「はぁぁぁぁ……気が重い…………」
昨日フタバで零時と話した内容を真に話しながら、机に突っ伏して愚痴をこぼす。
今は学活で学級プロジェクトで決まったメイド喫茶の準備をする時間に充てられていた。
女子は衣装を用意し、俺たち男子は教室の内装を担当する。
俺は真と、お花紙で作る花を飾り付け用に沢山作っていた。
手を動かしながらも愚痴が止まらない。
「まさかメイド服で回ることになるなんて……」
「俺は似合わないからギャグだと思われるだけだけど、誠吾は似合いそうだな」
「ぐぅ……っ」
「零時さんと並んだらヘタしたらカップルに見られるかもね」
「~~~~っ!」
自分でも女子に間違われることもあるから、似合ってしまうのではという予感はしているだけに真の言葉が突き刺さる。
カップル……カップルって!!
いっそメイド服を着てあの人に迫ってみようか……そうすれば少しは意識してもらえるだろうか、なんて考えてしまう。
兄弟のままでいようと決めたけど、どうせ迫ったところで両想いの可能性は小さいんだし。
零時の恋愛対象も同性だったらいいのになーなんて思いながらも、そんな奇跡はそうそう起きないのは分かってる。
そのくらいの抵抗、してもいいと思うんだよね。
「なんか逆にやる気出てきた!」
「おー」
「お前、本当にどうでもいいだろ」
「そんなことないよ」
気のない返事をする真にツッコミを入れていると、衣装を作成していた衣装リーダーの棚橋さんという眼鏡をかけた女子が声をかけてくる。
「戸柱くんと石田くん、ちょっと衣装の相談なんだけど」
「「ん?」」
「サイズを測りたいんだよね。 メイド服着る男子は君たち以外にも数人しかいないから今のうちに測っておきたくて」
「おけー」
棚橋さんの提案によりサイズを測ることになったんだけど、真は背が高いので女子では頭まで手が届かないらしく難航していた。
対して170cmに満たない俺は測りやすいらしくて、すいすい進んでいく。
そして俺のサイズが女子サイズでも良さそうということで、一着だけ仕上がっているのを着てみてほしいとお願いされてしまうのだった。
「ええ?! なんで俺?!! 女子の方がいいでしょ!」
「だって戸柱くん綺麗だから! みんな見てみたくて」
「なっ、え、いや、だからって……!」
「それに着てもらえたらサイズも分かりやすいし!」
「いや……えっと……」
返事に困っていると、後ろから真やクラスの男子に肩をたたかれ、皆が「着てやれ」という雰囲気を出してくるので断れなくなってしまう。
結局そのままフリルがたっぷりのワンピースを着ることになるのだった。
そして着るだけだと思ったのに、なぜか俺は化粧や髪までセットされている。
どういうこと?!!
「なぁ。 化粧まで必要なくない?」
棚橋さんに聞いても「何事も本番を意識しないと」と言われてしまう。
彼女は学級委員でもあるので、圧が凄いのだ。
頭にはフリフリのカチューシャまでセットされ、足はレースの透けたニーハイソックスを履き、ワンピースの上にはまたまたフリルがたっぷり付いたエプロン、背中にはリボンが……ワンピースも膝上10cm以上だし、めちゃくちゃスカスカする!!
体毛が薄くて良かった……処理してなくても大丈夫だったので、濃かったらヤバかった。
そんなことを思っていると完成したらしく、クラスの皆が拍手をしてくれる。
「「おおぉぉぉぉおお!!!」」
「お前だったら全然アリ!」「普通に付き合いたい」「女子力高っっ」
クラスの男子たちが嬉々としてそんなことを言ってくる。
俺の好きな人は同性だけど誰でもいいわけじゃない……!
「全然嬉しくないんだけど!」
「これはカップルにしか見えないな」
「真!!」
これを着て零時とまわるとか正気?!
でもこれだったら……零時もそういう意味で可愛いって思ってくれないかな。
弟としてじゃなくて。
そんな淡い期待を抱いてしまう自分がいる。
そこに真がクラスの皆に向かって、
「俺と付き合いたいとかいう猛者はいないの?」
と言いだした。
途端に皆が爆笑し、一気に話題をさらっていったのだった。
真でもそんな冗談言ったりするのか……と思っていたらこちらを見てウィンクするので、どうやら俺から話題を逸らすために言ってくれたらしい。
いい友人を持ったと胸が温かくなる。
クラスの皆でそんなやり取りを楽しくしていたところに、零時のクラスの人たちが廊下を通りがかり、彼らにメイド姿を見られてしまうのだった。
「零時の弟じゃね?」「可愛すぎる!」「女の子にしか見えない」
という声が聞こえてきて、顔に熱が集まってくる。
もしかして零時もいるのかな……あの人に見られるのは全然構わないんだけど。
そんなことを思いながらドキドキしていると、ガラの悪い人たちがクラスに入ってきたのだった。
「へぇ……田辺の弟、かーわいいじゃん」
髪が金髪で見るからにヤンキーな男が至近距離までやってきて、衣装を触ってくる。
どう見ても零時の友達とは言い難い雰囲気……むしろ零時のことを嫌ってそうな感じがする。
「な、中村くん! 下級生に絡んではいけません!」
「あ?」
「ひぃっ!!」
学級委員っぽい眼鏡をかけてヒョロッとした男が金髪ヤンキーに声をかけたけれど、呆気なく撃退されてしまう。
零時に恥をかかせたくないし、どうしようか——と迷っている間に髪を触ってきたり、手を握ってきたりするのでさすがに振り払おうとした。
次の瞬間。
「はいはい、ダメダメ!! 見るの禁止——!」
零時が声を張り上げながら人ごみをかき分けてやってきたのだった。
そして俺にジャージの上を羽織らせ、カチューシャも外し、すっかりメイド服は見られなくなってしまう。
「零時……」
「田辺、邪魔すんなよ」
「僕の弟に用がある時は僕を通してくれないとダメだよ、中村くん」
二人がにらみ合い、しばらくの間一触即発の雰囲気が続く。
どうなるかと思ったけど、不良たちは舌打ちしながら去って行ったのでホッと胸をなでおろした。
「なんでメイド服着てるの?」
「え……クラスの女子にサイズ測る為に着てほしいって」
「本番まで着るの禁止」
「ちょっ……仕方ない時もあるでしょ!」
「絶対だめ。 約束破ったらお化け役やらないから」
「ははっ。 なにそれ! ていうか着ないって約束してないし」
ハチャメチャなことを言ってる自覚がないくらい、頑として着てほしくないようだ。
本当は零時に可愛いって言ってもらいたかったんだけど……でも助けてくれた時はカッコよかったから良しとするか。
「と、とにかくダメだから!」
「分かったよ、お兄ちゃん」
せっかく可愛い服を着たんだからちょっとは意識しろと念を込めて、耳元で囁いた。
少し耳が赤くなっていたので胸がスッとしたところで、メイド服を着替えることにしたのだった。

