一年生の階の一つ下は二年生の階で、そこに音楽室があり、一年生の学級プロジェクトで使う物は全部そこに置かれていた。
「一年三組は……っと…………」
沢山の物が置かれているので一つ一つ見て回ると、一番奥の方に「一年三組」と書かれたプレートが置かれている場所があった。
午後から着るメンバーのメイド服とかも置いてある。
食材類は冷蔵・冷凍庫か……おつまみプレートが人気だから唐揚げとかが減りやすいんだな。
おつまみプレートは唐揚げやポテトなど、つまめる揚げ物をのせてドレッシング類でプレートにゆるキャラを描いて提供する料理だ。
唐揚げやポテトなどは解凍すれば出せるし、調理する必要がなくて皆でつまめて美味しい。
家族連れでも食べられるから人気が出るのも分かる。
パフェやクレープなんかも解凍すればいい形だし、実質電子レンジなどがあれば調理しなければならないメニューはほとんどないので男子でも任せられる。
それに学校側がレンタル冷蔵・冷凍庫も用意してくれるので管理も簡単だ。
当然音楽室にも設けられ、庫内の一年三組保管場所にある食材類をチェックする。
「まだ半分くらいはあるから、午後も在庫は大丈夫そうだな」
持ってきたバッグの中に詰めていこうとバッグを下した瞬間、後ろから扉が開く音がしてきた。
他のクラスの人たちが来ていたら邪魔になると思い、後ろを振り向くと、そこには先ほどメイド喫茶にきていた金髪ヤンキーたちがぞろぞろと入ってきていたのだった。
「え…………」
なんで、という言葉が出る前に、金髪の男がこちらに向かいながら話し始めた。
「こんなところに子猫ちゃんが一人で迷い込んでいたとは」
その言葉を聞いて背筋がゾワッと粟立っていった。
冷蔵・冷凍庫があるのは音楽室の奥……扉は彼らの後ろだ。
このまま詰め寄られたら逃げ場がない。
「迷い込んだわけじゃなくて、食材を取りに来ただけです。 ここは一年生の学級プロジェクトで使う物を置くところですから」
「そうだった、そうだった」
「それじゃ……」
まだバッグに全部入れてないけど、なんだか雰囲気が危ない気がする。
危険信号が鳴っている感じがして、とにかくその場を離れようとした。
その瞬間、ピアス痕が沢山ある男に腕をガッチリつかまれてしまうのだった。
向こうの方が力が強くて、まったく振りほどけない。
「あの! 今急いでいるんで……!」
「少しくらい俺らに付き合えよ」「可愛いね~」「アイツがブラコンなのも分かるな」
周りのヤンキーたちの目が変な感じがする……みんなニヤニヤしていて、俺の髪の毛やフリルをいじり始めた。
「大きな声を出しますよ」
ここは学校だし、他のクラスの人だってやってくる。
二年生だって一般の人だってこの階には沢山いるんだから、大丈夫だ。
そう思っていたけど……金髪の男とロン毛の男から、そんな俺の思いを打ち砕くような言葉が返ってきた。
「声出してもいいけど? ここは音楽室だし、一応防音だからなぁ」
「それに鍵閉めちゃったし」
「え…………そんな……」
ここの鍵の場所を知っているのは先生だけだし、内側からかけちゃったら誰も入ってこられないじゃないか……っ!
それに俺の声も届かないなんて……絶望的な状況に、一瞬クラっとしてしまう。
「その表情、最高にそそるな」
舌なめずりをしている目の前の男に全身が粟立っていく。
「離せ……!!」
「つれないな~~。 まぁ、皆が来る頃には全部終わってるから安心しろ」
この人は何を言ってるんだろう——。
言葉の意味を理解できずにいると、腕をグンと引き寄せられ、気付けば床に押し倒されていた。
「本当に女にしか見えねーな」
「ちゃんと押さえとけよ」
男の手が太ももを伝い、フリルの沢山付いてるスカートを押し上げていく。
あまりにも気持ち悪くて抵抗したいけど両手が抑えられ、ビクともしない。
「やめろっ!!」
「この状況でやめろと言われてやめるヤツはいねーだろ。 田辺ならやめそうだけど。 チェリーボーイだろうし」
「「ははっ」」
は…………?
零時は優しいから、こんな無理矢理なことは天地がひっくり返ってもしないし、あの人を馬鹿にするなんて許せない……。
この状況への恐怖や気持ち悪さで絶望的な気持ちになっていたけど、今の俺はただただ怒りに燃えていた。
零時をバカにする奴は絶対に許さない……!!
「ふざけんな!!!」
思い切り振り上げた足が、見事急所にクリーンヒットする。
驚いたヤンキー仲間の手が緩み、両手が解放されたのですぐに立ち上がり、痛みで転がる金髪ヤンキーに向かって宣言した。
「お前たちみたいな人間が零時に敵うわけないだろ!! 俺の兄貴は世界一なんだから!!!」
「バーカ、バーカ」とあっかんべーをして扉の方へ振り返った。
後ろから「ふざけやがって!!」という声が聞こえてきたので、とにかく全力で走ろうとした瞬間、扉がガチャガチャする音が聞こえてきたのだった。
そして扉の外から俺を呼ぶ大好きな声が聞こえてくる。
最初は鬱陶しくて呼ばれることも嫌だった声。
でも今は一番安心する愛おしい声——。
やっぱり来てくれた……!!
歓喜で溢れる気持ちを抑えながら、全力で叫ぶ。
「零時————!!!!!」
必死に手を伸ばしたけどその手は空を切り、また男たちに引き寄せられてしまう。
でももう大丈夫だ……あの人が気付いてくれたから——。
この階には職員室もある。
案の定あまり間を置かずに扉は開かれ、そこには零時の他に真や先生たちもいて、間一髪で事なきを得たのだった。

