みんなで前夜祭の発表のためのダンスや学級プロジェクトの準備を頑張り、いよいよ学校祭が開幕した。
前夜祭では各クラスがダンスや舞踊、合唱、ライブなど、様々な発表がなされる。
俺のクラスはダンスで、〇イケル・ジャクソンのフリラーを皆で踊った。
ゾンビの恰好は安上がりで用意しやすかったので、ダンスに時間を費やすことができたため、なかなかの仕上がりだったと思う。
有名な曲だったのもあり、大いに盛り上がった。
零時のクラスはライブ。
ボーカルはやっぱり零時で……凄くカッコよかった。
推しになってウチワとか持って応援したかったくらいに……歌もめちゃくちゃ上手いなんて反則。
家に帰ったら「誠吾~~~」って走ってきていつも通りの零時に、ライブでのカッコよさは全く消えてしまっていたけど。
学校祭二日目は学級プロジェクトが目玉。
この日のために体毛も処理し、完璧に仕上げるべく準備は万端だ。
「戸柱くん、肌の艶が前以上にすごいね……」
クラスの衣装係の女子である伊藤さんに褒められ、表情が緩んでしまう。
「せっかくだから、しっかり役割を全うしたいなって」
「あははっ。 真面目なんだね~。 おかげでお化粧のノリが凄くいいから助かる」
「女子にしか見えないようにお願い」
「おけ。 任せて!」
こんなことお願いする男子は俺くらいだろうと思う。
でもそのくらい、今日は気合が入っていた。
前回は零時にあんまり見てもらえなかったどころかジャージも着せられてしまい、可愛いって言ってもらえなかったのがかなりショックだったから。
零時なら言ってくれるって思ってるのも恥ずかしいんだけど……でもきっとあの人なら褒めてくれると思うから。
すべてを衣装係の人たちに任せ、セットしてもらうこと30分。
「できた! 完成~~」
「おおお! 凄い!! ありがとう、衣装係のみんな!」
「素材がいいからだよ~~」
伊藤さんがとてもありがたい言葉を言ってくれて、鏡に映っている自分をまじまじと見るけど、本当に自分なのかっていうくらいメイドだった。
化粧も前回よりも気合が入っている気がする……濃いとかじゃなくて、ナチュラルなんだけどメイドっぽい感じ。
俺ってまつ毛長かったんだ。
化粧をするとそんなところまで気が付くとは。
早く見せたいな……あの人はどんな顔をするかな。
奥の方で真もメイド服を着て化粧をしていたけど、着終わった誠はクラスの男子の中に交じり、「俺と付き合いたいやつは?」って今回も真顔で聞いていて、みんなに大爆笑されていたのだった。
真って面白いやつだったんだな。
こうしてメイド喫茶は無事にオープン!
朝から一般のお客さんも沢山来てくれて、大繁盛だ。
でも肝心の待ち人はまだ来ず…………お昼からお化け役やるって言ってたから早めに来ると思ってたんだけど。
10時30分を過ぎても来る気配がない。
だからといってこの恰好で零時のクラスに行く勇気はないし……仕方ないから待つしかないかと思った時、零時と同じクラスのガラの悪い金髪ヤンキーたちが4人でやってきたのだった。
前回のことがあったので、クラスにも緊張感が走っているのが分かる。
皆に迷惑はかけたくないし、自分からすすんで接客をしに行った。
もうすぐ零時も来るかもしれないし。
淡い期待を抱きながら——。
「いらっしゃいませー。 注文表はこちらになります」
「お、弟くんじゃん。 今日も一段とメイドにしか見えないね~」
開口一番に嫌味を言ってきたのは金髪ヤンキーの隣に座る、ピアス痕が沢山ある男だった。
少しは外して登校してるんだろうけど、痕の数だけでも凄い数。
俺だって気付いてるくせに白々しい。
でもお客さんだし心の声は顔には出さず、とにかく心を無にして接客に徹した。
「ありがとうございます。 ご注文が決まりましたらお呼びください」
「弟くんのおすすめは?」
金髪の男が聞いてくるので、とにかく解放されたくて色々とすすめてみた。
「当店おすすめは”にゃん太郎おつまみプレート”と”森のくまさんパフェ”になります。 プレートの方はゆるキャラが描かれるので可愛いですよ。 先輩方にぴったりかと」
「ははっ。 なんだそれ」
「じゃあ、それたのむわ」
「かしこまりました」
ちょっと嫌味を込めておススメしたんだけど……ゆるキャラでも見て少しは癒された方がいいのでは?という意味で。
でも以外にも普通の対応で、拍子抜けしてしまう。
注文を受けた俺がクラスの皆の元へ戻ると、棚橋さんたちや真も心配して声をかけてくれたのだった。
「戸柱くん、大丈夫?」
「うん……なんか全然大丈夫だった」
「誠吾はもうあの席に行かない方がいいよ」
「分かった」
皆が気遣ってくれるのが凄く嬉しいな……陰キャタイプだし、あまりクラスに馴染めているとは言えなかった俺だけど、学際を通じて皆と交流できて良かったなと感じていた。
メイド服を着る羽目になったけど。
着て良かったかな。
その後もヤンキーたちは大人しく注文したものを食べていて、クラスで暴れることもなく普通にメイド喫茶に溶け込んでいた。
クラスの緊張感も解けたころ、棚橋さんに足りなくなった食材を取りに行ってもらいたいと頼まれる。
「フルーツとホイップクリームがなくなってきちゃったので取ってきてもらってもいい?」
「おけ」
学級プロジェクトで使う食材類は音楽室に置いてあるので、クラスからは少し離れていた。
そんなに重いものもないだろうし、すぐに戻って来られるだろうと駆け足で取りに向かう。
母さんも午前中に来るって言ってたし、零時も来るから急いで戻らないと——。
俺の頭の中はそんなことでいっぱいで、好きな人のことを考えて胸がいっぱいだった。
早く会いたいな……この時の俺は相当浮かれていたため、密かに忍び寄る悪意があることに全く気付いていなかったのだった。

