水族館からの帰り道も、スーパーでも、家の中でも零時はご機嫌で、夕飯はさらに豪華なものがズラリと並んだ。
「す、すごい……」
「張り切って作りすぎちゃった。 まぁ明日母さんたちが帰ってきても作り置き沢山で喜ぶだろうし、大丈夫かなって」
「まぁそうだろうけど……」
テーブルには昨夜一緒に作った肉じゃがやコールスローに加え、豚の生姜焼きに小松菜のおひたし、味噌汁やマカロニサラダなどが並んでいる。
ここまで作れるとは思ってなかった……それなら昨日の夜も、何も料理できない俺が手伝った方が大変で、面倒だったに違いない。
でも嫌な顔するわけでもなく楽しそうにしていて、指を切った時も本気で心配してくれて——。
いいお兄ちゃんが過ぎる。
椅子に座り、感謝の気持ちを持ちながら両手を合わせた。
「いただきます!」
「どうぞ、召し上がれ~~」
そして食べていて気付いた。
どれも俺が好きなものばかりだ。
食材や味付けも……晩御飯の後はお風呂に入り、風呂上がりはドライヤーをかけてくれて俺の髪はどんどん艶々サラサラになっていく。
終わったらなぜか兄を背にしながら座って、テレビで映画鑑賞……おやつの準備もバッチリ。
こんなに完璧な兄がいていいのだろうか?!
そしてそれに甘んじている俺……大丈夫か?!!
普通におやつ食べてるし!
これが当たり前だと思うなと自分に言い聞かせるけど、年が近い普通の兄弟がどういうものかも分からないし、圭吾は年も離れているから同じように甘やかしてしまいそうで参考にならない。
でも無性に居心地がいい。
あまりに落ち着くのでだんだんと眠気が襲ってくる。
寝たらダメだと思いつつ、瞼がどんどん下がってきてしまう。
「む…………」
「誠吾、眠いの?」
「んー……ごめん……」
「じゃあ、今日もリビングで寝ようか」
「うん……」
いつもなら断るところだけれど、今日はそんな気力もなく……なんとか歯磨きを済ませて布団になだれ込んだ。
そういや歯磨きが終わったら布団も敷いてあったな。
零時が何もかも完璧すぎる。
そんなに頑張らなくてもいいのに。
「零時……そんなに頑張らなくても、俺はお前のこと……」
「うん?」
「…………あり、がとう……」
だめだ、伝えたいことは沢山あるのに起きていられない。
零時が頑張ろうとするのはあの時の罪悪感があるからなのでは、と思ってしまう。
そんなことしなくても俺はちゃんとお前のことを見ているし、色々と感謝しているし……兄として、家族として好きだから。
もう気にすんなって……伝えなきゃいけないのに——。
一緒に住むようになって気付いた。
零時は周りが思うよりもずっと繊細で、気遣い屋で、知らずに人を惹きつける魅力があるのに自分の価値はそうでもないと思っている。
どうしてそう思うのかは分からない。
母親がいないことが原因となっているのか。
詳しく聞いたこともないから……俺が深く関わるのを嫌がってたから、分からないのは当たり前なんだけど。
こんな風にさせているのは俺のせいだ。
ちゃんと伝えないと。
お前のことを大事に想ってるって。
この気持ちを深く考えたりはしてないけど、大切に思っているのは本当だ。
深い眠りに落ちていく刹那、零時の匂いを感じてすり寄っていった。
安心する匂い——。
やっと自分の気持ちを伝えようと思えたのに、それを阻む出来事があるなんて、この時の俺は思ってもいなかった。

