重なる唇……でもそれは兄弟がするものとは違う、深い深い口付けだった。
まるでそこから愛が注ぎ込まれているように感じて、心も体も満たされていく。
今度こそちゃんと伝えないと。
彼はいつでも伝えてくれていたんだから。
「…………好き」
ふいに離れた口から俺の言葉を聞いた零時は、深いため息を吐いて項垂れてしまう。
「はぁぁぁぁ…………僕も……ずっとずっと好きだったんだよ。 誠吾は全く信じてなかったけど」
「だって……っ、兄弟愛かと思ってたから! どうしてこんなに可愛がってくれるのかなとは思ってたけど」
あまりにも自然に、サラッと好きだって言うから。
さすがに恋愛的な意味で好きだとは思えなかった……恨めしそうな視線を向けると、零時の方は勝ち誇ったような顔をこちらに向けてくる。
「さすがにもう信じた?」
「う……っ兄弟愛じゃないっていうのはよく分かった」
「よくできました。 これからは僕以外に触らせちゃダメだからね」
「……分かったよ」
「ホントかな~~あちこち痕つけないとダメなんじゃないかな」
「だ、大丈夫だからっ!」
この兄は何を言い出すのかと思ったら……!
慌てて制するも、あちこちキスしようとする零時。
自分はとんでもない執着モンスターに好きと言ってしまったのではと思い、ドキドキが止まらない。
こんな風に誰かを好きなったのも初めてだから……この様子だと、俺の初恋だとは言えないな。
でも覚悟を決めるしかない。
腹を括り、零時の服を引っ張って自分から触れるだけのキスをする。
「俺もちゃんと好きだから! よろしくお願いします!」
「誠吾~~~好き好き大好き!」
「だからそういうのがダメだって……っ!!」
「ダメ?」
上目遣いで懇願してくる零時……この兄は俺が拒否できないのを分かってやっているんだろうな。
前なら好きなだけ「ダメ」って言えたのに。
「ダメ……じゃなぃ……」
「ふふっ。 愛してるよブラザー」
「最悪……でも最高のブラザーだよ」
そうしてまたキスを繰り返し、俺たちの関係は兄弟兼恋人へと変わっていったのだった——。
End

