最悪なブラザー。~大嫌いだった先輩が、ひとつ屋根の下で兄弟になりました~


 中間テストの学年順位が発表され、真はなんと学年10位!

 零時は1位という結果に愕然とする。

 全然勉強している感じじゃなかったのに……!

 そして俺はというと……学年31位……チーン。

 まぁ、でも俺にしては頑張ったと思う。

 母さんも褒めてくれたし。

 零時の成績の前だと霞んでしまうけど……落ち込んでいる暇はなく、今度は学校祭の準備が始まってきたのだった。

 学活の時間に学級プロジェクトで何をやるかを決める話し合いが持たれ、俺のクラスはメイド喫茶に決まった。

 そして俺と真がメイドになることも……学校帰りにフタバカフェに寄り、零時に愚痴をこぼす俺——。


 「はぁぁぁぁ……なんでメイド喫茶なんだぁ…………」

 「ふふっ。 僕は楽しみで仕方ないけどね」

 「絶対面白がってるでしょ……」

 「そんなことないよ! 君のメイド姿が楽しみだなって……ふふふっ」

 「他人事だと思って」


 目の前の兄は俺のメイド姿を想像しているのか、物凄く表情が緩んでいた。

 バスケットボール部の一件以来、零時は俺を一人にするのを極力嫌がり、前以上にどこに行くにもついてくるようになった。

 過保護に拍車がかかったみたい。

 でも俺はそれを利用して、一緒にいられることを喜んでいる。

 あの一件で自分の気持ちを自覚してからというもの、離れがたいというか……突然態度を変えるのも変だし、今までみたいに憎まれ口をたたいたりするけど、前以上に一緒にいるような気がする。

 それこそ母さんも驚くほどに。

 髪を乾かしてもらうのも自然になったし。


 『二人とも、仲いいのね~~』


 なんて言って、ご機嫌だ。

 圭吾まで零時に甘えだしたのはびっくりだけど。


 『ぼくの髪もかわかしてよ、れいじ兄ちゃん!』

 『もちろんだよ。 おいで~~』

 『やったー!』


 天然の甘えっ子だからな、圭吾は。

 可愛い弟の姿にほっこりしつつ、そこは自分だけの場所だったのにという気持ちも湧いてくる。

 ダメだな……自覚すると独占欲まで酷い。

 これは一般的に言って、恋愛的な意味での「好き」なんだよね……?

 兄弟や友達に向けるものではないという自覚はある。

 誰かを好きになったことがなくて、自分の気持ちがイマイチ分からず……それに相手が同性というのも自分を不安にさせていた。

 まさかクラスの女子とかではなくて、小学校の男子の先輩に——。

 でも真とかクラスの男子にドキドキしたりはしないから、同性が好きというより単純に目の前のこの人……零時のことが好きなんだと思う。

 でも絶対に本人には言えないな。

 せっかく兄弟として仲良くしようとしてくれてるのに、俺がそれをぶち壊してしまうのだけは避けたいから。

 今はフタバで一緒にいられるだけでも嬉しいんだ。

 そんな事を考えながらストローを回していると、ふと零時のクラスの学級プロジェクトが何をするのか気になってくる。


 「零時のクラスは何をするの?」

 「僕のクラスはお化け屋敷だよ」

 「え! 零時もお化けになるの?!」

 「ん〜〜どうなんだろ? やってみたい気もするけど……」


 いつも綺麗で爽やかなオーラの零時が変な化粧してお化け……見てみたい!

 すっかり顔に出ていたのか、目の前の兄はニッコリと笑っている。
 

 「なんだか楽しそうだね、誠吾」

 「え?! いや、そんなことは……」

 「いいよ、誠吾が見たいならお化け役やるよ」

 「いいの?」

 「もちろん。 君のお願いだもん」


 う……っ、甘い……可愛い弟の頼みとか思ってるんだろうけど。

 物凄く甘いのに自分と零時の感情は違うから、複雑だ。

 でも特別扱いされてる感じはするから、知らずに顔が緩む。


 「へへっ。 ありがと」

 「その代わり僕のお願いも聞いてね」

 「え…………」


 物凄く嫌な予感がしたけど、こちらもお願いを聞いてもらった以上嫌とは言えない。

 笑みを絶やさない零時に恐る恐る聞いてみる。
 

 「どんなお願い?」

 「自由時間は一緒に行動してほしいんだ」

 「そんなことでいいの?」


 それなら俺も嬉しいし、一石二鳥じゃん!

 なんだ、そんなんでいいのかーって思ったのも束の間。

 天使のような笑顔を向ける男から、悪魔のような言葉が放たれた。


 「メイド服を着た誠吾と一緒に回れるの、楽しみだな~~」

 「は?!」

 「メイド喫茶の服装のままで回ろうね」

 「はあぁぁぁ?!!」


 確かに自由時間って好きな服装で回っていいんだけど……せっかく自由時間なのに、なんでメイド服でまわらなきゃいけないの?!!

 めちゃくちゃ嫌そうな顔をしている俺のことなどお構いなしに、鼻歌を歌っている零時。


 「絶対可愛いだろうな~~」

 
 どうしてもそこは譲れないらしく、何度交渉しても引かないので、仕方なく俺が折れることにした。

 零時は滅多にお願い言わないし、いつもお世話してくれて甘やかされている身としては、たまには彼に恩を返したい気持ちもある。

 それに……好きな人には少しでも喜んでもらいたいものだから。


 「仕方ないな。 着るよ」

 「誠吾~~~好き好き大好き!!」

 「だから、そういうのやめてよっ!」


 零時の”好き”と俺の”好き”は違う。

 いちいち傷ついたりしないんだ…そう思うけど、やっぱり胸が軋むんだよね。

 罪な男を好きになった自分を呪いつつ、とびきり可愛くなってやろうと密かに考えていたのだった。